23 魔女と騎士団長
「アル君こそ久しぶりだね〜。確か三年ぶりくらいだっけ?」
「五年ぶりですよ、お師匠様」
「あっはっはっ! そうだったかな? 年を取ると時間の感覚が曖昧になるからね〜」
な〜んてね。ちゃんと覚えているよ。
時間に関しては誰よりも正確に把握しているさ。
なんたって自分の残りの時間もわかっちゃってるんだからね。
「それで、お師匠様は何故我が国に? アレクバイン王国からはるばるやってくるなんて、何事か起きたのですか?」
アル君が疑問を投げかけてきた。
私は何十年もアレクバイン王国に引き込もっていたからね〜。
けど、別に深い理由はないんだけどな〜。
「いやいやいや、特に何も起きちゃいないよ。なんとなーく旅行したいな〜って思って来ただけだし」
それでまさかスタンピードに遭遇するなんて思わなかったしね。
いや〜本当、運が良いのか悪いのか。
「相変わらずの思いつきの行動ですか。まさかアレクバイン王国の方々に黙って出てきたのですか?」
「そんなことはないよ? ちゃ〜んと書き置きを残してきたさ」
「··················こちらから、それとなく連絡を入れておきますね」
もう心配性だな〜、アル君は。
子供じゃないんだし、私がいなくなったくらいで騒いだりしてないって。
「それはそうと、今回のスタンピードに違和感があるんだよね。アル君の意見を聞かせてくれないかな?」
「どういうことでしょうか?」
私はアル君に今回のスタンピードが人為的なものの可能性があることを話した。
かつて魔王の作り出した魔法陣が復活していたこと。それが自然復活ではなく、何者かの手によって行われていたかもしれないことを。
「············申し訳ありませんが心当たりはありませんね。魔王の魔法陣となると並の魔術士では扱えないでしょうし」
アル君にも心当たりはなしか〜。
確かに魔王の遺した魔法陣なんて、そう簡単には扱えないだろうしね。
そんな上級魔術士がいたとして、じゃあ何のためにそんなことを? って疑問も出てくるし。
「強いて言えば一人扱えそうな方はいますが」
「え、心当たりがあるのかい?」
「はい、私の目の前に」
アル君の目の前って············私のことかい?
「それは酷いんじゃないかな、アル君? 私がスタンピードを起こすような悪人に見えるのかい?」
「お師匠様が悪意を持ってそんなことをするとは思っていません。ですが、うっかり引き起こすのなら高確率であり得ると思っています」
「それはそれで酷いんじゃないかい? 私がそんなことをしたことあったっけ?」
「私への修練の件をお忘れですか? 加減を間違えたとかで何度死ぬ思いをしたことか」
まあ、そんなこともあったかな。
実戦訓練でちょっと魔物をおびき寄せる量を失敗したっけ。
弟子の中でもアル君は特に優秀だったから私も少し張り切っちゃったりしてたからね。
「もしかしてアル君、根に持ってる?」
「フフ、どうでしょうね。まあ、修業中は恨み言が湧いてきたことはありましたが、今では感謝していますよ」
どうやら本気で私が引き起こしたとは思ってないみたいだね。
まあ、私もやり過ぎたことは認めるよ。
アル君は私の最後の弟子の予定だったからね。
なんだかんだでサーリィちゃんやらタミアちゃんみたいな弟子が出来ちゃったけど。
それはそれとして、アル君も心当たりがないとすれば、やっぱりスタンピードは自然発生だったのかな?
魔王の魔法陣だし、たまたまイレギュラーなことが起きてもおかしくはないか。
そういえば他の場所はどうなっているかな?
かつての魔王の遺産はあれだけじゃない。
他にも色々と、はた迷惑なことしてくれていたし、もしかしたらそっちも復活しているかも。
丁度いいかもしれないな〜。
どうせ当てのない旅をするつもりだったし、観光ついでに魔王の遺した封印も巡ってみるかな。




