78 魔女の呪いについて
「それよりも、私の聞きたいのはコレのことです。〝魔王の呪い〟とは、一体どういうことですか?」
アル君が真剣な顔付きで、そう聞いてきた。
私の研究日誌を読んだってことは、聞かなくてもある程度はわかっているだろうね。
「それに書かれてる通りさね。私はおよそ500年前の魔王との戦いで〝呪い〟をかけられた。私が不老不死なのは呪いの効果ってわけさ」
私は正直に話すことにした。
今更、隠したって意味はないだろうし、特に隠そうと思っていたわけじゃないからね。
わざわざ話す理由がなかった、それだけだよ。
私にかけられている〝呪い〟の詳細を聞いていく内に、アル君の表情が険しくなっていった。
もっと、にこやかにしていないと女の子が逃げちゃうよ?
「ま、大体はこんなとこさね」
「············それでは、お師匠様の命は······」
「もう残り1年を切っているね。ま、覚悟は出来ているし、今更思い残すこともないさね」
もしかしてアル君、悲しんでくれているのかな?
だから、なるべく知られたくなかったんだよね。
予定では私は気ままな旅に出掛けて、そのまま行方不明。
弟子達には私の気まぐれな性格は知れ渡っているから、いなくなっても特に心配はされないだろうと思っていたからね。
屋敷に残した研究日誌なども、処分するべきだったかな。処分していれば、こうしてアル君を悲しませることもなかったのに。
「しかし······お師匠様なら〝呪い〟を解くことも可能だったのでは?」
「魔王の〝呪い〟を甘く見ちゃいけないよ。当然、私も解くために色々がんばったさ」
当時は私だけでなく、勇者や仲間達も色々と協力してくれたものだ。
けど結局〝呪い〟を解くことは出来ず、わかったのは500年という時間制限があることくらいだね。
もっとも、当時よりも魔力も魔法技術も大きく向上した今の私なら、本気で研究すれば解く方法を見つけられるかもしれないけど。
ま、今更だよね。
勇者達がいなくなってからは、〝呪い〟を解くことなんて、どうでもよくなっちゃってたし。
「勘違いしちゃいけないのは、私は〝呪い〟によって死ぬんじゃない、〝呪い〟が解けるから、あるべき姿に戻るだけさ。ようやく自然の摂理に戻れるんだよ」
「·····················」
表情が暗いよ、アル君。
私を知っている人達には、なるべく悲しませたくないから、黙って旅に出たというのに。
どうしたものかね、これは。
「あっはっはっ、そんな顔することないさね。見ての通り、私は未練や恐怖なんて、これっぽっちもないからね。アル君が気にすることじゃないよ」
アル君が本気で悲しそうにするから、私は出来るだけ明るく言った。
なんで、死ぬ私の方が励ましているのかな?
アル君は私の言葉を聞いて、何やら思案しているようだ。




