47 温泉でのんびり?
「いや〜、やっぱり温泉は癒されるね〜」
旅館で部屋を取って、さっそく温泉に入ったよ。
外の景色を楽しめる露天風呂なんかがよかったんだけど、残念ながらこの町にはないみたいだから、室内温泉だ。
まあ、首都の方には露天風呂があるだろうし、その時の楽しみにしておこう。
なんだかんだ、私も気付かない内に魔物退治で疲れていたみたいだね。
身体の芯からあったまる、この感覚の気持ち良いこと。
「何から何までありがとう、ティアさん。わたし、こんな高級旅館に泊まるなんて初めてよ」
一緒に温泉に浸かっているメイラちゃんが改めてお礼を言ってきた。
ちなみにアルフ君とメイラちゃん、そして私の三人で泊まれる部屋を取ったよ。
二人は普段、男女共用の安宿に泊まっているらしいから、男のアルフ君と一緒でも問題ないんだって。
男女二人きりで問題ないなんて、なんだか意味深な関係っぽいね。
「ティアさんは何者なんですか? あんな凄い活躍をする人が、ただの新人なんて思えませんけど」
「私かい? さっき言った通り、天才魔術士様さ。右へ左へ自由気ままに旅をしているのさね」
旅に出たのは、つい最近だけどね。
私が長く引きこもっていた、アレクバイン王国も良い所だったけど、他の国もそこにはない良さってものがあるよ。
メイラちゃんは私の答えに何か言いたげだったけど、深くは突っ込んでこなかった。
じゃあ、今度は私から質問しようかな。
「メイラちゃんはアルフ君とどういう関係なんだい? 戦いでも息が合っていたし、それなりに長い付き合いなんじゃないかな?」
「アルフとは同じ村出身で、ただの幼馴染みよ。小さい頃から一緒にいたから、付き合いが長いと言えば長いわね」
あ〜、やっぱり幼馴染みなんだね。
男女の幼馴染みが一緒に冒険者か〜。
これはこれは色恋沙汰の予感がしますな〜。
「ただのとは、ずいぶん強調するね〜? もしかしなくて、やっぱりそういう関係なんじゃないかな」
「ち、違うわよ······!? アイツは昔から、見てて危なっかしくて放って置けないから、仕方無く一緒にパーティーを組んでいるだけよ」
ムキになるところが怪しいよ?
まあ、初々しくていいじゃないのさ。
私もそんな時期があったね〜。
もう、何百年も前の話だけど。
「おい、メイラ聞こえてるぞ! 誰が危なっかしいだよ、オレがお前の後始末に、どれだけ苦労してると思ってんだ!」
男湯方面から、アルフ君の声が響いてきた。
男湯と女湯は壁一枚で分けられているだけだから、姿は見えなくても、会話は出来る。
「ちょっ、アルフ!? アンタ、まさかわたし達の会話聞いてたの」
「仕方ねえだろ。他に誰もいないんだから、お前らの声が響いてくるんだよ」
確かに私達以外にお客さんの姿はないね。
ゴブリン騒動が収まったばかりだし、まだ客足が戻っていないのだろう。
「それよりも、ティアにあること無いこと吹き込むなよ! 危なっかしいんだったら、お前も人の事言えないだろう?」
「な、なんでわたしが危なっかしいのよ!?」
なんだか夫婦喧嘩みたいで微笑ましいね〜。
面白いし、黙って聞いていようかな。
「つい先日に、お前が商人の護衛の依頼を受けた時に······」
「わああっ、ストップ!? それ以上、喋るなーーっ!!」
何のことかわからないけど、メイラちゃんにとって恥ずかしい失敗をしたみたいだね。
メイラちゃんは咄嗟に、手元にあった桶を男湯方面に向けて投げた。
男湯と女湯を分けている壁はそこまで高くないので、桶は壁を超えて、男湯の方に入った。
「痛ぇな!? 何しやがる、メイラ!」
おおっ、どうやらアルフ君に当たったみたいだね。姿が見えないのに、すごいじゃないのさ。
メイラちゃんは戦闘では弓矢で後方支援するタイプだったから、遠距離攻撃が得意みたいだね。
――――――――――!!
今度は男湯の方から桶が飛んできた。
メイラちゃんを狙ったんだと思うけど、狙いが逸れて私に命中した。
痛······くはないんだけど油断していたから、ちょっとビックリしたよ。
もし私を狙ったんだとしたら、大したものじゃないのさ。
「ちょっと、アルフ! 何、ティアさんに当ててるのよ!」
「ゲッ、ティアに当たったのかよ!? メイラ、お前が変なことを言うからだろ!」
微笑ましい言い争いだけど、周りを巻き込むのは関心しないね。
ちょ〜っとばかし、お灸を据えてあげようかな。
「そ〜れ、お返しスプラッシュ!」
「えっ······なんだ、お湯が急に······うわあああっ!!?」
私は「水」属性魔法を、男湯方面に向けて放った。壁で姿が見えなくても、これくらいの距離ならどの位置にいるか把握出来るからね。
床から、お湯が間欠泉のように噴き上がって、それに巻き込まれたアルフ君が高く舞い上がった。
――――――――――!!!
男湯と女湯を隔てる壁を越えて、アルフ君が私達の浸かる湯船に落ちた。
「な、なんだ······一体何が起き······」
「きゃああっ!? アルフ、何女湯に入ってきてるのよ!!」
咄嗟に身体を隠そうとするメイラちゃんだけど、小さなタオルじゃ全身を隠せていない。
特にメイラちゃんは胸がそこそこ大きいからね。別に羨ましく思っていないよ?
「あっはっはっ! 他にお客さんはいないんだから、一緒に仲良く浸かろうじゃないのさ」
「今の、まさかティアの魔法の仕業か······!?」
湯船に沈んだアルフ君が勢いよく立ち上がった。
ほうほう、アルフ君は剣士として前に出て戦うタイプなだけに、なかなか引き締まった身体付きじゃないか。
羞恥心? 恥じらい?
そんなもの、私の中からはとっくの昔に消えてなくなったよ。
「前くらい隠せーーっ、バカーーッ!! それと、こっち見んなーーっ!!!」
メイラちゃんはそんなことはなく、顔を真っ赤にして叫んだ。
なるほど、付き合いは長いけど、まだお互いに裸を見るのは恥ずかしいようだね。
メイラちゃんの拳が炸裂して、アルフ君が再び高く舞い上がった。




