66 ラエン殿下視点
(ラエンside)
ぼくはラエン。ここエヴォマース王国王子だ。
最近、首都の周囲では色々と異変が起きている。
温泉の湯が突然、熱くなったり、かと思えば冷たくなったり、一時期干上がってしまったこともある。
原因がわからず、今は封鎖しているが、いつまでもこのままというわけにはいかない。
我が国が誇る温泉が使えなくなるのは、一大事だ。
他にも魔物の活発化や大量発生など、冒険者だけでは手が足りず、無視出来ない問題となっているものもある。
国王である父上も、度重なる問題に頭を抱えていた。
ぼくも父上の力になるため、騎士達を率いて源泉の調査に向かった。
そこで、妙な魔術士と出会った。
天才魔術士と自称する女性、ティアだ。
見た目は、ぼくよりも少し年上くらいで、おそらくは16〜18歳くらいと思われる、魔術士としても冒険者としても若い部類に入る。
しかし、その実力は凄まじいものだった。
騎士達が苦戦していた魔物をあっという間に蹴散らし、さらには上位の神官が使うような治癒魔法まで扱えていた。
ぼくも魔法関連はそれなりに詳しいので、ティアが如何に規格外か、よくわかる。
だが、ティアの素性は気になるが、今は異変解決を優先するべきだ。
源泉近くの地面から溶岩が噴き出し、事態は一刻を争う。ティアが「氷」魔法で溶岩を食い止めていたが、あれでは時間の問題だろう。
町の住人達の避難誘導は騎士達に任せ、ぼくとティアはもう一度、源泉の場所に向かった。
移動の際に、ティアは魔法の絨毯と呼んでいた魔道具を取り出した。
これも高度な魔道具で、何人もの人を乗せて移動することが出来るらしい。
移動用の魔道具は確かに存在するが、こんなタイプは初めてだ。
そんな見たこともない魔道具である絨毯に乗り、再び源泉まで戻ってきた。
先ほどティアの張った「氷」が溶けて、溶岩が噴き出しそうになっている。
ティアはさらに「氷」を重ね掛けしたが、それでも溶岩を止められず、ついに噴き出してしまった。
しかも出てきたのは溶岩だけでなく、巨大な魔物の姿もあった。
「な、なんだ······この魔物は!?」
「ラエン君、離れた方がいいよ。これはちょっと洒落にならない相手みたいだからね」
溶岩を身に纏った巨人······?
こんな魔物、見たこともない。
ぼくの知識にはない魔物だ。
巨人は溶岩大亀よりも大きく、この巨人と呼応したように、どんどん地面から溶岩が噴き出してきていた。
「ちょ〜っと本気の「氷」魔法をいくよ。アブソリュートゼロ!!!」
ティアもこの事態をマズイと思ったのか、そう言うと一瞬で巨人も溶岩も氷漬けにしてしまった。
溶岩すらも氷漬けにしてしまうなんて、なんという威力の「氷」魔法なんだ······。
しかし、巨人はそれでも止まらず、「氷」を砕いて活動を再開した。
巨人はぼく達を敵と見なしたようで、その巨大な拳を振り下ろしてきた。
ティアがぼくを抱えて、巨人の攻撃から守ってくれた。
巨人が拳を地面に叩きつけると、腕の部分が水のように飛び散った。
あの巨人、身体はそれほど頑丈ではなく、寧ろ脆いのか?
すると飛び散った巨人の身体が変化して、別の魔物となって現れた。
「ま、魔物の破片から魔物が生まれた······!?」
一体どういう魔物なんだ、あの巨人は?
巨人の身体から生まれた魔物は、歪な姿をしたウルフやゴブリンのような見た目だ。
他にもコウモリみたいな翼を有するタイプも見られ、種類が統一されていない。
いや、余計なことを考えている時間はない。
巨人の拳は、いつの間にか元通りに再生されているし、新たに次々と溶岩が噴き出してきている。
巨人と、その巨人から生み出された魔物、そして噴き出す溶岩を止めなければ、我が国が滅んでしまう。




