82 未知なる迷宮
出現して間もない、未知なる迷宮へと突入することにした。
私にとっても迷宮攻略なんて、ずいぶん久しぶりのことだ。
何が待ち受けているのかワクワクするよ。
「お師匠様、私が先行します」
私が空間の歪みに足を踏み入れようとすると、アル君が前に出てそう言った。
いくら私が年上で目上の立場でも、こういう場合は男が先に行くものだとアル君が譲らなかった。
紳士的というか、なんというか、無理に背伸びしなくてもいいんだよ?
ま、ここはアル君に花を持たせようかね。
そうして迷宮の中に突入した。
歪みを抜けた先は、ジメジメドロドロした、よくわからない形の壁や床の空間が広がっていた。
こういう迷宮は私も初めてだね。
発生して間もないから、まだ迷宮として形が作られていないのかな?
「迷宮というより、魔物の腹の中みたいな見た目だね〜」
昔、巨大な魔物に丸呑みにされたことがあるけど、中はこんな感じだった覚えがあるよ。
正直、あれは思い出したくない経験だったね。イヤな記憶が蘇るようだ。
ま、胃酸で身体を溶かされる心配がないだけ、こっちの方がマシだけど。
「さて、アル君。どっちに進めばいいかわかるかな?」
迷宮らしく、いくつか道が分かれている。
正しい道を選んで、迷宮の最奥を目指さないとね。
「反応は右の道かと。他はおそらく行き止まりとなっています」
「正解。探索魔法は、ちゃんと使えるようになったみたいだね」
アル君が私の教えを受けていた時に、魔法関連はほとんど叩き込んだからね。
探索魔法は周囲の地形を把握し、生物の反応を見つけられる便利な魔法だ。
扱いが難しいから、アル君も昔は習得するのに苦労していたけど、もうマスターしているようだね。
私の下から離れた後も、基礎訓練は怠っていないようだ。
「なんだか、こうしていると実戦訓練をした時を思い出して懐かしいね〜」
「正直、私はあまり思い出したくないのですが。お師匠様の訓練は手加減無しなので、私もルードも何度死にかけたことか」
何を言うか。
ちゃんと死なないように手心は加えていたのだよ?
訓練で死にかけるのと、実戦で死にかけるの、どちらがいいかって話だよ。
ちなみに、今アル君が言ったルードってのは、アル君と同年代の私の弟子であるルー君のことだね。
アル君が魔法剣術が得意だったのに対して、ルー君は純粋に魔法全般を得意としていたね。
攻撃魔法も治癒魔法もお手の物としていたし、魔法限定ならルー君の方がアル君より上だったかな。
ルー君も元気にしているかな?
この国の観光を終えたら、ルー君のいる国に行ってみるのもいいかもしれないね。
「お師匠様、魔物です!」
おっと、今は迷宮攻略中だったんだ。
考え事をしながら攻略出来る程、迷宮は甘くはない。今はちゃんと、こっちに集中しないとね。




