第23話 新たな火種
『決闘』とは学園が規定する生徒同士の私闘だ。
生徒間の不満や若さゆえの有り余る力を発散させるために作られたシステムで自分の力を誇示するため、面子を守るため、はたまた何かを賭けてなど様々な動機から行われる。
『決闘』の回数は若い学年ほど多くなる傾向にあるが、それでも入学早々に行われることは非常に少ない。
しかし――、
「どうしてこうなった?」
「「当然だ」」
腑に落ちない様子で首を傾げるジェイミーにジルとフェリックスは呆れた様子を見せた。
昼休みはとうに終わり現在は放課後。既に生徒たちが帰宅した教室にジェイミー、レア、レイチェル、ジル、フェリックスの五人が残って昼休みの件について話し合っていた。
「確かに面倒になって髪の毛を引っ張ったことは悪かったかもしれませんが、それ以外は特に――」
「では何なんだあの『謝ったら満足ですか ?』は。誰が見ても喧嘩を売っているようにしか思えないぞ」
「おれは穏便に済ませようとしただけです。ああいうのは頭を下げて自尊心を満たしてやれば満足するって知り合いが言っていました」
「穏便に済ませようとする奴が髪を引っ張った挙句張っ倒すか!」
「ジルさんそこまでにしてください。フレミングさんはわたしを守ってくれただけなので......」
そうレイチェルが庇うと大人しくジルは引き下がった。
「まあ……そうだな」
「すいません。わたしのせいで巻き込んでしまって」
「気にしないで結構です」
頭を下げるレイチェルに既視感を覚えつつジェイミーは答えた。
「でも、ガツンと言ったのはカッコ良かったぜレイチェルさん」
「あ、ありがとうございます……」
レイチェルのエコンズへの発言を褒めると続けてフェリックスはジェイミーへ問いかける。
「それで『決闘』はどうすんだ?」
「面倒なので断れるなら断りたいのですが」
「やめておいた方がいいぞ。『決闘』の申し出を断るのは周囲から臆病者と侮られるだけじゃなく相手に唾を吐くことと同義だ。そんなことをされてヤツが黙っているわけがない」
ヤツとはもちろんエコンズのことだ。
前者はどうでもいいが後者の懸念が無視出来ない以上、『決闘』を受ける以外の選択肢はない。
ジェイミーは諦めたように息を吐いた。
「あとさ、敬語はやめにしないか? レア様は別としてオレたち同級生なんだしよ。オレのことはフェリックスって呼んでくれよ。オレもジェイミーって呼ぶからさ。なっ! レイチェルさん」
「えっ? あっ、はい……わたしは全然構わないと思います……」
学園では爵位や身分の差は関係なく、皆平等と言うのが規則。それに則れば爵位が上のフェリックスに対等に接するのは何の問題もない。
ジェイミーとしては気乗りしないが、向こうがそれを求めているなら構わないだろう。
「……分かった。よろしくフェリックス」
「おうよジェイミー!」
それが嬉しかったのかフェリックスは屈託のない表情で嬉しそうに答えた。
「あの……『決闘』について質問なんですけど、プラインセズさんはわたしと……ジェイミーさんを相手に指名しました。これはわたしたち二人でプラインセズさんと戦うということでしょうか?」
「いや、『決闘』において対戦者の人数に差が出ることは禁止されている。レイチェルさんとそれが二人で出る以上向こうも二人で来るはずだ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
恐らくはあのフォロゾとか言う伯爵が共に出るだろう。
あと、ジルにそれ呼ばわりされたのは気になるが今は水に流しておくことにした。
「そもそも『決闘』って何をするんですか? やっぱり戦うんですか?」
「それは色々形式があるみたいよ。当人同士が戦うこともあれば、魔獣の討伐数を競ったり、霊薬や魔法液薬の生成の早さを競うみたいに」
「ありがとうございます……ってどうしてレア様も砕けた口調に?」
「フェリックスが言っていたでしょう? 敬語はやめないかって。 私のこともレアちゃんって呼んでくれていいのよ」
「レア様あ⁉︎」
「そ、それは許してくださいぃ……」
レアのまさかの提案にジルは素っ頓狂な声を上げ、レイチェルは風船が萎んでゆくようにへなへなと頭を下げ懇願した。
「ではおれはこれで。失礼します」
「待て。どこへ行くつもりだ」
立ち上がり教室を去ろうとするジェイミーをジルが引き止める。
「帰るんですよ。それ以外何か?」
「まだ話し合いは終わっていないぞ」
「話し合うことなんてないな」
そう言い切るとカバンを持ち上げ背を向ける。
『決闘』が回避出来ないと分かった以上ここにいる意味はない。
『決闘』が行われる日をただ待つだけだ。
「癪だが奴らは強いぞ。レイチェルさんと対応を考え――」
「『決闘』の内容も決まっていないのに対応も何もあったものじゃないだろ。それにどんな内容が来ようともおれが負ける可能性は万に一つもあり得ないな」
「傲慢だな。確かにお前はそこそこやるようだがそれでも負ける可能性は――」
「ない。おれ一人でも勝てる」
対面した時のエコンズとフォロゾの雰囲気、性格、言葉遣い、足の運び方などあらゆる情報から二人の強さは大方読み取れた。学生にしては優秀だが、自分の足元にも及ばない。負けるなど天地がひっくり返ってもあり得ないと断言出来る。《数秘術》を使うまでもなく分かる簡単なことだった。
だが、ジルは納得しないようで――、
「気に入らないな」
「きみが気に入るかいらないかはどうでもいい。それより何で口を出してくる? きみはこの件には無関係なはずだ」
「お前のことはどうでもいい。だが、レイチェルさんはレア様のご学友だ。何かあっては――」
「主人の機嫌を取ることが護衛の任務なのか?」
「何?」
ジルの声のトーンが一段落ちる。
「ジル落ち着け」
そう言いながらもフェリックスは半ば「駄目だな」と諦めていた。
「護衛の仕事は主人の身の安全を常に第一として考え立ち回ることでそれ以外は不要だ。機嫌を取るだけなら愛玩動物でも出来ることだからな。そんな風に余計なことをいちいち考えているから護衛として満足な役割を果たせていないんじゃないのか? 今朝の一件も本来はきみが対処すべきことで――」
「おい貴様」
抑揚のなくなったジルの声がジェイミーの言葉を遮った。
そのまま続けることも出来たがそれをしたところで結果は変わらない。だったら無駄な労力を使わないことにした。
「それ以上何か言ったらお前を殺す」
「ジルやめなさい」
今度はレアが制止の言葉をかけるもジルは止まらない。
「申し訳ございませんレア様止めないでください。これは私のプライドに関わる問題です」
そして冷たい怒りを宿したまま啖呵を切る。
「今すぐ訓練場へ行くぞ。そこでお前を叩きのめしてやる」
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