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第14話 突貫作業

 毒に侵されていたベルンハルトが目を覚ますとレイチェルたちは他の教師陣とも合流し、話し合いの末、警備塔を奪還し学園を封じ込める結界を解く班と大講堂の新入生らを救助する班とで分かれて動く方針を決めた。

 ベルンハルトらはレイチェルを心身の状態を考え、残るよう説得したが一緒に着いて行くと聞かず止む無くベルンハルト、クルトらと同じ救出班に同行することになった。

 やはり無理矢理にでも押し留めるべきだったかと悩んでいたベルンハルトだったが、その考えは研究棟を出た直後に翻されることになる。

 何と研究棟が爆破されたのだ。

 

 半壊し、火と煙が立ちのぼるその光景をレイチェルは呆然と見ていた。

 自分が先程までいた場所だ。それがこんなことになるなど想像出来ようか。

 もし、ベルンハルトに従ってあそこに残っていたら――そう考えると血の気が引いた。


 「爆破の結界術をどこかの部屋に仕掛けていたのでしょう」


 結界術の教師らしく爆発の正体を見破ったセシルがそう呟く。


 「しかし、何故連中は最初からこれを使って我々を始末しなかったのだろうね?」


 「爆発音を聞かれたくなかったのだろう。爆発に気付けば生徒たちがパニックに陥り、沈静化に時間を割くことになる。結界が展開されて勘付かれた後、魔法省がすぐ動くことを考えれば一分一秒無駄にするわけにはいかない」


 ベルンハルトが答えると疑問を呈したクルトはなるほどと感心したように頷いた。


 「恐らく私たちを倒せなかった時の保険に仕掛けていたのでしょうね」


 セシルがそう補足する。


 「でも、これでもう大丈夫――」


 落ち着くためそう自分に言い聞かせようしたレイチェルだったが、ある最悪の可能性に気が付き言葉を失う。


 「これ……他の場所にも仕掛けられてるんじゃ……」


 その指摘に全員が凍りつく。

 そうなると可能性が最も高い場所はどこか。

 全員の結論は一致した。

 人が最もいる大講堂だ。


 ◇


 走る走る走る。

 最短距離を最低限の動きだけで駆け抜ける。

 その移動速度は常人が出せるそれをゆうに越えていた。

 移動速度だけを見るなら《電磁加速投射アクセラレーター・キャノン》の方が断然上だが、この後のことを考えると魔素(マナ)出来るだけ節約しておいた方がいい。


 大講堂までの距離およそ四百メートルを十秒と少しで走破。

 目的地が迫ると若干速度を落とし、校舎の屋上から大講堂の二階の窓ガラスへダイブした。

 ガラスを割り、その破片を飛び散らせながら宙を舞う形で大講堂へ突入。同時に天井上から大講堂全体の様子を見渡す。


 敵の数は十人。座らせた生徒たちを囲うように立っている。

 あれら全員を始末しないことには何も出来ない。

 速攻でカタを付ける。


 「〈落ちろ轟雷〉」


 天井に魔法陣が展開。そこから十本の稲妻が落とされる。

 《降雷(サンダーボルト)》を複数放つ第四階位魔法電撃系魔術《連撃・降雷チェイン・サンダーボルト》だ。

 十人がガラスの割れた音に気付き天井を見上げたのと攻撃が当たったのはほぼ同時だった。

 速攻性を重視し、詠唱を一節に絞ったせいで威力はロジャーにお見舞いしたものよりも劣るが、それでも命を奪うには十分な威力がある。

 抵抗する間もなくほぼ同時に稲妻を受けた十人は短く断末魔を上げ、絶命した。


 「きゃあああああああああ‼︎」

 「何なの⁉︎ もう嫌‼︎」

 「人が……死んだ……‼︎」


 そんな敵の末路と生徒らの悲鳴には目もくれずジェイミーは空中で体を捻り、大講堂全体を見回すが結界は見当たらない。

 緞帳(どんちょう)で隠れた壇上やその裏にあるのかとも思ったが、人の少ない場所に仕掛けても大した被害は出せないと考えると生徒たちが立つ床かその真上の天井に結界が張られており、それが何かしらの方法で隠されていると見ていいだろう。

 シンプルなのは結界の上を布か何かで覆うことだが、襲撃者が魔導師である以上その隠蔽方法も魔法であると考えるのが自然だ。

 つまり五感に干渉し、事象を錯覚させる魔法――幻術が用いられているとジェイミーは確信した。


 幻術は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれかを通して発動される魔法だ。

 今回のように不特定多数の人間を幻術にかける場合、味覚と触覚は適しておらず可能性から真っ先に排除される。

 聴覚と嗅覚は五感の中で特に干渉しやすい感覚だが、魔笛(アリア)の音も聞こえず魔香(パヒューム)の臭いもしない上、今回のような拘束力の薄い幻術をかける場合は違和感を持たれやすい。

 よって、干渉方法は視覚に絞られる。

 視覚から幻術をかける方法としては術者本人が特定の行動(アクション)を起こすか、術式が付呪(エンチャント)された呪物を被術者に見せつける二択だ。

 視覚からの幻術は術者、呪物が被術者の前に居続けなければ効力が落ちてゆく。術者の姿が見えない以上、呪物が幻覚をかけているに違いない。

 だが、この広い大講堂において全員の目に留まる物などあるのだろうか。

 重力に引っ張られ、落下してゆく中で再度周囲を観察する。


 (あれか)


 それは大講堂の出入口と生徒らがなす列の真正面にある壇上に下げられた巨大な緞帳(どんちょう)だった。

 あれだけの大きさなら見逃すこともないだろうし、出入口の位置的にも真っ先に目に入るだろう。

 そして、幻術を解く最も効率の良い方法は術者、呪物を排除することだ。


 「〈燃えろ〉」


 ジェイミーが放った第二階位魔法火炎系魔術《火球(ファイア・ボール)》が緞帳(どんちょう)に直撃し、燃え尽きる。

 それと同時に幻術の効力が消え、生徒たちの足元に結界が出現した。

 ジェイミーが着地する。大講堂へ突入してからここまでたった数秒の出来事だった。


 突如現れた乱入者に訳がわからず呆然とする新入生一同。

 そこへジェイミーが恐怖を煽る。


 「きみ達の足元には爆破の結界術が仕掛けられている! 早く逃げろ!」


 ジェイミー呼び掛けに対する反応は三通りあった。

 一通り目が下を見て本当に結界がある確認する者。

 そして二通り目がそれが真実であると少しも疑うことなく一目散に逃げ出す者。

 最後に三通り目がその言葉の意味を飲み込めず、相変わらず呆然としている者。

 割合としては二通り目が最も多かったが、最終的には皆、我先にと出入口へ駆け出していた。


 「嫌だ! 死にたくないいい!」

 「どけ! 俺が先だ!」

 「早く行ってよお!」


 これで生徒たちの安全を確保出来たと同時に結界の上から退かせることにも成功する。

 早速結界の解除にしようとしたジェイミーだったが、まだ二人の生徒が残っていることに気が付いた。


 「聞こえなかったのか? 爆破の結界術が仕掛けられていると」


 「お前は一体何者だ?」


 「それは第三階位魔法感覚系幻術《迷影の霧アブストラクション・フォッグ》か? 認識阻害までして、オレたちの敵じゃないよな?」


 自分に警戒感を示す二人の男女にジェイミーは見覚えがあった。


 (レア殿下の護衛の二人――ジル・イートンとフェリックス・ロードか)


 任務にあたりレアに関する情報は全て目を通している。

 レア本人のプロフィールはもちろんその周辺人物のプロフィールまでも。その中には当然ジルとフェリックスのものも含まれていた。


 「襲撃者を倒してきみ達を助けたでしょう? これで敵でないと信じてくれませんか?」


 「幻術を解いて何者か答えろ。それで信じてやろう」


 「敵の敵は味方――とは限らねえからな。悪いが簡単に信じられねえ」


 説得を試みるも簡単に信じる様子はない。特にジルの方は今にも飛びかかってきそうな雰囲気すらある。

 二人の気持ちは分かるが、時間がないので強引な手段を取らせてもらうことにした。


 「え――?」


 「は――?」


 一瞬でジェイミーの姿がジルとフェリックスの前から消えた。否、高速で二人の背後へ移動したのだ。

 そして、手刀で両者の首の後ろを叩き、意識を奪う。


 「「うっ……」」


 崩れるように倒れる二人を受け止め、ゆっくり床へ寝かせる。

 念のため怪我と意識の有無を確認した後、ジェイミーはようやく結界術の解除に取り掛かった。

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