40 救世主
冒険者の女の子が何人かゴブリンに巣まで連れ去られてしまったらしい。
早く助けに行かないと女の子達の純潔がゴブリンに穢されちゃうことになっちゃう。
ここにいる重傷者は回復したし、命が危険な人はいないからもう大丈夫だろう。
治癒魔法じゃ身体の傷は治せても、心の傷は治せないから急がないとね。
私は風魔法を身体中に纏って、最大加速でゴブリンの巣へと向かった。
ゴブリンの巣は山の岩壁の洞窟だ。
自然に出来た洞窟ではなく、ゴブリン達が掘ったのだろう。
入口付近に見張りのゴブリンが数体いたけど、軽く蹴散らして中へと入った。
グズグズしている時間はないからね。
洞窟の中は入り組んだ迷宮のようになっていたけど、私の探索魔法にかかれば、どこに何があるのか、どんな構造をしているのか一発でわかる。
天才魔術士ティア様に不可能はないのだよ。
魔物以外の反応が洞窟の奥の方、かなり広い大部屋の空間にいくつかあるね。
これが連れて行かれたっていう冒険者の女の子達だろう。
ただ当然、それ以上に凄い数の魔物の反応も集まっているよ。
「ゲギャアアッ!!」
「ひ、いやああっ!!?」
狭い道を抜けて大広間のような場所に出ると、ゴブリンが集団で今まさに女の子達に襲いかかろうとしていた。
女の子達は乱暴に服を引き裂かれて、ゴブリン達の魔の手にかかる寸前だった。
種族を問わず、女の子に乱暴するのは駄目だよ。
「エアブレイド!」
私は風魔法でゴブリン達を吹き飛ばし、女の子達の前に立った。
危ない危ない、もう少し遅かったら手遅れになっていたね。
「あ、あなたは······?」
「魔術士······?」
女の子達は何が起きたのかわからず、呆然としていた。ここにいる女の子は六人だね。
巣の中に他に反応はないし、連れ去られて来たのはこれで全員みたいだ。
「私は正義の使者、救世主! 天才魔術士ティア様さ。私が来たからにはもう安心だよ。あっはっはっ!」
怯えている子もいたから、私は出来るだけ明るく派手に名乗りを上げた。
怪我をしている様子はないし、間に合ってよかったよかった。
「ゲギャッ」「グウウッ」
ゴブリン達が怖い顔をしながら私達を取り囲んだ。言っておくけど、怒ってるのは私の方なんだよ?
無理矢理に女の子を辱めようとするなんて、問答無用で死刑にされても文句は言えないんだよ、キミ達?
それにしても見渡した感じ、魔物はゴブリンだけじゃないね。
昆虫型の蟻の魔物、ビッグアントの姿もある。
この洞窟はビッグアントが掘ったものみたいだね。そこにゴブリンも住み着いて、共存していると。
ゴブリンは厄介なことに稀に同種や人間だけでなく、こういう明らかに種族の違う魔物とも交配することがある。
ゴブリンの増える早さを考えると、女王はゴブリンとビッグアントの混合種の可能性が高いね。
爆発的に増殖する厄介な組み合わせなだけに、さっさと駆除しちゃった方がよさそうだ。




