4 ラーベリックの町
シャクト君率いる冒険者パーティーの案内で病気で苦しんでいる人達がいるという町に向かう。
ちなみにさっき倒したブレードボアは私の収納魔法で異空間に仕舞い込んだよ。
収納魔法とは魔力で自分だけの特殊な空間を作り出し、自由にアイテムを出し入れできる便利魔法のことだよ。
使い手の魔力によって収納できるアイテム量は変化する。私の魔力ならあれくらいの魔物なら丸々入っちゃうのだ!
「ティアさん、あんな大きな魔物が入るなんてすごいです! わたしなんて小さな荷物を少し入れるくらいが精々なのに」
サーリィちゃんが興奮して言う。
うんうん、私の偉大さをわかっているようだね。
「あたしの魔法とはレベルが違いすぎるわ······」
もう一人のタミアちゃんはちょっと悔しそうにしてるね。若者はそういう向上心も大切だからね。
良い傾向だと思うよ。
「ティアちゃんってそんなにすごい魔法を使えるのにどこのパーティーにも属さないでソロで活動しているのか?」
気安い感じで言ってきたのはレッグ君だね。
シャクト君はリーダーだけあって堅い感じだったのに対してレッグ君は少し砕けている口調かな。
ちなみにシャクト君とレッグ君は同じ19歳らしいね。サーリィちゃんは18歳、そしてタミアちゃんは17歳だってさ。
レッグ君はさっきの魔物の攻撃で大きなダメージを受けていたけど、今は私の治癒魔法でピンピンしてるよ。
レッグ君を治したのを見たからシャクト君達も私の魔法で町の人達の病気をなんとかできるかもって判断してくれたんだよね。
「あっはっはっ! 私は自由を愛する魔術士だからね。一人の方が何かと動きやすいのだよ」
まあ今までは弟子達の面倒を見たり、国からの頼まれ事を引き受けたりで自由に動けなかったからね。
一人でいることが好きってわけじゃないけど久方ぶりの自由の身は最高だよ。
そうして森を抜け、特に何か起きることもなく町へと着いた。
ここは確かラーベリックという名の町だったかな? 前にも来たことあるね。
もう何十年も前の話だけど。
あの頃はまだ小さな町だったけどずいぶん発展したものだね〜。
町に入ってすぐの目立つ場所に立派な石像が置かれていた。
凛々しく美しい女性が杖を右手に掲げ、左手には魔導書を開いて今にも魔法を撃ちそうなポーズを決めている。
「あ、ティアさん、やっぱりネイティアース様の像が気になりますか? 魔術士なら憧れの存在ですよね!」
私が石像を見上げていたらサーリィちゃんがテンション高めにそう言ってきた。
あ〜、やっぱり私の像なんだね。
けど実物より大人っぽいし、身体の所々······特に胸なんか盛りすぎだしで、何か美化しすぎじゃないかい?
「様々な偉業を成し遂げた不老不死の魔女ネイティアース。この町もその昔、魔物の大量発生が起きた時に救われたって話だったな」
シャクト君が言う。
あ〜、そんなこともあったね。
魔物を操っていた魔王を倒しても、魔物すべてがいなくなるわけじゃない。
野生化した魔物は今でも人類の脅威として存在している。だからこそ、現在も魔物を討伐する冒険者などが活躍しているわけだけど。
「その魔女ってまだ存命でもう数百年も生きてるとかって話じゃなかったか? 本当に人間なのかよ」
「確か今はアレクバイン王国に守護者として身を置いているんだったわね。最近は表舞台には滅多に現れなくなったみたいだけど」
レッグ君とタミアちゃんが言う。
失礼な、私はれっきとした人間だよ。
アレクバイン王国は勇者と出会った思い出の国でもあるわけだからね。
居心地良くて長く滞在していたのは確かだけど、別に守護者とか名乗った覚えはないよ?
それにしても私の石像か〜······。
並んで見ても同一人物とは思えないくらい美化されてるね〜。
まあ、だからこそシャクト君達も私の正体に気付いてないわけだけど。
なんかものすごく気恥ずかしいね。
破壊しちゃってもいいかな?
「ってティアちゃん!? 何魔法をぶっ放そうとしてるんだよ!」
ちょっと手に魔力を込めていたらレッグ君に慌てて止められた。
「ん〜? 不老不死の魔女様の像なら私の魔法にも耐えられるかな〜と思ってね」
「ティアさん······」
「あっはっはっ! 冗談だよ、ジョーダン」
サーリィちゃんが何とも言えない表情をしたので私は豪快に笑って否定した。
本当に壊すつもりはないよ。本当だよ?
「さあさあ、それよりも病気で苦しんでる人がいるんだろ? 早く救いに行こうじゃないか」
町は大きく発展しているけど、住人の姿がほとんど見えない。
これだけ大きな町だってのに閑散としてるね〜。
こりゃあ思ってたよりも事態は深刻なのかもしれないね。