1 プロローグ
現在より遡ること約500年前。
世界は恐ろしい魔物を率いる魔王の手に落ちようとしていた。
だが強大な力を手にした勇者が現れ、魔物は次々と討伐されていき、そしてついには魔王をも打ち倒し世界は平和を取り戻した。
勇者と魔王の戦いは現在まで伝説として受け継がれ続けている。
勇者には同等の力を秘めた仲間がいたと伝えられている。その中の一人、ネイティアースという名の魔女は魔王討伐後、様々な国を巡り、魔王の被害を受けていた人々の救済をしていた。
そうして500年経った現在、彼女は世界一偉大な魔術師として勇者以上の名声を残していた。
まあ、私のことなんですけどね!
いや〜、自分でやったこととはいえ、こうして持ち上げられるとやっぱり恥ずかしいわね。
勇者だって頑張っていたのに、なんか魔王討伐は私の助力があったことで成し遂げられたとか言われているし。
勇者は名声に拘る性格じゃないから気にしないだろうけど、少し心苦しく思うわ。
ちなみに魔王討伐から500年後の現在、私は未だに生きています。
勘違いされそうだからハッキリ言うけど、私は普通の人間だよ?
魔力は当時からそれなりに高い方だったけど、精々100年くらいしか生きられない種族だからね。
じゃあなんで生きているのかっていうと、私は魔王との戦いで呪いをかけられたのだ!
その名も不老不死の呪い。
名前の通り、身体は老いることなく、そして何しても死ぬことのない不死身になれる呪い。
魔王と戦った時、私は18歳だったから500年経った今も当時と同じ容姿だ。
まさに永遠の18歳!
呪いじゃなくて祝福じゃないかって?
今ではそう思ってるけど当時は色々と大変だったんだよ。なんていったって何しても死ねない身体なんだからね。
どんなに血を流しても、毒を飲んでも、身体をバラバラに引き裂かれても痛みは感じるけど決して死ねない。
そして勇者含む当時の仲間達は呪いを受けてはおらず、みんな天寿を全うしてもうこの世にいない。
私を残してね。
みんながいなくなった時は本当に絶望した気分を味わったよ。
寂しさを紛らわせるために私は色々な国を巡り、そして結果的に数々の偉業を成し遂げた。
草木の生えない枯れた大地を緑溢れる土地にしたり、便利な魔道具をいくつも作り出して国を発展させたり。
いや~、数え出したらキリがないね。
時間はあっただけに本当に色んなことに手を出したものだよ。
けど、それももうすぐ終わる。
私の命はあと1年で終わるからね。
不老不死の呪いを受けたんじゃないかって?
それはそうなんだけど、その呪いの効力がもうすぐ無くなるんだよね。
不老不死の呪いの効力は、呪いを受けてからピッタシ500年で切れる。
これは呪いを研究し続けた結果、わかったことで間違いないと断言できる。
そしてあと1年で500年を迎えることとなる。
呪いが解けた瞬間、私の身体はあるべき姿に戻ることになる······つまりは死が待っている。
まあ、死ぬのが怖いなんて今更思わないけどね。
寧ろ、ようやく死ねるかと思ってるくらいだよ。
呪いのことを知っているのは当時の仲間達だけ。
そしてその仲間達ももういないから誰も事実を知る者はいない。
私が直々に鍛え上げた弟子達も呪いのことは知らない。まあ、わざわざ言うことでもないからね。
あと1年か〜············。
改めて考えるとなんだか感慨深いね。
本当に色々あったな〜。
そういえば昔は世界中を旅して回ったものだけど最近は引き込もってばかりだったかな。
よし、久しぶりに旅に出てみるかな。
人生の最後が引き込もって終わるなんて嫌だもんね。それに顔見知りがたくさんいるこの国で最期を迎えたくはないわ。なんとなく気まずいし。
みんなは私がもうすぐ死んじゃうなんてこと知らないからね。
さて、そうと決まったら善は急げ!
旅支度をササッと済ませて出発しよう。
ま、収納魔法でいくらでも荷物は運べるし、大抵の物は創造魔法で作り出せるから手間はかからないけど。
服装もオーケー! 黒のローブに帽子。
昔、勇者と旅してた頃のを引っ張り出したよ。
後は書き置きも残して行くかな。
もうこの国に戻ってくることはないだろうしね。
直接別れの挨拶に行ったら引き止められそうだし。簡潔に一文でいいかな。
長々書くのは性に合わないから。
〈旅に出ます。もう戻ることはないけど捜さなくても大丈夫だからね♡〉
よし、こんな感じでいいかな。
さ〜て、それじゃあ人生最後の世界旅行に洒落込むとしようかね〜。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ちなみに後日、魔女の弟子が書き置きを見つけ、国中が大騒ぎとなるのだった。