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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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魔界貴族公爵『疫病』のネルガル①/吹雪の中で

『起きろ、おいロイ、起きろ!!』

「ん~……?」


 ふかふかぬくぬくの毛布に包まれていたロイは、大きな欠伸をして薄ぼんやりと目を開けた……が、ぬくぬく布団が気持ちよく、再び目を閉じてしまう。

 すると、デスゲイズがふわっと浮かび、ロイの頭をコツンと叩いた。


「いでっ……あぁもうなんだよ、昨日蒸し風呂で長湯しすぎたせいで、すっごくだるい」

『寝ぼけるな馬鹿!! この気配───……魔界貴族だ』

「……えっ」

 

 ロイは起き上がった。

 

『正確には、魔界貴族の残滓のような、小さな気配だ。何かがこちらに向かっている……』

「な、な、なんだそれ?」

『わからん。だが、放置するとマズい。仕留めに行くぞ』

「おう……うぅ、こんな朝っぱらに来やがって」


 ロイは、机の上にあったオヤツの果実を何口か齧り、速攻で着替えた。

 

「『黒装(トランス)』……よし、行くぞって寒っ!? さっむ!?」


 変身し、デスゲイズを手に窓を開けると、とんでもない冷気が部屋の中に。

 慌てて窓を閉めた。


『何してる、お前』

「さ、寒いんだよ!!」

『いいから行け。火のダンジョンでは熱い熱いと言ってただろうが』

「あっちはあっちでヤバいけどこっちもヤバい!!」


 こんな日に限って、外は吹雪いていた。

 レイピアーゼ王国の外壁で多少は守られているが、それでも今日が吹雪なことに変わりない。むしろ、外壁の外はこれ以上だろう。

 すると、デスゲイズは『わがままな奴め』と言う。


『コートに魔力を流せ。火のダンジョンのときもそうしていただろう』

「うぅ……熱いのは多少我慢できるけど、寒いのマジで無理だ」


 意を決し、ロイは窓を開けて飛び出した。

 

 ◇◇◇◇◇


 やはり外は吹雪いており、屋根の上に立ったロイは身震いする。


「さ、さむっ……おいデスゲイズ、ほんとに魔界貴族いるのかよ」

『さっきも言ったが、名残のような物だ。魔界貴族本人ではない』

「それ、エレノアたちに言った方が」

『エレノアたちは城だったな。あの広い城のどこにいる? 探すまでにどのくらい時間がかかる? 真正面から仮面を被っていくか? それとも、生身のお前が行くか? それでどう説明する?』

「う……」

『今回はお前が直接動いた方が速い。魔界貴族のような何かは、王都に向かって接近中だ。急げ』

「今回も何も、俺毎回動いてばかりだけどなっ!!」


 ロイは屋根を伝って、デスゲイズの感じる気配の方向へ。

 仮面のおかげで視界はクリアに保たれている。おかげで、寒さを我慢すれば何とか動くことはできた……が、寒い。

 手が寒さで固くなっているのがわかる。


「マズいな」

『……手か?』

「ああ。これ、狙撃に影響出るぞ」


 そう言いつつ、レイピアーゼ王国の外壁に到着。

 魔力を目に集中させ、二キロほど先を見ると───……何かが、いた。


「……なんだ、あれ」


 それは、真っ黒なヘビだった。

 普通、冬にヘビは冬眠するものではないのか。だが、一メートルほどの長さの蛇は、雪の上をズルズル這いながら移動している。

 すると、デスゲイズは言った。


『そういうことか……あれは、トリステッツァの配下ネルガルの力、『疫病』だ」

「疫病、って……蛇だぞ?」

『ネルガルの血を浴びたんだろう。地面に染みた僅かな血が触れ、ああなったんだ』

「……どう見ても、放っておいたらマズいよな」

『ああ。あれが町に入ったら、奴の血液が目に見えない粒子となって、王都全体に降り注ぐ。人類が未経験の疫病がまん延するというわけだ』

「…………」

『チッ……非常にマズいぞ。ロイ、ネルガルの血を浴びた生物はあの蛇だけじゃない……王都を囲うように、さまざまな生物が向かって来ているぞ』

「……クソっ」


 ロイは矢筒から矢を抜き、一瞬で放った。

 矢は蛇の頭を貫通。蛇は即死し、黒い身体の色が抜け落ちるように白くなった。


『お前、弓に影響を及ぼすとか……』

「影響出てる。蛇の頭蓋を撃ちぬくつもりだったけど、右に七ミリほどズレた……このくらいなら修正できるかな」

『お、おお……』


 つまり、ほとんど影響がない、ということだった。

 だが、ロイは焦る。


「デスゲイズ、大まかな数は」

『……約800だ。蛇だけじゃない、昆虫や羽虫、小動物たちが一斉に汚染され始めている。どうやら、一度ネルガルの血に触れた生物から、さらに汚染を拡大させることができるようだな』

「……ッ」


 一人では不可能。

 だが、泣き言を言っている暇はなかった。


「エレノアに連絡する手段、必要かもな……」


 そう言い、ロイは胸ポケットからメモを取り出し、文字を殴り書きし始めた。


 ◇◇◇◇◇

 

「ふぁぁぁぁ……」


 エレノア、起床。

 ぬくぬく布団から出て大きく伸びをする。すでに部屋の暖炉が点いており温かく、ベッドから出るのは苦ではなかった。

 手早く着替え、メイドが準備した湯で顔を洗い、髪を整えいざ朝食……だったのだが。

 朝食へ行こうと部屋から出ようとした瞬間、窓がコンコンと音を立てた。


「ん? なになに、白い……鳥?」


 なんと、白い鳥が窓をコンコン叩いていたのだ。 

 まるで、用事があるから開けろと言わんばかりに。

 窓を開けると、鳥はエレノアの肩へ止まる。


「わわ、何この子、すっごいかわいい……ん?」


 ふわふわして可愛い鳥……と思ったが、足に何か結ばれている。

 それを取り、広げると。


「え、これ……ロイの字? えーと……って、え!?」


 そこに書かれていたのは。


『魔界貴族の『疫病』が迫ってる。なんとか理由付けて応援頼む。俺は今その原因を迎撃中』


 そう、書かれていた。

 朝食、なんて言っている場合じゃない。

 エレノアは部屋を飛び出し、隣の部屋のドアを乱暴にノックする。


「ユノ、ユノ!!」

「……エレノア、うるさい」

「それどころじゃない!! ってかあんたまだ寝間着? じゃなくて、非常事態!! マリアさんところ行くよ!!」

「……? よくわかんないけどわかった」


 ユノは着替え、欠伸しながら部屋を出て来た。

 そして、「こっち」と言いながらスタスタ歩き、立派な装飾が施されたドアの前で止まった。


「マリアさん、ここ?」

「うん」


 ノックもせずにドアを開けるユノ。


「えっ」

「む?」

「義姉さん、エレノアが話あるって」

「マリアさん、非常事た───……」


 と、ユノを押しのけ前に出たエレノアが見たのは。

 ベッド。マリア。グレン。脱ぎ捨てられた衣服。覆いかぶさるグレン。そしてマリア。

 物凄く、見てはいけないシーン。

 エレノアが硬直。グレンは「おお、これは恥ずかしいな!!」と笑い、マリアがガタガタ震え、ユノはいつも通り無表情だった。


「エレノア、お話」

「そそそそそ、それどころじゃないでしょぉぉぉぉぉっ!? こんの大馬鹿ァァァァァァァァァァ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬぉぉぉっ!?」


 ユノを連れてエレノアは部屋から飛び出し、マリアはグレンの顔面を蹴とばし、グレンは吹っ飛んで壁に激突。兵士たちがすっ飛んで来る事態となった。


 ◇◇◇◇◇


「よし、次はあっちだ!!」

『数は順調に減っているが、王都へ近づく獣は増えている。このままでは───』

「それでもやるしかないんだよ!!」


 ロイは、外壁を移動しながら矢を放ち、王都へ近づく『血』に染まった黒い獣たちを屠っていた。

 数は100ほど始末したが、まだまだ大量に向かって来ている。

 このままでは、王都に『疫病』がまん延する。城の騎士たちの応援も欲しいところだ。


『外壁から攻撃魔法で無力化する以外ない。近づけば、聖剣士でも疫病に侵されるだろうからな』

「めんどくさいなぁ!!」


 矢を放ちながら外壁を移動していると───おかしなモノが見えた。

 思わず、ロイは止まってしまう。


「───何だ、あれ?」

『ロイ?』

「デスゲイズ……あれ、何だ?」

『……───まさか、あれは』


 ロイに指摘され、デスゲイズも気付いた。

 吹雪の中、車椅子があった。

 黒い髪が風でバサバサ揺れて表情は見えない……が、白いワンピースは血に濡れ、顔や手には包帯が巻いてある。さらに、両足が膝から切断されたのか存在しない。

 あまりにも、存在感が薄い。魔力を感知することに長けたデスゲイズすら見落としていた。

 すると、車椅子の少女の口が、三日月のように裂けた。


「っ……」


 ロイを見て、右手を上げる……そこにあるべき『指』が、ない。

 ロイは瞬間的に矢を抜いて構え、迷うことなく少女に向けて放つ。

 間違いなく、魔界貴族。

 矢は心臓に突き刺さり、少女はのけぞる……が、首をカクカクさせながら笑っていた。


「なっ……心臓、外したのか?」

『違う。核に届いていない……』

「え?」

『気を付けろロイ。あいつはネルガル……魔界貴族公爵、『疫病』のネルガルだ!! クリスベノワとは桁の違う、本当の魔界貴族『公爵』だぞ!!』

「……ッ」


 ロイは眼を細め、矢筒から『魔喰矢(グロトネリア)』を抜き、ネルガルへ向けて放った。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは酷いwwwユノちゃんさぁ、ノックくらいはしようよwww
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