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89 魔将軍フェルムンド

「相変わらず傲慢だね。魔王の側近にして魔王軍幹部の一人、魔将軍フェルムンド」

「何故、我の名を知っている? いや、それよりも人間ごときが我を呼び捨てにするとは身の程知らずも甚だしいな」


 私に名を呼ばれ、魔族は明らかに不機嫌な反応を見せた。人間を見下しているのは相変わらずのようだ。


「もしかして私のことを覚えていないのかな? ずいぶん前に私はお前と戦ったことがあるのだよ?」


 ま、それは500年近く前のことだけどね。

 あの時、コイツは勇者によって滅ぼされたと思っていたのだけど、まさかしぶとく生き延びていたなんてね。


「貴様は······そうか、勇者と共にいた見習い魔術士の女か!」


 どうやら私のことを思い出したようだ。

 以前、コイツと戦った時は私はまだ力の弱い駆け出しの見習い魔術士だった。

 悔しいことに、コイツにはいいようにやられた記憶しかないね。

 けど、もうあの時の私ではないのだよ。


「お師匠様、この魔族のことをご存知なのですか?」

「ああ、よく知っているよ。コイツは魔将軍フェルムンドという名の魔王の側近の一人で、魔族の中でもかなり強い部類に入る男だ」


 アル君の質問に答えた。

 実際、コイツには勇者もかなり苦戦していたからね。


「コイツ自身も強いけど、コイツはゴーレム使いの異名も持っていて、さっき出てきたアル君達の最終試練用の魔導ゴーレムはコイツが使役していたやつを私が複製した物だよ」


 さっき戦ったゴーレムは全てコイツが作り出した物だ。まさかゴーレムだけでなく、大元の使い手まで現れるとはさすがに思わなかったよ。

 しかし、なんで出来立ての迷宮の最奥にコイツがいるのかな?

 まあ、何であれろくでもないことを企ててるのは間違いないだろうね。



「勇者はどこだ? まさか勇者の助けもなく我の魔導ゴーレムを退(しりぞ)けて、ここまで来たわけではあるまい」


 魔族が私に向けてそう言ってきた。

 勇者がいるわけないだろう。

 あれから何百年経ってると思ってるのかな? 

 魔族は寿命が人間よりも遥かに長いから、そういう感覚が緩いのかもしれないね。


「そのまさかだよ。あんな程度のゴーレムに今の私が後れを取るわけないだろう」

「貴様のような見習い魔術士が我の魔導ゴーレムを倒せるわけなかろう!」


 いやいや、だから私が見習いだったのは何百年も前の話だよ。

 本当に人の話を聞かないというか、頭が悪い······いや、固い奴だね。



「ふん、まあいいだろう。ならば我が直々に相手をしてやろう。その言葉が虚勢でないのなら、簡単に死んでくれるなよ!」


 魔族が全身に魔力を巡らせ、戦闘態勢に入った。

 実力行使なら望むところだよ。


 当時の雪辱、ここで晴らさせてもらおうじゃないか。



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