19 絶望的状況の救世主
(シャクトside)
順調に魔物の数を減らしていき、勝利を確信しかけていたところに大型の魔物、竜が現れた。
他の魔物とは比べ物にならない迫力だ。
当然、見た目通りの戦闘能力を誇り、上位冒険者が束になってかかっても勝ち目のない相手だ。
俺もこの目で見るのは初めてだ。
話に聞いていた以上の威圧感がある。
「ギュアアアーーーーッッッ!!!」
竜が咆哮をあげた。
それを聞いた周囲の冒険者達は及び腰になっていたり、腰を抜かしている者もいる。
そんな奴らを臆病だとかバカにする者はいない。
それどころじゃないし、気持ちもわかるからな。
俺は気合いを入れて自分を奮い立たせた。
「レッグ、戦えるか!?」
「ああ、いけるぜ。ヘヘっ······まさか竜と戦える日が来るとはな。コイツを倒せばオレは竜殺しを名乗れるぜ!」
俺の言葉にレッグが無理矢理笑いながら答えた。
勝ち目のない相手なのはわかっているが、逃げるわけにもいかないからな。
「サーリィ、タミア! 援護を頼むぞ!」
俺とレッグは武器を構えて竜に立ち向かう。
サーリィとタミアはティアさんとの特訓で強くなったが、竜と正面から戦うのはいくらなんでも危険だ。
「フレアブラスト!!」
「エアブレイド!!」
サーリィが火魔法、タミアが風魔法をそれぞれ放った。魔法は竜に直撃したが大してダメージが入っているようには見えない。
「はああっ!!!」
二人の魔法攻撃に気を取られている隙をついて俺とレッグは竜の懐に入り、剣を突き立てた。
しかし竜の強靭な皮膚を貫けず、弾かれてしまう。
「グオオアアアーーッ!!!」
竜が反撃で鋭い爪を振り下ろしてきた。
俺は剣で受けるが、竜の力が強すぎて後方に吹き飛ばされてしまう。
さらにレッグが背後から攻撃を仕掛けたが、竜の巨大な尻尾に薙ぎ払われていた。
これほどの巨体だというのに動きが素早く、付け入る隙がまるでない。
俺達以外の他の冒険者達も遠距離からの魔法攻撃を加えるが、竜にはまるで効果がない。
「ゴアアアッッッ!!!」
竜が大きく口を開き、炎のブレスを吐いた。
炎の勢いは凄まじく、辺り一帯が火の海となる。
まさに地獄絵図だ。
「グオオオーーッ!!!」
周囲の冒険者達を腕や尻尾で薙ぎ払いながら、竜は魔法の詠唱中のサーリィとタミアのもとに迫っていた。
竜は力が強いだけでなく知能も高いと聞いている。戦っている冒険者達の中であの二人がもっとも脅威だと判断したようだ。
マズイ、詠唱中の二人はすぐには動けない。
「······!? サーリィ!!?」
「きゃあああっ!!?」
竜はサーリィに向けて鋭い爪を突き立ててきた。
あの体勢ではとても避けられない。
俺もサーリィ達を助けるために駆け出したが間に合いそうにない。
――――――――――!!!!!
肉を突き刺す嫌な音と真っ赤な血が辺りに飛び散った。この出血量ではサーリィは······。
そう思って顔を上げるとサーリィは尻餅ついて倒れていたが無傷だった。
タミアも驚いている表情だが無事だ。
「やあやあ、なんとか間に合ったみたいだね。大丈夫かい、二人とも?」
竜とサーリィ達の間に入って立っていたのはティアさんだった。
竜の爪はティアさんの胸を貫いていた。
サーリィを庇い、攻撃をまともに受けたんだ。
どう見ても致命的な一撃を受けているというのに、ティアさんは何でもないかのように二人に笑いかけていた。




