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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス⑤/崩壊

「ロイ?」


 ユノがそう言った瞬間、地面が揺れた。

 

「わわわっ!? なな、何なになにっ!?」

『これは……』

(デスゲイズ、なんだこれ!?)


 すると、床に亀裂が入り、部屋の壁にも亀裂が入る。

 何が起きたのか───すると、デスゲイズが言った。


『これは崩壊じゃない。どうやら……この領域を作った魔族が、故意に崩壊を招いている。どうやら、今戦った魔界貴族が死んだ気配を察知したんだろう。危険を感じたのかもしれんな』

(悠長に言ってる場合かよ!? おい、どうすれば)

『最初に言っただろう? 恐らく───』

(───核、か!!)


 このデミ・アビスにある、魔界貴族侯爵『遊戯』のルードスの核を破壊する。

 この空間のどこにあるのか? それはわからない。


『まずいな。空間が崩壊すれば間違いなく死ぬぞ』

(デスゲイズ、核はどこにある?)

『恐らくだが……この空間の中心、最も魔力が集まる場所だろうな。確証はないが』

(十分!! で、近いのか?)

『……崩壊の影響か、魔力の流れが不安定だ。だが……力の流れを追えばわかる。ふふ、崩壊を選択したのは悪手だったな。おかげで、空間の亀裂から流れ出る魔力を追うことができる』

『よし』


 ロイは、八咫烏の声を出した。

 そして、エレノアとユノに言う。


『こっちだ、付いてこい』

「わかった!!」

「うん。あの……義姉さんたちは」

『途中で拾う。今は、一刻も早くここから出るぞ』

「どうやって?」

『説明は後だ。行くぞ!!』


 八咫烏、エレノア、ユノは走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ルードスは、知恵の輪を捨てた。


「…………シュプレー、死んだ」


 別に、死ぬのはいい。

 だが、問題は……聖剣士が、侯爵級でありバリバリの戦闘系であるシュプレーを倒したということ。

 正直なところ、ルードスの戦闘力はシュプレーよりも下。つまり、このまま聖剣士が『領域』から脱出すると、自分の危機に繋がる。


「…………」


 ルードスは決めた。

 今、目の前にある不安を取り除く。そのために、領域を崩壊させて中にいる聖剣士を全員、確実に始末する。

 そうなると、シュプレーに持たせたワクチンサンプルも失われる。ネルガルの撒き散らした『疫病』に対するワクチンサンプルは、今のところ一つしかない。

 

「……どうする」


 ワクチンサンプルは、なくせない。

 トリステッツァ配下に求められる、『疫病』に対する絶対的なルールの一つに、『希望』というものがある。どんな状況でも、決して人間から『希望』を奪ってはならない、というものだ。

 希望を奪うのは最後。そして、その役目はトリステッツァが行う。

 希望を奪われ『嘆く』人間が、トリステッツァの大好物なのだ。

 その希望を、ルードスは……。


「……まずい」


 ルードスは爪を噛む。

 主であるトリステッツァは、四大魔王の中でも温厚だ。涙もろいという一面はあるが。

 だが───優しいわけではない。

 もし、大好物である『嘆き』をルードスの不手際で失ったとわかれば、処罰……あるいは、処刑もあり得る。


「…………」


 だが、シュプレーを倒した聖剣士の前に現れるつもりはない。

 なので、ルードスは速攻で決めた。


「希望、持たせてやるか」


 ルードスが指を鳴らすと、領域の崩壊が始まる。

 ほんのわずかな出口を残しておけば、聖剣士なら脱出できるかもしれない。

 駄目なら───そこでおしまい。トリステッツァには『領域を攻略できず死んだ』と報告するしかない。

 トリステッツァは嘆くかもしれない。もしかしたら自分も処刑されるかもしれない。

 だが、シュプレーを倒した聖剣士の前に出るよりは、マシ。


「がんばれ聖剣士。脱出できたら、ボクは姿をくらますとするかね」


 そう呟き、ポケットから小さな木製のパズルを取り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「ねえ!! こっちで合ってんの!?」

『ああ!!』

「あ───待って!!」


 エレノア、八咫烏、ユノが、崩壊する領域内をひたすら走っていると、ユノが急停止。

 ユノが指さした先には、マリアたちがいた。

 マリアもユノに気付き、驚いたように叫ぶ。


「お前たち!? よかった、無事だったか」

「義姉さん。よかった」

「ユノ……と、話は後だ。どうやらこの世界の崩壊が始まっている。脱出するぞ!!」

「うん」

『全員、こっちだ』


 八咫烏が言うと、マリアはギョッとして剣を抜いた。


「貴様、何者だ」

「まった、マリアさん、こいつは変な仮面だけど味方なの!!」

『…………』

「味方?」

「う、うん。こいつね、出口を知ってるの。ロイを見つけて先に脱出させて、あたしたちのこと聞いて、ここまで来てくれたのよ」

「何?」


 エレノア、ナイス。

 ロイはそう心の中で呟き、マリアを仮面越しに見た。


「……いいだろう、だが、妙な真似をしたら斬る」

『好きにしろ。とにかく、付いてこい』


 ロイは走りだすと、エレノアたちも付いてきた。


『───近いぞ、ロイ』

(核か?)

『ああ、本当に馬鹿な奴だ……剥き出しの『疑似核』がある。この領域を構成する、魔族の心臓にして弱点。どうやら、魔王連中も、『魔王聖域(アビス)』の弱点に気付いていないようだ。気付いているなら、こんな弱点を残しておかない』


 到着したのは、崩壊寸前の広い空間。

 その中央に、小さな白い宝石がフワフワ浮かんでいた。

 エレノアが眼を輝かせる。


「わ、綺麗……ね、なにこれ」

『この領域の核だ。これを破壊すれば領域は死滅し、魔族も死ぬ』

「え……ま、マジ?」

『ああ。ここに来た理由、もうわかっただろ?』


 ロイは一瞬で矢を番え射る。矢は宝石に命中し、砕け散った。

 そして、領域に亀裂が入り───世界が、崩壊した。


 ◇◇◇◇◇◇


「───……っぐ」


 ルードスが胸に激痛を感じ、パズルを取り落とすと……身体が、青く燃え始めた。


「あー……」


 理由は不明だが、内側から攻撃され心臓を破壊された。

 ルードスはようやく、領域内に『核』があることを知った。


「…………負けた、のかぁ」


 燃える身体。

 死は免れない。

 なので───ルードスは最後に、落としたパズルを拾った。

 スライド式の、簡易な木製パズル。

 最後に何度かスライドさせ、絵柄を完成させる。

 出てきた絵は、シンプルな雪ダルマだった。


「───……クリア」


 満足げに微笑み、ルードスは完全に消滅した。


 ◇◇◇◇◇◇


 世界が割れると、真っ白な光に包まれ───八咫烏たちは地上に戻って来た。

 八咫烏は一瞬で離脱、変身を解き、今来たようにエレノアたちの元へ駆け寄った。


「おーい!! みんな、無事だったか!!」

「ロイ……」


 ユノが真っ先にロイに抱きつく。

 いきなりのことで思わず受け止めてしまうが、頭をぐりぐり押し付けてくるユノを引き剥がせない。

 不思議な甘い香りが髪からする気がして、ロイは顔を赤らめてしまった。


「…………」


 エレノアがムスッとし、何度か咳払い……ようやくユノが離れた。

 エレノアは、全員を見て言う。


「どうやら、勝った……のかな?」


 そして、ポケットからワクチンサンプルを二つ出した。

 あと三つ。全てを合わせれば、疫病に対するワクチンとなる。

 マリアはエレノアからサンプルを受け取り言う。


「とりあえず、今は状況を確認しよう。警戒しつつ、町の様子を探る。侯爵級は倒したと思うが、男爵級や子爵級などの部下が潜んでいる可能性もある。慎重に行くぞ」


 マリアを先頭に、町へ向かう。

 その途中……ロイは、小さな木製パズルが落ちているのを見つけ、拾った。


『魔力の残滓がある。恐らくこれは、我らを閉じ込めた魔族のモノだろうな』

「…………」


 ロイは、なんとなくそのパズルをポケットに入れた。

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