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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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アイスウエストの街へ

「───……ってわけで、アイスウエストの街へ行くことになったから」


 ロイの宿に来たエレノアは、会議の一部始終を説明した。

 概ね、デスゲイズの予想通りだった。デスゲイズは『な?』と言う。

 ロイは、エレノアがホットルピーを飲み干すのを待ってから言った。


「アイスウエストの街……そこに、魔界貴族が」

「間違いなくね。報告だと、『遊んでる』らしいのよ。ワクチンサンプルをチラつかせながら、アイスウエストの街に常駐してる聖剣士相手にね」

「遊んでる?」

「ええ。報告によれば、その……ワクチンサンプルを持っている魔界貴族、子供らしいわ」

「子供……デスゲイズ、知ってるか?」


 と、ここでデスゲイズが言う。


『わからん。トリステッツァの配下は、入れ替わりが激しいからな。いや……トリステッツァに限らず、公爵以外の魔族はよく入れ替わる。パレットアイズのように入れ替えがほぼない例は稀だ』

「じゃあ、お前もわからないのか」

『ああ』


 しばし、沈黙。

 それから、エレノアが言う。


「出発は明後日。なるべく急ぐみたいだけど、どうしても準備があるからね……」

「それはいいんだけど、いいのか? 王都も大変なんじゃ」


 王都は、毎日十名ずつ感染者が出ている。

 今はまだ悪寒、発熱程度だが、二週間もすれば死に至る。


「いちおう、治療系の聖剣士の『能力』で、ある程度の進行は遅らせることができるみたい。何もしなければ二週間だけど、治療を受ければ一か月は何とか……って言ってたわ」

『ちなみに、ネルガルの疫病は『治療行為をすること』で延命することができるように設定されているぞ。そういう病気にして、希望を持たせるのがあいつらのやり方だ』

「「…………」」


 嫌な話だった。

 疫病が始まってすでに四日が経過している。今のところ発病したのは四十名。王都にいる治療系聖剣士たちでも対応できる数だ。

 『疫病』のことは、国民が全員知っている。

 外出を禁じ、王都外へ出ることを禁じ、体調不良者は無償で治療を受けているのが現状だ。これ幸いにと、疫病以外の病気で治療を受ける者も少なくないとか。

 だが、それでも無償で治療を始めた。この国を守るために。


「王様の決断、すごかったな……」


 毎日、外では聖剣士たちが巡回し、体調不良の者は王都に何箇所も設置された臨時診療所での治療を受けろと言いまわっている。

 聖剣士たちだって、疫病に掛かるかもしれないのだ。いや……いずれは病に侵される。

 それでも、今もこうして戦っている。


「ロイ……アイスウエストの街に来てくれるよね」

「当然」

『ふん、ネルガルはともかく、侯爵級ならロイでも勝てる。いや、エレノアとユノ、お前たちが倒せ。ロイは援護に徹するからな』

「ええ。任せて!」


 エレノアが胸をドンと叩くと、大きな胸が揺れた。

 ロイはそれを見ないようにし、今思ったことを言う。


「そういえば、ユノは?」

「ああ、あの子なら、父親のところに行ってるわよ」

「父親? 王様───……ああ、わかった」


 ロイも聞いていた。

 ユノには、父親が二人いる。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

「おとうさん」

「おお、ユノ」


 王都郊外の森にある大きな家。

 ユノは、一人でここに来た。

 出迎えたのは、クマのような大男……ではなく、ユノの父ベアルド。

 ネルガルの襲撃時に会うことはできたが、ゴタゴタしたせいで、こうして会うのは四日ぶりだ。

 アイスウエストの街にユノが行くのは明後日。今日は、この家に泊る。


「はっはっは!! あー……め、メシの支度をせねばな」

「おとうさん」

「え、ええと……」


 ユノが、ジーっとベアルドを見る。どうやら怒っているようだ。

 

「あ、ええ「おとうさん、どうしてわたしを養女に出したの」……ぅぐ」


 質問は、案の定だった。

 ベアルドは、威圧するユノの前に小さくなる。

 そして、ぽつりと言った。


「……氷聖剣に選ばれたのだぞ」

「うん」

「いつまでも、こんな王都郊外の、木こりの娘というわけにもいくまい」

「わたし、気にしない」

「だが……」

「わたし、悲しかった……おとうさん、わたしのこと嫌いになったのかと」

「そんなことはない!!」


 ベアルドは叫ぶ。

 ユノは、真っすぐな視線を送るベアルドを見た。


「おとうさん、わたしを養女に送ってからずっと避けてた。いつもはこの家にいたのに、コールドイーストやアイスウエストで木こり始めるようになって、何年も会えなかった」

「…………」

「たまに会えたけど、わたしが養女のこと聞くとすぐに逃げた……でも、今日は逃がさない」

「うぐっ」

「おとうさん、わたし……わたし、おとうさんの娘だから。王族なんかじゃないよ」

「…………」


 ユノは、ベアルドに抱きついて甘えた。

 ベアルドは、大きな手でユノの頭を不器用に撫で、敗北を認めたように苦笑する。


「すまんかった……ワシが浅はかだったよ」

「……ん」

「こんなゴツイ熊みたいな男と暮らすより、華やかな王都で、同世代の聖剣士たちと一緒に学び、暮らす方がお前のためになると思った。だが……正直なところ、ワシも少し寂しかった」

「わたし、今も寂しい」

「ああ。すまんな……」

「おとうさん、わたし、ここに来てもいい? おとうさんの子供?」

「ああ。いつ来ても構わんぞ。友達も連れてきなさい」

「うん」

「あー……だが」

「だいじょぶ。義姉さんにはちゃんとお話するね。わたし、あの王様がおとうさんだなんて、思ったことないから。あの人、氷聖剣しか見てないし」

「…………ユノ」


 ベアルドは、何かを言おうとしたが、口をモゴモゴさせるだけで終わった。

 そして、手をポンと叩く。


「よし!! 今日はイノシシ肉で鍋でも作るか。ユノ、手伝ってくれ」

「うん。あのね、話したいこといっぱいあるの」

「おお、いっぱい聞かせてくれ」


 ユノは、久しぶりに「おとうさん」との時間を過ごすのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 二日後。

 エレノア、ユノ、ロイは、魔法高速艇乗り場に来た。

 これから向かうのはアイスウエストの街。すでに先発隊が向かい、町の様子が報告に上がっている。

 マリアは、ユノたちに言った。


「確認した魔界貴族侯爵は二人。少年少女のようなナリをしているが気にすることはない。奴らからワクチンサンプルを奪うことだけを考えよう」

「うん」

「はい!!」


 ロイは頷いた。実は何度かマリアに「王都で待機すべき」と言われている。だが、ロイが『八咫烏』と知るのはエレノアだけなので、「自分も戦う」とは言えない。ただエレノアとユノが心配だから付いてくるだけの同級生、という立ち位置だった。

 

「幸い、魔界貴族たちはアイスウエストの町を我が物顔で歩いたり、聖剣士たちと軽く戦闘しては舐め腐った態度で見逃したり、ワクチンサンプルをチラつかせて嘲笑っているようだ……おのれ」

「……そいつらから、ワクチンサンプルを奪うんですね?」

「ああ。ワクチンは合計五つ、その内の二つを必ず手に入れる……ユノ、エレノア君、君たちだけが頼りだ」

「うん。義姉さんは戦うの?」

「ああ。私と、部隊長が何人か同行する。はっきり言うが、実力はユノとエレノア君よりも高い。だが、七聖剣の力はいざという時に必要になるかもしれん……」

「もちろんです。マリアさん、あたしとユノができることなら、なんでもしますので!!」

「する」

「……ふっ、頼りにしているぞ。それとロイ君」

「は、はい」

「君は宿での待機を命じる。いいか、決して戦おうとするな」

「……はい」


 そういうわけには、もちろんいかない。

 魔法高速艇に乗り込み、アイスウエストの町へ出発した。

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