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第25話 冬休みの計画

「ねぇねぇ、冬休みは何して遊ぶー? あ、勿論三人でってことね」


 夕食の最中、エリカがえらくハイテンションでそんなことを口にした。

 確かに、もうすぐ長期休暇ではあるな。


 いつの間にか遊びに行くことになっているのもよく分からんが、三人って俺も勘定に入ってんのか?


「遊ぶんなら姉妹水入らずで行けばいいだろ」


 俺は長期休暇なんて家でゲームでもしてればそれで満足だ。


「おねーちゃんは行きたい所とかある? 三人で」


 おぃ無視すんな。二人で行けって言ってんだろが。


「行くなら三人は勿論ですけど。エリカ、宿題は出てないんですか?」


 意地でも三人でいくつもりかこいつら。


「大丈夫それもやるやる、多分」


 しかし、華恋はまた母親みたいな心配事を口にしてるなぁ。

 こいつらしいっちゃらしいけど、この歳で所帯じみてるのは苦労の証なのかもしれない。


「勉強は後でいいからさ。あたしらも同居始めてからまぁまぁ経ったんだし、折角の休みなんだからもっとガンガン親睦深めていこーよ~」

「部活やサークルじゃなあるまいし、そんな親睦会みたいなことする必要は」

「誠お兄さんはあたしらと一緒に遊ぶのそんなに嫌?」


 ぐっ……。


 本気かどうか分からないが、傷ついたような表情をされると流石にちょっと怯んでしまう。

 普段が明るいだけに、エリカのこういう顔は見ていると精神ダメージが発生するのだ。

 なまじ顔だけは大人びているので、ギャップもあってか効果抜群なのである。


 しかし姉の方は宿題を心配していたし、実はそこまで乗り気でもないんじゃないのか?


「ね、おねーちゃんだって一緒に遊び行きたいよね? 誠お兄さんの日常を豊かにする為にも、ね?」

「無論、誠一郎君の日常に活力を齎すためなら何処へでも行きますね」


 なんだその重たい決心はっ。

 妹の質問との温度差エグいわ!


 ただ遊びに行く話をしてるだけだよな……?


 う~む。ここで無理やり断ってしまうこともできはするが、そこまで強硬に反対する理由があるのか? と言われれば別にないのも事実。


 ただ、問題なのは。


「大体遊ぶって、どこで何すんだよ?」


 この姉妹と俺の組み合わせで一体何を? ってな話だ。


 二人とも系統は違えど俺なんかとは今まで全く縁がなかった存在である。

 どんなことして遊べばいいのか見当もつかない。


「ん~、そだねぇ。あたしらお金はあんまないから、タダでできることかな?」


 ますます分からん。

 タダで三人で遊べることって、どんなことだ? 


 しかしまぁ、遊びに行きたいのなら別に無料にこだわる必要性は感じない。


「え~っと、あれだぞ? 遊びに行くなら多少は金出しても」

「それはダメです。私たちも無一文というわけではないんですから、こういう時まで頼りきりなんていけません」


 う……。


「あ~、あははは。おねーちゃんはね、これ以上あたしらを負担に思って欲しくないんだよ。あたしはお兄さんの好意に甘えちゃってもいいと思うけどね~」

「エリカ、余計なこと言わないでください」


 負担ねぇ。


 俺は、こいつらを重荷に感じているのだろうか?


「……別に大した重さでもない、けどな」


 ぽつりと言葉が零れた。


 場がしーんと静まりかえり、エリカなどはポカンとした顔でこっちを見ている。


「な、なんだよ」

「えっ? その、今の重さってあたしらのことでしょ? 誠お兄さんが素直にそんなこと言ってくれると思ってなくて……率直に言って超嬉しい。あたしらと一緒に遊び行きたいって思ってくれてるってことだもんね」

「へ? いや、ちがっ! ただ単にあれだ! 普段お前らが勝手に働いて無駄に給料も受け取らないからっ、せめて福利厚生的なアレをと思っただけっつーか」

「ふくりこーせー? よく分からないけど、今更慌てて否定するおにーさん超カワイイ~」


 いい加減ひっぱたいてやろうかなコイツ。


「ほらほら、おねーちゃんも――って、なに難しい顔してんの?」

「いえ、ちょっと考えてまして。出費をさせてしまうのは考え物ですが、誠一郎君が珍しく積極性を出してくれたのならそこを伸ばすべきなのかもと」


 だからお前は俺の母親か!? 

 ナニ目線だよっどこも伸びねーよ! 伸びしろゼロだよ!


「あぁもうっ。とにかく俺は細かい事は知らん。遊び云々はお前ら二人で勝手に考えてろ」

「あ、ちょっと~。照れなくてもいいのにぃ」

「照れてねぇよっ」


 これ以上変に盛り上がる前に部屋を後にしようとすると、華恋の声が背中にかかった。


「あの、誠一郎君」

「あん?」

「遊びに行くのも勿論楽しみですけど。私は、今こうしてお話しているのも楽しいですよ?」


 …………そっすか。







 そんな会話があったのが冬休みのちょい前。


 遊びに行くか行かないか、結局具体的に決めたりしないまま休みに突入してしまったのだが。

 結果からいえば、そんなことを決める必要はなかったと言える。


 なぜなら。


『ちょっとしたツテで偶然に旅行券というか、招待券みたいなの手に入れちゃってね? でも、私は仕事が忙しくて行けないのよ。折角だから君にあげちゃう。ってことで、神代さんたちとでも行ってきなさい』

「うさんくせぇ」


 休みに入る直前に、いきなり東さんから電話がかかってきたのだ。


『何が胡散臭いのよ。貰ったのは本当よ?』

「つまり貰ったこと以外は嘘なんっすね?」

『弁護士のいうことあんま疑うと、なんかあった時に弁護してあげないわよ?』


 なんかってなんだよ。と言いかけたが、神代姉妹の件で実際になんかあって頼ったばかりだったので言い返しづらい。


『いいから、偶には可愛いメイドさん達にサービス休暇でもプレゼントしてあげなさいよ。どうせ普段は禄にしてないでしょ、そういうの』

「誰がメイドだっ」

『例えよ例え。じゃ、そういうことで。楽しんできなさいね』

「……へいへい」


 経済的問題も解決してしまった。

 これは、確実に三人で旅行する流れになるんだろうなぁ。


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