83 共同作業
迷宮攻略を開始して、早速魔物が現れた。
灼熱の巨体を持つ魔物、溶岩大亀だ。しかも1体だけじゃなく、2体、3体······複数で出現だ。
もしかして迷宮の外で現れた溶岩大亀は、あのスライムの最上位種が生み出したんじゃなくて、迷宮から這い出てきた奴だったのかな?
まあ、そんなことを考えるのは後にしようか。
「なるほど、異質な迷宮でも出て来る魔物はやはり強力なようですね」
溶岩大亀はそこそこ強力な魔物で、この国の騎士達もかなり苦戦していた。
けど、ここにいるのは最強天才魔術士様と、その弟子の最強騎士様なのだよ。
この程度、慌てるような相手じゃないさね。
「それじゃあ、アル君。そいつらの相手は任せちゃっていいかな? 迷宮攻略は始まったばかり、魔力の消耗は抑えたいからね」
「ええ、この程度の魔物、お師匠様が出るまでもありません」
「支援魔法は必要かい?」
「いえ、自前で充分です」
アル君が剣を抜き、前に出る。
ま、大魔法を何発放とうとも私の魔力は尽きることはないし、万が一のための魔力回復薬なんかも常備しているけど、迷宮は舐めてかかってはいけない場所だ。
節約するに越したことはないだろう。
それに、アル君の成長ぶりも見たいからね。
ま、以前のルヴェリューン王国での竜との戦いを見る限り、鍛錬は怠っていないだろうけど。
数体の溶岩大亀に囲まれても、アル君の表情に変化はない。
アル君は自身の身体と剣に魔力を巡らせる。
そうすることで、身体能力と剣の強度を一時的に上げることの出来る強化魔法の初歩だね。
もともとの能力も高いアル君だけど、強化魔法によって何倍にも高められている。
「一閃、光鳴剣!!!」
アル君が剣を横薙ぎに振るい、溶岩大亀達を斬り裂いた。
アル君の剣技の前では、溶岩大亀の岩のように硬い皮膚も意味を成さない。
たった一振りで、溶岩大亀の群れを全滅させたよ。
「お見事、さっすがアル君。私が教えた勇者の剣技を完璧に使いこなしているね」
「いえ、これではまだまだです」
「謙遜しなさんなって。誉めているんだから、素直に喜びなよ」
実際、大したものだよ。
昔話で教えた剣技をそこまで使いこなしているなんて。剣の腕だけなら、アル君はもう当時の勇者を超えちゃってるかもしれないね。
――――――――――!!!!!
おっと、新たな魔物の出現だ。
まったく、休む暇がないね。
今度は無数の小型のスライム系の魔物だ。
あの最上位種に比べたら大したことないんだけど、コイツらは打撃も斬撃もほとんど無効化してしまい、さらには魔法も効きにくい、スライム系の中でも厄介なタイプだ。
アルフ君とメイラちゃんと退治したスライムとは、文字通りレベルが違う。
「さ〜て、それじゃあ今度は私の番かな?」
「お師匠様。あの程度の魔物なら、私の剣で問題ありません」
「大丈夫、大丈〜夫。今回はアル君が休む番だよ」
アル君の剣は特別製で、ああいった物理攻撃が効きにくい不定形の魔物でも、問題なく斬れる。
でも、さっきのアル君の剣技を見てたら、私も戦いたくなっちゃったんだよ。
どうやら久しぶりの迷宮攻略に、年甲斐もなくワクワクしてるのかもしれない。
「そ〜れ、フレアストーム!」
焼け付く熱風を巻き起こす「炎」の中級魔法だ。
スライム達は熱風の熱さに耐えられず、溶けるように蒸発した。
ちょっと魔力を込め過ぎたかな?
ま、これくらいなら消耗した内に入らないし、問題ないない。
「相変わらず、見事な魔力操作ですね」
「あっはっはっ、誉めたって何も出ないよ? さって、アル君。この調子で迷宮攻略を進めようじゃないか」
アル君も私も絶好調。
このままどんどん突き進んで行っちゃお〜う!




