魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス③/先へ進む
「で、なんだこれ?」
『クイズのようだな』
ロイ、デスゲイズの前にあったのは大きな紅白の扉。その前には立て看板があり、『問題。魔界貴族男爵の次爵は、子爵である。丸なら赤、バツなら白へ』と書かれていた。
首を傾げていると、デスゲイズが言う。
『答えは赤だ。どうする?』
「……わざと危険な道を進むっていうのは?」
『……本気で言ってるのか?』
「いや冗談。でも……本当に、正解が『正解』なのか?」
『……戦闘準備を整えてから開けろ』
「ああ」
ロイは深呼吸───そして、ゆっくりと赤いドアを開けた。
開けた瞬間、ロイは矢を番え感覚をフル起動……室内の気配を探る。
「…………」
誰もいない。
サイドテーブル、ソファ、テーブルの上には飲み物が用意してあるだけの小さな部屋。
弓を下ろし、中へ踏み込む。
「……何も、ないな」
『…………』
「水がある。それに、このソファ……お、なんか紙がある」
テーブルの上にあった紙には『正解! 問題は難易度が上がっていきます。まずは休憩し、リラックスしてから挑戦しよう!』と書かれていた。
ピッチャーに入った水はキンキンに冷えており、敵地だと思いつつもロイは手を伸ばす。
『おい』
「わ、わかってる」
喉の渇きは我慢。
ロイは、部屋を見渡す。ソファに座るのもやめておいた。
「あのクイズ、何なんだ?」
『……どうやら、この領域を作った魔界貴族の能力だろう。さしずめ、『ゲームを作る』能力といったところか』
「ゲーム……オルカやユイカとボードゲームくらいはやったことあるけど」
『……まともなゲームではないだろうな。とりあえず、慎重に進め』
「ああ」
部屋を出ると、次も同じ紅白の扉があった。
そして、立て看板があり、どこからか声が。
『問題。嘆きの魔王トリステッツァ様の部下である魔界貴族侯爵は、現時点で何人? 十名以上なら紅い扉、以下なら白い扉を進め』
と、問題を聞いたロイは思わず叫んでしまう。
「し、知らねぇよ!?」
『……我輩も知らん。昔は二十名くらいずついたと思うんだが……うーむ』
「ど、どうすりゃいいんだ……」
『勘で進むしかあるまい』
「…………」
長々と迷うわけにもいかない。
ロイは、赤い扉のノブに手をかけた。
『十名以上……いいのか?』
「勘」
『……ふっ』
ドアを開け、次の部屋に入るとそこは───広い、何もない空間。
最初にいた何もない部屋に似ている。だが、いきなりロイの目の前に立て看板が落ち、床に突き刺さる。
そこには、『残念!』と書かれていた。
同時に、巨大な魔法陣が二つ現れ、そこから二体の『赤い鬼』と『青い鬼』が現れた。
「なっ……」
『レッドオーガ、ブルーオーガか。チッ……ハズレの罰、というわけか。見ろロイ、部屋の隅』
「……ッ!!」
部屋の隅には、大量の人骨と鎧、砕けた聖剣が転がっていた。
恐らく、先にここへ送られたアイスウエストを守る聖剣士たち。
『クイズに外れると、こいつらの餌ってわけか』
「餌、ね」
ロイは矢筒から矢を抜き、オーガたちをギロリと睨んで呟いた。
「俺は餌じゃない。狩人だ……こいつら二体、一分以内にケリ付けてやるよ」
◇◇◇◇◇◇
「「…………」」
エレノア、ユノの二人は、『動く床』をクリアした。
が……苦労して先に進んだはいいのだが、目の前にそびえ立つ『塔』を見上げ、ただ茫然とする。
しかも、塔の周りには『動く床』が上下に動いていた。まるで床を使って登れと言わんばかりに。
「これ、登るの……? え、噓」
「でも、先に進むにはこっちしかない」
塔はかなり高い。
床の動きもかなり不規則で、途中まで登ったら引き返すこともできないし、降りることも困難になる。
ユノは迷わず進み、エレノアも気合を入れて近くの板へ───すると。
『ギャァァァァァァァァァァァァァウゥ!!』
「「!!」」
なんと、どこから現れたのか、真っ赤な怪鳥が塔の周りを旋回し始めた。
見るからに肉食……そして、塔を登り、エレノアは気付く。
「……ユノ、あれ」
「……!」
エレノアたちがいた場所の反対側に、人骨が大量に落ちていた。
落下して死んだのか、それとも怪鳥にやられて死んだのか。
相当な数の聖剣士たちだ。持ち主を失ったボロボロの聖剣が落ちている。
「……エレノア、どうする?」
「先に進む。当然だけど、あたしたちはここから落ちないし、あのデカい鳥にも喰われたりしない。ここから脱出して、魔界貴族をブッ倒すわよ!!」
「うん」
エレノアとユノは、上下に動く床に向かって跳躍した。
◇◇◇◇◇◇
ルードスは、もう何個目かわからない知恵の輪を解き、放り投げた。
「…………」
「ちょっと!!」
そこに、シュプレーが怒鳴り込む。
ルードスは露骨に嫌そうな顔をしてシュプレーを睨む。
「何……」
「あんた、そろそろ真面目にやりなさいよ!!」
「やってるよ。ボクの『聖域』内では、閉じ込めた聖剣士たちが何人も死んでるよ?」
「それはわかってるけど、こう……何もしてないじゃない。あたしも暇だし!!」
「じゃあ遊んでくれば?」
「めんどくさい。あたしも聖剣士で遊びたいのぉ~!!」
「うっさいなぁ……じゃあ、入る?」
ルードスが指をパチンと鳴らすと、シュプレーの隣に黒いドアが現れた。
「暇なら殺してくれば? これ、貸すからさ」
「あ」
ルードスは、ポケットから自分のワクチンサンプルを出し、シュプレーに投げる。
それをキャッチし、シュプレーはニヤリと笑った。
「なぁに? 急に協力的になったじゃない」
「きみがやかましいからだろ。はっきり言うけど、ボクは手番が終わるまで聖域を解除するつもり、ないよ」
「ったく、怠け者ねぇ? ネルガルに叱られるわよ?」
「知らないよ。いちおう、ボクの『亜空遊技場』には出口があるし、出てこれたらクリアになる。ちゃぁんと『僅かな希望』ってルールは守ってるさ」
ルードスは、知恵の輪を取り出す。
「あ……これ、最後の一個だ」
「ま、いいわ。じゃあ……ちょぉっと遊んでくるわね」
そう言い、シュプレーはドアを開けて中へ。
ルードスは、軽く手を振って知恵の輪に没頭していた。
◇◇◇◇◇◇
「けっこうしぶとかったな」
ロイは、頭に七本、心臓に五本、喉に四本ほど矢が刺さったレッドオーガ、ブルーオーガの死骸を見ながら、のんびりと言った。
オーク系の上位種。討伐レートはSのレッドオーガ、ブルーオーガ。高位の聖剣士でも相手が難しい敵を、ロイは無傷で、苦戦することなく倒した。
すると、オーガたちの死骸が溶けるように消えていく。
「よし、次に行くか」
『───……待て』
「ん?」
先に進むドアが、開いた。
「くふふふふっ……みぃつけた」
現れたのは、日傘を持った派手な女。
魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーが、そこにいた。
シュプレーは、ロイを───デスゲイズをジーっと見て首を傾げる。
「八咫烏、だったかしら?」
『…………』
「パレットアイズ様の部下を追い詰めた、得体の知れない聖剣士……フフ、その仮面の下がどうなっているのか、少し気になるわねぇ? せっかくだし、相手をしてもらおうかしらぁ?」
シュプレーは、日傘をクルクル回転させる───すると、一瞬で飛んできた矢を、人差し指と中指で挟んで止めた。
狙いは心臓───……これには、シュプレーも表情を変える。
「遠慮のない、本気で殺すための一撃……ふふ、冷酷ぅ」
『…………』
「ま、いいわぁ……退屈しのぎに付き合ってもらうわよぉ!!」
ロイは矢を何本か抜く。
貫通力のある『鉄芯矢』を番えると、デスゲイズが言った。
『気を付けろ。こいつはバリバリの戦闘タイプだ。パレットアイズの公爵級よりも手ごわいぞ』
(ああ、感じてる……でも、関係ないね)
『油断はするな』
デスゲイズの声に、ロイは小さく頷く。
そして、ポツリと呟いた。
「三分以内にケリ付ける───……いくぞ」





