80 異変の兆候
「迷宮化、ですか?」
「そ、私が懸念しているのはそれだよ。あれだけ強力な魔物が集まっていたんだから、空間の歪みが発生していてもおかしくないよ」
源泉に向かう道中、アル君に私が懸念していることを説明した。
迷宮化とは文字通り、この世界に突然迷宮が姿を現すことを指す。
強力な魔物が現れた場所には良くない気が集まり、空間の歪みが生じて、この世界とは違う別次元へ繋がる穴が開いてしまう。
その先は様々な場所に繋がっていて、それらはまとめて迷宮と呼ばれている。
何故、次元の穴が開き、そしてその先には迷宮が広がっているのかはわかっていない。
わかっているのは、迷宮には通常とは比べ物にならない強力な魔物が現れるくらいだ。
早めに対処しないと、とんでもない事態になる可能性もある。
そもそも当時、勇者とこの国に来たのも迷宮化の危険がある場所を調査するためだったからね。
「当時は迷宮化の兆候はなかったのですか?」
「ほんの少しだけど兆候は見られたよ。けど当時の勇者が良くない気を空間ごと、まとめて消滅させていたからね。その後は異常を確認されたという話は出ていないはずだよ」
調査前に例のスライムの最上位種が現れて、退治するのに手間取ったから調査どころじゃなかったんだよね。
ようやく魔物を火口に落として、改めて調査を開始したんだけど、疲れていたこともあってか、細かいことが苦手な勇者が、面倒になって危険な場所は根こそぎ浄化して、後はこの国の人間に監視は丸投げして終わりにしたんだったかな。
「············大雑把というか、いい加減な対応をしたんですね」
「例のスライム相手に苦戦して、疲労が大きかったからね。勇者も仲間達も、早く休みたかったんだよ。それに、いい加減って言っても、ちゃんと徹底して浄化はしたんだからね」
目視では異変の兆しは完全に消えていた。
何か問題が起きれば、すぐに連絡を寄越すよう言っておいたし、その後はそんな話はなかったはず。
いや〜、昔を思い出していたら、なんだか懐かしくなってきちゃったな。
魔物を倒して、異変の兆候も消して一件落着。
それでしばらくは休暇を、ということになって、勇者がなかなかに羽目を外しまくったんだよね。
特に温泉に入っていたのを覗きに来た時は、他の女仲間と思い切りぶん殴ってやったものさ。
勇者は誤解だなんだと言い訳してたけど、普段の行いを見ていたら、覗きくらいやってもおかしくないし。
当時の私は、見た目も性格もピチピチの美少女だったから、裸を見られたら、そりゃあ恥ずかしかったのさ。
今の私が温泉に入っているのを勇者に覗かれたら、どういう行動に出るかな?
自分でも、実際にその状況にならないとわからないね。
そんなことを思い出している内に、源泉の場所までたどり着いた。
おっと、関係ないことを考えてないで、ちゃんと調査しないとね。
魔物との戦いや、溶岩が溢れていた影響はあるけど、奇跡的にも源泉は無事みたいだ。
まあ、町の温泉がちゃんと機能してたみたいだし、それは当然か。
けど、ちょ〜っとばかし不穏な気配を感じるね。
これはどうやら、予感的中みたいだ。




