59 王子君の護衛
王子君こと、ラエン君の護衛という形で、私も彼らの調査の同行を許可された。
他の騎士達は、あまり良い顔してないけど、王子の意向とあっては逆らわないみたいだね。
「ティアの魔法は独学か? 無詠唱で中級以上の魔法を扱うなんて、王宮魔術士の中にもほとんどいないぞ」
源泉に向かう道中、ラエン君がそう聞いてきた。
魔法を使う際に、普通は専用の詠唱の行う。
理由は、威力向上と魔法自体を安定させるためだ。
下級魔法くらいなら、ほとんどの魔術士は詠唱無しでも扱えるだろうけど、中級、上級魔法になってくると、そうもいかない。
威力の高い魔法ほど、安定させるのは難しく、下手すると暴発もあり得るからね。
魔法はイメージが大切だからね。
それを安定させるのに、詠唱が必要なのさ。
もっとも、私は詠唱無しでもすべての魔法を問題無く扱えるけどね。
天才魔術士様の名は伊達じゃないのさ。
「そうさね。私は普通の魔術士よりもちょっと長い時間修業していたからね。どんな魔法でも、お手のものさ」
「長い時間って······ティアはそれほど年齢を重ねているようには見えないが。一体、いくつなんだ?」
「ラエン君、いや、ラエン殿下。女性に年を尋ねるのは良くないことだよ? まあ、見ての通り、私は永遠の18歳さね」
ウソは言ってないよね?
私は18歳の身体のまま、ずーーっと変化ないんだからね。
「18ということは、ぼくと3つしか違わないじゃないか。それなのに、あれほどの魔法を使いこなすなんて······」
ほうほう、3つということはラエン君は15歳ってわけか。見た目通りの年齢だね。
その年で、あれだけの魔法を使えるんだったら、充分すごいことだと思うけどな〜。
アル君や他の私の弟子達も、私が鍛える前は中級魔法の扱いも危なかったくらいだしね。
「ラエン様、警戒を! 魔物の襲撃です!」
また魔物が現れたようだね。
今度現れたのはロックゴーレムという、全身が岩で覆われた巨大な人型の魔物だ。
普通、コイツは人を襲うような魔物じゃなく、岩や土を主食にしているはずなんだけど、明らかに私達に敵意を向けているね。
これも魔物活性化の影響かな?
「ゴォオオオオッ!!!」
ロックゴーレムが巨大な両腕を振り回しながら、騎士達に襲いかかった。
岩で出来ている腕を高速で振り回すのは、それだけでも脅威だね。
全身が岩で覆われているから、騎士達の剣や槍もなかなか通らない。
「くっ、こんなところにロックゴーレムが現れるなんて、やはり異変は、この先で起きているのか!?」
ラエン君も慌てながらも、魔法の詠唱を始める。
確かに、ロックゴーレムは洞窟の奥深くで出くわすような魔物だし、こんな外を堂々と歩いていること自体、おかしいことだよね。
まあ、それを考えるよりも、先に目の前のゴーレムをなんとかしないとね。
騎士達も全身岩のロックゴーレムに、結構苦戦しているみたいだし。
「ちょっとお待ちを、ラエン殿下。ここは私にお任せなさいな。護衛として、ちゃんと働かないとね」
私は前に出て、ロックゴーレムに狙いを定める。
残念ながら、ゴーレム系はどんなタイプだろうと私の敵じゃないんだよ。
「そ〜れ、フレイムスピアー」
私は炎を直線上に撃ち出し、ロックゴーレムの身体を貫いた。
身体に小さな穴が開いたロックゴーレムは動きを止め、沈黙した。
「ま、まさかロックゴーレムの〝核〟を的確に貫いたのか?」
「そうさね。どんな魔物が現れようと、ちゃ〜んとお守りするから、安心するといいよ。あっはっはっ」
ゴーレム系は身体のどこかに心臓部とも言える〝核〟が存在する。
どんなに身体が大きくて頑丈でも〝核〟を失えば、あの通りさ。
ちなみに今、ロックゴーレムを貫いた炎は下級魔法さね。強力な魔物でも、やり方次第では下級魔法でも倒せるのさ。
下級魔法だろうと上級魔法であろうと、私の扱いは天下一品なのだよ。




