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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーと『遊戯』のルードス②/亜空遊技場

 不思議な空間だった。

 パレットアイズの『魔王聖域』は、異空間というより『現実が改変されていくような』空間だった。家がお菓子になったり、お菓子を食べた人間が蟲になったり、妙な軍団がパレードを始めたり。

 だが、ここは最初から異変しかない。


『聖域は、使い手によって能力が違う。例えば……パレットアイズの基本能力は『菓子化』という、あらゆるモノを自在に『菓子』に変化させる能力だ。それを『菓子を喰らう蟲』に変化させたり、『菓子を食べるモノを楽しませるパレード隊』や、『パレードを守る騎士』など、能力を拡張させることが可能となったのが『魔王聖域』だ。つまり、聖域内では能力に上限がない。あくまで根底に『菓子』がなければならんがな』

「菓子化……すっごく羨ましい能力だな」

『そっちか……まぁいい。この異空間は確かに『魔王聖域』の術式が根底にある。恐らく、術式の構成を極限まで削り、『異空間展開』と『能力付与』だけに特化させた力だろうな。名を冠するなら魔族が展開する聖域ほどではない空間……『魔族領域(デミ・アビス)』といったところか』

「デミ・アビスね。お前、そういう名前つけるの好きだよな」


 魔族領域(デミ・アビス)

 確かに、パレットアイズのような異質さがあまり感じられない。パレットアイズの聖域は、普段の光景が徐々に、徐々に変わっていく異質さ、恐怖を感じたが、この空間は初めからおかしい。

 ロイは、一人で白い部屋にいた。何もない真っ白な部屋で、雪の大地に立っていたはずなのに、硬いコツコツした床に変わっている。

 ふと、部屋の先に小さなドアがあった。


『あそこから出れそうだな』

「出れそうだけど……どうなってるんだろうな、この空間」

『……ロイ、お前には教えておく。これは、『魔王聖域(アビス)』を使う魔王も知らん』

「?」


 デスゲイズは、意を決したような声で言う。


『絶対に他言するな。『魔王聖域(アビス)』は、術者の体内のようなモノだ。つまり……空間を展開すると、弱点である《核》も領域内に現れる。これは魔王たちも知らない……我輩が教えなかったからな。つまり、聖域内にある核を破壊すれば、魔族は死ぬ』

「なっ……じゃ、弱点どころじゃないだろ、それ」

『ああ。我輩が作り出した『魔王聖域(アビス)』は完璧すぎた。そのまま魔王たちに教えると、面倒なことになりそうだったからな。聖域内に《核》の分身が生み出されるように作り直し、魔王たちに伝えた。分身の存在は魔王ですら感知できん。そういう風に教えたからな』

「…………マジか。じゃあ」

『この空間内にも疑似的な《核》があるはずだ。それを破壊すれば、この魔族は死ぬ……だが、それは最後の手段にしてほしい』

「え、なんで?」

『この魔族が死ねば、トリステッツァに聖域内に『疑似核』があると悟られる。つまり、聖域を教えた我輩を連想する……今は、我輩の名も思い出してほしくない。頼むぞ、ロイ』

「……わかったよ」


 ロイは、ドアの前に立った。

 すると、ドアが自動で開き、先へ進めるようになる。


「とりあえず、ここから出ることを考えよう。あと……エレノアたちに合流しなきゃな」


 部屋の外へ一歩踏み出したロイは───。


 ◇◇◇◇◇


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「むぎゅぅぅ」


 エレノア、ユノの二人は───『動く地面』の上に立っていた。

 ロイと同じような『白い部屋』にいて、ドアから出て一歩踏みだした瞬間、なんと地面が動き出した。

 正確には、二人が立てるほどの大きさの『白い板』が、数十メートル行ったり、戻ったりを繰り返している。

 わけがわからず、エレノアはユノをムギュッと抱きしめ、ユノはエレノアの胸に包まれ前が見えず、息もしにくそうだった。が……ようやく顔を出し、慌てるエレノアの背中をポンポン叩く。


「エレノア、エレノア」

「ななな、なにぃぃぃぃ!?」

「落ち着いて。周り、周り」

「えぇぇ!?」


 慌てるエレノアがキョロキョロし、ようやく気付く。

 今、自分たちがいる『動く床』は、少しだけ浮いて前後に行ったり来たりを繰り返している。

 そして、前方で止まると、二秒ほど停止して後方へ戻る。


「……あれ?」


 前方で止まると、数メートル先に同じような『白い板』があるのが見えた。

 どうやら、自分たちが立っている場所以外も、『白い板』が動いているようだ。

 ユノは気付いていた。


「たぶんここ、ダンジョン? 動く板から板に飛び移って、先に進むんだと思う」

「……なるほど」

「エレノア、先に進もう。義姉さんたち、探さないと」

「え、ええ!! その、騒いでゴメン」

「ううん。エレノアのおっぱい、ふわふわして気持ちよかった」

「……ああ、うん」


 なんともコメントに困る。

 エレノアはコホンと咳払いした。


「それにしても、アスレチックみたいなダンジョンね」

「楽しそうかも」

「かもね。でも、遊んでる場合じゃないし、さっさと行くわよ」

「うん」


 エレノアとユノは魔力を漲らせ、身体強化。

 白い板が前方で止まると同時に、別の板に飛び移った。


 ◇◇◇◇◇

 

「なんだ、ここは……」


 マリアは、部下である三人の部隊長と同じ場所にいた。

 目の前には、エレノアとユノが体験している『動く板』がある。

 だが、その数が尋常ではない。

 マリアたちのいる場所は普通の床板だが、その先には『動く板』があった……のだが、どう考えても、自分たちのいる位置が『空の上』としか思えなかった。

 なぜなら、自分たちの位置から下を覗くと……地面が、数百、数千メートルは下にあるからだ。

 

「だ、団長……これ、夢っすかね?」


 部隊長の一人、マルローが頬をピクピクさせながら言う。

 スキンヘッドの部隊長であるデノスは自分の頬を引っ張っていた。

 そして、顔が真っ蒼な最年少の部隊長である女性、ソレナが言う。


「だ、団長……これ、落ちたら……ど、どうなるんですか?」

「…………」


 答えられない。

 というか、答えなんて決まっている。


「……いずれにせよ、先に進まねばなるまい。マルロー、デニス、ソレナ、いいか……絶対に、落ちるなよ。タイミングを合わせ、一瞬の身体強化を使い、板へ飛び移る。いいか、タイミングを外すな」

「「「は……はい」」」


 三人は頷いた。

 非現実的な光景に、まだ頭と体が付いて行かないようだ。

 マリアは深呼吸し、タイミングを合わせ───跳躍。


「はっ!!」


 見事、足場に飛び移れた。

 残る三人も、やや危なっかしいが落ちることなく飛び移れたようだ。

 

「先は長い。慎重に行くぞ」

「「「はいっ」」」


 マリアは次の足場へ向けて、跳躍の準備を始めた。


 ◇◇◇◇◇


 アイスウエストの町、正門。

 魔界貴族侯爵『遊戯』のルードスは、解けた知恵の輪を投げ捨て、新しい知恵の輪をポケットから取り出し遊び始めた。

 そして、魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレーは、ルードスの手から知恵の輪を没収。自分で解き始める。


「おい、何すんだよ」

「いいじゃない。どうせいっぱいあるんでしょ?」

「まあ、あるけど」


 ルードスは、ポケットから新しい知恵の輪を取り出して解き始める。

 カチャカチャと金属の擦れ合う音が響き、シュプレーが言った。


「ね、あとどのくらい?」

「……どっちが?」

「聖剣士」


 知恵の輪を解く時間か、聖域内に取り込んだ聖剣士のことか迷った。

 シュプレーが「聖剣士」と言うと、ルードスはつまらなそうに言う。


「……今、『アクションゲーム』に二組、もう一人は……あれ? こんな奴いたっけ」

「ん~?」

「黒いコートに仮面のやつ。こんな人間いたかな?」

「……あ、それ知ってる。パレットアイズ様をやっつけた『八咫烏』とかいうヤツね」

「いつの間に」


 ルードスは、八咫烏がいつ入ったのか本気でわからない。

 興味があったのは、炎聖剣フェニキアと氷聖剣フリズスキャルヴを持った二人だけ。

 まさか、ロイが変身したなど、考えもしなかった。


「ま、しっかりやれば~?」

「言われなくても。『アクションゲーム』が終わったら、次は『紅白ゲーム』……ふふっ、楽しみだ」


 ルードスの口が少しだけ持ち上がった。


 ◇◇◇◇◇


「……なんだ、これ」


 部屋を出たロイの眼の前に、赤い扉、白い扉が並んでいた。

 すると、どこからか声が聞こえてくる。


『問題。魔界貴族男爵の次爵は、子爵である。丸なら赤、バツなら白へ』

「…………はい?」


 唐突なクイズに、ロイは首を傾げるのだった。

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