88 魔族
迷宮の最奥までたどり着いたのだけど、迷宮の〝核〟とも言えるダンジョンコアが剥き出しになって存在しているなんて、おかしいね?
普通なら最奥には守護者と呼ばれる、迷宮最後の魔物がいて、そいつを倒せば迷宮攻略完了となる。
ダンジョンコアは守護者を倒した時に稀に手に入る、レアアイテムだったはずだけど。
まあ、それは後で考えようか。
とりあえずはダンジョンコアを回収しますかね。
そうして手を伸ばそうとしたら、床に召喚陣が現れた。迷宮の守護者のお出ましかな?
「人間······いや、人型の魔物か?」
アル君も召喚陣に警戒して構えていたけど、召喚されたものを見て、怪訝な表情をうかべた。
召喚陣から出てきたのは魔物ではなく、私達より一回り大きいくらいの人だったからだ。
いや、人であって人ではないね。
「魔物じゃないよ、アル君。コイツは魔族と呼ばれる、かつて魔王の配下として世界各地を暴れ回った種族だ」
魔族は種族としては数が少ないが、他の種族に比べて力も魔力も高く、そして寿命も長いという、かなり優れた種族だった。
魔王と共に世界を我が物にしようとしていたが当時、魔王が勇者に討たれたことで勢いを失い、魔族は人々の目から姿を消してしまっていた。
まさか何百年ぶりかに、またお目にかかることになるとはね。
「人間め······。我の存在を突き止め、またしても邪魔立てするつもりか!」
召喚された魔族は、私達を見るなり憤怒の表情でそう言ってきた。
何を怒っているのか知らないけど、ここで何か企んでいたということでいいのかな?
魔王は討たれ、今更何するつもりか知らないけど、きっとろくでもないことだろうね。
魔族は基本的に他種族を見下していて、言葉は通じるけど話は通じない奴ばかりだったから話し合いは期待しない方がいいだろう。
おや? ············ちょいとお待ちなさいな。
よく見たらこの魔族、見覚えがあるね。
コイツはもしや······。
「遥か昔に歴史から姿を消したはずの魔族が、こんなところで何をしていた?」
アル君が剣を構えながら魔族に問う。
対する魔族は、アル君の言葉を聞いて鼻で笑うように口を開いた。
「歴史から姿を消した? 何を寝ぼけたことを言っている? 消えるのは貴様ら脆弱な人間共の方だろう!」
こちらを見下してるのは間違いなさそうだけど、何か話が噛み合ってない感じがするね?
まあいいさ。
それよりも、ちょいと聞いておきたいことがあるし、今にも斬りかかりそうなアル君には、ちょっと抑えてもらおう。
「相変わらず傲慢だね。魔王の側近にして魔王軍幹部の一人、魔将軍フェルムンド」
私に名を呼ばれた魔族は、心底不快そうな表情でこちらを睨んできた。




