81 迷宮へ突入
「どうやら予感的中みたいだね」
不穏な気配を感じたので、その反応を辿ってみたら、やっぱりというか空間の歪みを発見した。
お湯が湧き出る源泉から、少し離れた奥の方にそれはあった。
「これが迷宮の入口なのですか、お師匠様?」
アル君が首を傾げながら問いかけてきた。
目の前には、黒い渦のような空間の歪みがあるだけだからね。
「アル君は、迷宮を見るのは初めてだっけ?」
「以前に、とある国の依頼で騎士団と共に攻略したことがあります。しかし、こんな異質な入口ではありませんでした」
「あ〜、それは多分、出来てから時間が経って周囲に定着した迷宮だね」
迷宮は場所を選ばず、色々な所に出現する。
山の中に出現すれば洞窟のような入口に、森の中に出現すれば、周囲と同化したような感じにって具合にね。
人の住む町の中に出現した例もあり、その場合は周囲の建物と変わらない入口となっていて、一見、迷宮だとはわからないものもあった。
まあ人里に現れる場合は、大抵は事前に出現する気配を察知されて、出来る前に対処されるんだけど。
以前、私が勇者達と共にこの国に調査に来たみたいにね。
目の前にある迷宮の入口は、まだ周囲に定着せず、出現したばかりのようだ。
「時間が経てば定着して、それらしい見た目の入口になるだろうね。出来たての迷宮を見れるなんて、確かにレアなパターンかな」
そもそも迷宮自体が、そうそうお目にかかれるものじゃないからね。
私だって、まだ数えるくらいしか攻略したことがないし。
「せっかくだし、このまま迷宮攻略に乗り出そうかね。アル君もいるし、出来たての迷宮くらい、余裕っしょ」
「国に報告はしないのですか? 他国の事情に、勝手に手を出すのは色々と問題が······」
「あっはっはっ、何を今更。昨日も他国の事情に首を突っ込んだばかりじゃないか」
乗り気じゃなさそうなアル君の言葉を、私は笑い飛ばした。
魔物退治だったり、溶岩を食い止めたり、さらには町の復興にも手を貸したりと、散々手を出しまくったというのに。
今更、人知れず出現した迷宮を攻略するくらい、もののついでみたいなものだよ。
「もし、万が一にも迷宮の中に強力な魔物が潜んでいて、それが外に解き放たれたら大変なことになるよ? 一度でも迷宮を攻略したことがあるなら知ってるでしょ? 迷宮の魔物は、通常の魔物よりも強力な奴がほとんどだって」
「まあ、それはそうですが······」
「報告しに行っている間に、魔物が出て来ないとも限らないよ?」
下手をすれば、あのスライムの最上位種よりも厄介なのが現れる可能性もあるし。
もっとも、それは将来的なことで、出来たての迷宮ならそこまで強力な魔物はまだいないはず。
だからこそ、早めに対処した方が良いんだよね。
「······わかりました。誰にも知られていないのなら、知られていない内に攻略してしまいましょう。不肖ながら私も全力で、お師匠様の力になります」
「あっはっはっ、それでこそアル君だよ。それじゃあ、早速攻略開始と行こうじゃないか」
最終的にはアル君も頷き、私達は迷宮の入口へと足を踏み入れた。




