神社の帰り道
それは、いわゆる厄年と言われる、数えの42歳、本厄の年のことだった。
体の不調が続き、僕はよく寝込んでいた。
知り合いに紹介されたお寺へ行くと、健康になれるよう、力をもらえるよう、氏神様をお参りすると良いと言われた。
そういえば、神社をお参りすることもそんなになかったな…なんて思いつつ、僕は自宅から5分ほどの距離にある神社に参拝するようになった。
その神社には、守り神に鹿が祀られており、奈良にある神社の分院だった。
神社を参拝するようになり、僕の体は少しずつ動くようになり、次第に回復に向かった。
そんなある日。
空も明るい真昼間、自営業をしていた僕は、仕事の昼休み、力を頂きに行こうと、いつものように神社へと向かった。
手を合わせて、神社をあとにする。
ここまでは、いつもとなんら変わりのない日常だった。
そう、ここまでは…。
参拝を終えた僕は、家路についた。
信号を渡ったところで、ふと背中に異常な気配を感じた。
何か、今振り返ってはまずい。そんな気がした。
心臓の鼓動が、知らぬ間に速くなっていく…
僕は、意を決して振り返った。
「う、嘘だろ!?」
そこには、道幅いっぱいの大きさの巨大な蜘蛛が、猛烈な勢いで、神社からこちらへと向かって来ていたのだ。
「バケモノだぁああ!!」
僕は慌てて走り出した。
もし追いつかれたら?
あの鋭い牙のようなもので捕まえられたら?
僕はどうなる!?
考える余地もなく、僕はひたすらに走った。
蜘蛛のバケモノは、間違いなく僕に向かって走って来ていた。
お昼時だったのもあり、周囲に人の気配はなく、そこには必死に逃げる僕だけがいた。
次の角を左に曲がって…!
その次の角を右に曲がって…!
もう少しだ!
角を曲がれば…家が、僕の家が見える!
足を止めることは許されない!!
急げ、急がなければ蜘蛛に追いつかれる!!
後ろを確認する余裕はなかったが、蜘蛛が追ってくるのを僕は全身で感じていた。
息を切らし、必死の思いで僕は家へと走り続ける。
バタン!!
玄関の扉を勢いよく閉め、僕はそのまま倒れ込んだ。
「どうしたの、あんた、そんな青ざめた顔して??」
「蜘蛛…巨大な蜘蛛に、今そこの神社から追いかけられて…!!」
「巨大な蜘蛛!?」
妻がきょとんとした表情で、こちらを見ている。
僕は乱れる息を整えながら、汗をぬぐった。
おそらくあれは、神社を参拝し、僕の体に取り憑いていたものが祓われ、再び取り憑こうと追いかけてきたものだったのだろう。
もし、あの帰り道、巨大な蜘蛛に追いつかれていたとしたら…
僕は、生きて帰って来られなかったかもしれない……