第18話 学園再開
お待たせしました。
ようやくジェイミーの学園生活がスタートします。
学園襲撃から十日が経った。
当日いた生徒全員の無事が確認され、襲撃者も二名を除いた全員が確保。そして襲撃を招いたとして学園長が解任されたものの事件自体は未だ不透明な部分が多く、完全解決と言える状態には至っていない。
だが、いつまでも学園の運営を停滞させたままではいられなかった。
授業のスケジュールが遅れるだとか、巨額の資金が投じられているとかではなく面子の問題だ。
学園がいつまでも再開されなければ襲撃事件の影響がそれだけ大きかったと印象付けてしまい、「テロに屈した」と受け取られ批判を浴びることになるかもしれない。
そうなる前に学園は健在だということを世間へアピールする必要があった。
例えそれが見せかけであっても。
そのような政治的事情から未だ不安が渦巻く中で延期されていた入学式が行われることになった。
無論、同じ轍を踏まぬよう過剰とも言える重警備がなされた上で。
「――よって貴君らが魔法学園の生徒であるという自覚を持ち、我が国の魔導師としてその未来を担うことを――」
壇上で祝辞を述べるのは副学園長。学園長のポストが未だ空席であるため、適任者が見つかるまで彼が学園長の職務を代行することになった。
順当にいけば繰り上がりで副学園長が次の学園長になってもおかしくはないが、前学園長の不祥事で学園自体に厳しい目が向けられているため、人選には慎重になる必要がある。魔法省が今も適格な人物を血眼になって探しているだろう。
そんな上層部の心労を推し測りながらジェイミーは退屈げに副学園長の言葉を聞く生徒たちを観察する。
十日前とは違い新入生百六十人全員が揃っており、あんな目に遭いながら入学を取り止めた者が一人も出なかったことを少し意外に感じると同時に当然かと納得してもいた。
理由は主に二つ。
その一は単純に魔法学園へ入学する旨みが大きいこと。
創立十一年と歴史こそ浅いが帝立魔法学園が世界有数の魔法機関であることは疑いようがなく、少なくともこの国においては学園を卒業することが魔導師として大成する上で一番確実な方法だ。
加えて新入生諸君は皆、高倍率の難試験を勝ち抜いた上でこの場に立っている。ここに至るまでに多大な努力、大金をかけてきたことは想像するに難くない。中には家や親の期待を背負っている者も多いだろう。
それ故にこれまでの苦労を思えれば学園が襲撃者に占拠されたくらいでなんだと考えても何らおかしくはない。
特に今期の倍率は高かったと聞いている。その気位は他の期生に比べても高いだろう。
そしてその原因が二つ目の理由にも繋がってくる。
「――――」
ジェイミーが視線をこの場で最も注目を集める人物に向ける。
言うまでもなくそれは『白雪皇女』レア。当然、アーノルドが成り変わった影武者などではなく、本物である。
彼女こそが理由その二だ。
シオン帝国で絶対的な権限を持つ皇帝レイの娘であるレアに取り入り、そのおこぼれを預かりたいと思う者は多い。本人は興味がなくともその親が望んでいるというパターンもあるだろう。
中には強欲に夫の座を狙っている者もいるはずだ。
ちなみに婚約者を探したり、親が権力者の生徒に取り入ったり、派閥を形成しようとしたりすることは魔法学園で慣習化しつつあることでレアが入学してきたのがきっかけで始まろうとしているわけではない。
学び舎であるはずの学園が権謀術数の戦場になっていることを批判する声もあるそうだが、若い頃から自らの地盤を固めるのは将来出世するためには必要だとの上流階級出身者の強い主張で半ば黙認されている状態だという。
まあ、自分には関係ないことかとジェイミーはその考えを頭の隅に追いやった。
そして副学園長の祝辞が終わり、次の式事へ移る。
「続いて感謝状の授与を行います。レイチェル・ライダー、前へ」
「は、はい!」
名前を呼ばれたレイチェルが強張った返事ともに壇上へ向かってゆく。
これは当然十日前までは予定されていなかったイベントだ。
「貴君は学生のみであるにも関わらず己の命を賭して戦い、事態の収束に動いたことをここに表彰する」
副学園長から賞状を受け取るレイチェル。その姿に万雷の拍手が浴びせられた。
この入学式には魔法省職員をはじめとした学園外の関係者も多く出席している。
そんな彼らへ学園側は目に分かる形で学園の健在をアピールしたかったのだろう。
そんな思案の結果がレイチェルへの簡易的な表彰式というわけだ。
レイチェル本人は「自分は直接の貢献はしていない」と賞状の授与を拒んでいたらしいが、副学園長の度重なる説得に折れる形で引き受けたらしい。
周囲に合わせ、手を叩いていたジェイミーだったが、中にはそれを拒むように直立不動のままの生徒がちらほら見受けられる。
そういった生徒らに挙げられる共通点はある程度地位のある家柄の出身であること、そして壇上へ嫉妬の目を向けていることだ。
彼らからすれば平民出身のレイチェルが自分たちを差し置いて讃えられていることが気に食わないのだろう。
こうなることも学園側はある程度分かっていたはずだが、何故ベルンハルトらをはじめとした教師陣にやらせなかったのか。
大体予想はつくがむさ苦しいおっさんよりも年若く見目麗しい少女が戦ったとアピールする方が受けがいいだろうという安直な考えだとジェイミーは確信していた。
(これが余計な火種を生まなければいいが……)
そんな杞憂を覚えながらジェイミーは肩の荷が降りた表情で壇上を下りてゆくレイチェルを見ていた。
◇
入学式が終わり、レアが馬車に乗って王都へ帰ったことを確認したジェイミーはその足で今後の四年間、自らの住まいとなる学生寮へ向かった。
学生寮は青い屋根が目印の八階建ての建物だった。学園が出来た当初はもっと小規模だったらしいが、学生の定員が増えたことで増築がされ、現在では一階ごとに二十室を構えるほどの巨大住居となったという経緯がある。
入寮の手続きを済ませ、管理人から部屋の鍵を受け取ると自室になる418号室に直行した。
部屋は机とベッドが一つずつあり、浴室とトイレの付いたシンプルな間取りだった。
裕福な者なら多少の不満はあるかもしれないがそれなりの広さはあり、必要な物も大抵揃っているため普通に生活する分には不便をすることはないだろう。
ちなみに学生寮の部屋にはいくつか種類があり、寮費が高くなる分通常よりも広い貴族出身者向けの部屋や寮費を安く抑えたい者向けの相部屋があったりする。
ジェイミーはその素性故、同居人がいるのは好ましくないため通常の個室だ。ラティーフは貴族出身者用の部屋を用意してくれようとしたが、部屋の広さにこだわりがないため断った。
部屋に着いたジェイミーがまずしたことはあらかじめ届けられていた荷物の荷解き――ではなく部屋中のチェックだった。
自分の正体が漏れており、何者かが罠を仕掛けている可能性も万に一つの可能性としてあり得る。
過剰な気もするが石橋を叩くに越したことはない。
そして部屋に異常がないことを確認すると荷解きを始めたが、量が少なかったためすぐに終えてしまった。
「…………」
することがない。
本来なら学園中に盗聴器やら仕掛けておきたかったが、先の一件のせいで厳戒態勢となっているこの状況下ではそれは出来ない。他に進めなければいけない任務も現状ないため、ベッドで仰向けなり天井を仰いでる始末。
時間を無駄にする気にもなれないので学生らしく授業の予習でもしておこうかと思ったのだが――、
「失礼しま――いやあああああああああああああああああああ⁉︎」
扉が開く音とともに悲鳴が部屋中に反響した。
体を起こすとそこには尻餅を着いているレイチェルがいた。
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