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第16話 事件後の学園にて

 時は遡り、ジェイミーとレイチェルが戦いに身を投じていたのと同時刻。

 大講堂からレアを連れ去った青ローブの男が一人校舎の中を歩いていた。

 目的地は学園長室。そこに目当ての物があると言う。

 何故レアと言う重要人物を無視してまで彼がそれを探しているのか。

 理由は単純。彼ら【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の目的はレアではなかったからだ。


 レアの身柄を欲していたのはシオン帝国を敵対視する新生ロムルス連邦の保守派の諸侯たちで皇女を人質に取り、優位な状況を作りたかったようだ。

 【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】としてはレアには然程興味はないが学園へ侵入する人手が必要だったため、誘拐の機会を与えることを担保に協力を取り付けた。

 学園に侵入した【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の団員は青ローブをした二人だけで残りは全員が新生ロムルス連邦の工作員である。

 つまり二人にとって工作員らは共に同じ目的に向かって戦う同志ではなく、ただの仕事相手。

 故に契約を履行した以上、彼らに阿る理由はなく、組織本来の目的に向けて動くことにした。


 部屋へ踏み入れた感想は悪趣味の一言だった。

 必要以上に飾られた調度品に悪い意味で目眩がする派手な色の絨毯。

 組み合わせだとか調和だとかそんなことを微塵も考えていないやみくもに豪奢な物を並べただけの自己顕示欲を示したかのような空間だった。

 時間的にも精神衛生的にも早く終わらせてしまおうと男は迷うことなく部屋に置いてある仕事用の机へ向かい引き出しを開ける。そしてそこへ手を入れ、引き出しの中ではなくその上部に指を当てトントンと軽く叩き回す。


 「これか」


 そして目的の部分を見つけ押し込むとそこが沈みカチリと音が鳴る。

 同時に何かが開く音が聞こえたが、一見して部屋に変化はない。

 しかし、男が壁に近づき掛けられていた絵画を外すとそこには立方体型の空間があり、中には紫色の液体で満たされた小ぶりな瓶が置かれていた。


 「情報通りだな」


 そうほくそ笑みと男は瓶に手を伸ばし、手に取ろうとしたその時、


 「それが貴方の本当の目的でして?」


 背後から投げかけられた声にそれは遮られる。

 振り返るとそこには二人のロムルス連邦工作員が連れ去ったはずのレアが入口の前に立っていた。


 「――何者だ?」


 一瞬の絶句の後、男が問いかける。


 「あら? 女性の顔を一瞬で忘れるなんて、紳士の風上にも置けませんわね」


 「とぼけるのはやめろ。お主は皇女レアなどではない。その影武者、と言ったところか。いつから成り代わっていた?」


 その言葉にレアの貼り付けていた表情が抜け落ち、


 「それくらい分かってるだろう? 最初からだ」


 その姿に似合わない男声で答えた。


 「フッ……連中は貧乏くじを引かされたというわけか。それにしても容姿だけでなく、声色までも模倣するとは。相当な幻術――いや、変化術か? ともかくかなりの使い手と見たぞ。一体どこの組織の者だ?」


 「その瓶をお渡しして下さるならお答えしてもよろしいですわよ?」


 声をレアのものに戻した影武者が指差して言った。


 「答える気はないということか」


 男はそう判断すると速やかに瓶を懐に収め、臨戦態勢を取る。

 

 「早急に終わらせてもらおう。些事に時間をかける趣味はないのでな」


 「些事だなんてつれませんわね。でも、時間をかけないという点は同意ですわ」


 影武者も笑みを浮かべ迎撃の構えを見せた。

 二人の間に火花が飛び散る。

 いつ戦闘が始まってもおかしくない緊迫感が部屋を軋ませる。


 「()くぞ」


 「ええ」


 始まりのゴングは男の呼びかけ。

 影武者がそれに応え、戦いの火蓋が切って落とされた。


 ◇


 「なるほど。その瓶の中身が【薔薇十字教団(ローゼンクロイツァー)】の真の目的だったということか」


 「そう見て間違いない」


 そうジェイミーと話すのはサイズの合わない学園の()()()()を着た一回り年上の黒髪の青年。無論この格好は彼の趣味などではない。

 青年の正体はアーノルド・エリオット。変化術を駆使し、レアと成り代わっていたジェイミーと同じ【分隊】の隊員である。

 レアとして襲撃者三人に大講堂から連行されたアーノルドはその中の一人で一番の実力者であった青ローブの男が別れた後に残る二人を処理。その後、直近の情報を学園に潜入したばかりのジェイミーと共有し、青ローブの男を追った。

 そして学園長室で何かを盗もうとする青ローブに追いつき、交戦するも逃してしまい今に至る。

 今現在はレイチェルの記憶を改竄し終えたジェイミーと合流し、双方が得た情報の共有をしていた。

 既に結界は解除され、多くの救助部隊が突入し活動にあたっている。

 そのため二人は瓦礫の撤去作業が終わっておらず、人が侵入しにくい状態にある崩壊した研究棟に身を潜めていた。


 「中の液体が何だったかは分からずじまいか」

 

 「……申し訳ない。オレが奴を仕留められていれば……」


 「瓶の中身については持ち主である学園長を尋問すればいいだけだ。貴方の任務は皇女殿下の影武者で敵の捕縛については管轄外と言える。やるべきことをこなした以上、何も気に病む必要はない。それに敵を逃したのはおれも同じだ」


 「――そう言ってもらえると助かる」


 ジェイミーのフォローにアーノルドの渋面が微笑に変わった。

 知り合いからはコミュ障と称されるジェイミーだが、付き合いの長い人物相手には口数が多くなる傾向にある。

 アーノルドはその数少ない一人だった。


 「だけど、多分フェリックス・ロードには勘づかれていたかもしれない。声の出し方、言葉遣い、振る舞い、身に付けるものまで全て完璧に真似したつもりだったけど俺もまだまだだな」


 「貴方の変化術に勘づくとはな。やはり付き合いの長い者を騙すのは難しいか」


 「そうだな。でも、仕事柄秘密主義になってしまいがちな俺たちにとってはわずかな変化にでも気がついてくれるような身近な人がいるのは羨ましいよ」


 しみじみと言うアーノルドにジェイミーは特に共感することはなかったが、「そうだな」と調子を合わせた。


 「それにしても」


 そう話を切り出すと、


 「居合わせた生徒に任務を手伝わせるなんて思い切ったことをしたな」


 レイチェルの件について触れてきた。


 「時間がなかったからな。最終的に記憶を消してしまえば問題ないと判断した」


 「そっか。仕方ないこととは言え残念だったね」


 「残念? 何故だ?」


 「長官からコミュ障を治すように言われたんだろう? 彼女とは友達になれたかもしれないのに」


 思いがけない不意打ちの科白(セリフ)に崩れ落ちそうになるも何とか片膝だけで堪える。


 「……その話どこで知った?」


 「この前長官に会った時にね。数少ない友人として見守ってほしいって言われたよ」


 「……貴方も長官も勘違いをしているようだがおれはコミュ障などではない」


 「いや、コミュ障だよ?」


 そうあっさり切り捨てられた。


 「し……しかし、おれは現に今こうして貴方と話せていて――」


 「それは俺とお前がある程度付き合いがあるからだ。それに俺がお前ほど打ち解けるのに時間がかかった奴はいないぞ」


 「…………え?」


 知り合って以来初めて聞く同僚の本音に間抜けな声が出る。


 「だってお前無表情でこっちが話しかけても基本頷くくらいしかしないし、返事しても一言だけで考えていることがまったく読み取れないんだよ。それまで俺、社交性には結構自信あったんだけどお前と関わってまだまだだって思い知らされたね」


 「…………」


 「まあ、それでも以前よりはマシになって――」


 そこからは今日の記憶はあまりない。

 覚えているのは誰にも見られぬようひっそり学園を去ったこと、そして多くの魔法を使用し魔素(マナ)を大量に消費した疲労で夜ぐっすり眠ったことだけだった。


 ◇


 また時は遡り、ジェイミーとアーノルドが合流する十分ほど前。


 「くっ......、思ったより若造に手間取ってしまったな......」


 青ローブの男が忌々しげに呟く。

 目的の物は守り切れたが、レアを装った何者かを倒すことは出来ず途中離脱することになってしまった。

 時間さえあれば仕留めれたものを。

 苛立ちが沸き出てくるが時間を浪費している暇はなかったと自分に言い聞かせ、相方であるケリーとの合流場所へ向かう。


 予定時間より少々遅くに着いたのだが、そこにケリーの姿はない。

 待たされるのは嫌いだが、時間に遅れたのは自分も一緒だ。

 十分だけ待とうと懐中時計を取り出し、時間を計ろうとした直後だった。


 「お待たせして申し訳ございません、ディー(せんせい)


 ケリーが体を引きずりながら姿を現した。


 「……随分手酷くやられたな」


 吹き飛ばされた衣服と鎧の代わりに上半身へ大量の傷を作ったの加え隻腕と成り果てた相方の姿にディーと呼ばれた男は素直な感想を述べた。


 「ええ……(せんせい)もワタクシほどではないみたいですが……邪魔に入られたようですねぇ」


 「まったくだ。だが、目的は達成した」


 ディーが瓶を取り出して見せつけるとケリーは満足げに頷いた。


 「流石(せんせい)です。ささ、早くここを脱出しましょう」


 「手当てはしなくていいのか?」


 「一応止血はしておきましたので。今は脱出を優先しましょう」


 「……分かった。お前がそれで良いのなら私は問題ない」


 ディーは巻物(スクロール)を取り出し、床に広げる。そこには既に結界術が刻まれていた。

 第三階位魔法空間系結界術《瞬間移動(テレポーテーション)》。セシルが使用したものと同じ結界内にいる生物、物体をあらかじめ指定した場所に転移させる魔法だ。


 「そう言えばバッジを拾ったという彼はちゃんと持ち主のあの方に返せたのでしょうか?」


 「何か言ったか?」


 「いいえ、何もございませんよ。……これでようやく、計画が進められますね」


 「ああ、我々の悲願への大きな一歩だ」


 その言葉だけを残し、二人の襲撃者は学園から姿を消したのだった。

学園襲撃編はここまでです。

あと1話を挟んで学園生活編がはじまります。


最後まで読んで頂きありがとうございました!


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