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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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人類未経験の病

 ロイは、分厚いコートと毛糸の帽子、手袋に防水ブーツを履き外へ出た。


『ふむ、偵察とはいい心掛けだな』

「いや、せっかくだし町を歩いてメシとかお土産とかな」

『土産だと?』

「ああ。オルカやユイカに、レイピアーゼ王都の土産を」


 ちなみに、王都の名前はフリズノウスという名前だ。

 宿でも食事は出るが、今日のところは遠慮した。どうせしばらくは一人なのだし、せっかくの自由なので町でいろいろ食べてみたいとロイは思った。

 コートが分厚いせいで、デスゲイズが腰のベルトに差せないので、ロープで結んで背負うことに。

 準備を終えて宿から出た。


「あ……雪だ」


 外は、雪がはらはらと降り始めていた。

 が、道行く人は多い。みんな分厚いコートを着て歩いている。

 石畳の道を除雪する人や、店の前を除雪する人と、スコップ片手に除雪している人が多い。

 雪は降っているが、風はなく、寒さはそこまで厳しくなかった。


「でも、寒いな……おっ」


 少し歩くと、甘い香りがした。

 飲み物を売っている店だ。人が一人だけ入れる小屋で、とても小さい。

 近づくと、柑橘系の香りが強くした。ロイは店に近づき、店主の男性に聞いてみた。


「あの、これって何ですか?」

「兄さん、観光かい? フリズノウス名物、ホットルピーで温まりな」

「ホットルピー……」


 数種類の柑橘類を合わせ、砂糖で甘く煮た飲み物だ。

 レイピアーゼ王国の近くにある雪原果樹園で栽培された、雪国でも育つ果実らしい。

 さっそく買い、その場で一口飲む。


「うわぁ……すっごく甘い。でも、おいしい」

「はっはっは。一杯飲めば温まるぞ」


 その場で一杯飲み欲し、おかわりにもう一杯買った。

 近くのベンチに座り、ホットルピーをちびちび飲む。


「あぁ……うまい」

『気を抜きおって……』

「悪い。なんか移動疲れかな……すっごく気を抜きたい」

『まぁいい。今日はゆっくり休んで、明日からトリステッツァの調査を開始しろよ』

「ああ。ん? あそこ、公衆浴場だな……行ってみるか」


 ロイは忘れていた。

 公衆浴場のドアを開けて中へ入ると、老若男女が全員裸で、蒸し風呂へ入っていた。

 レイピアーゼ王国の浴場は混浴……ロイは慌てて浴場を出たのだった。


 ◇◇◇◇◇


 一方、エレノアは。


「ほう、そなたが炎聖剣フェニキアに選ばれし聖剣士か」

「は、はい」


 レイピアーゼ王国の王と対面していた。

 玉座の前に跪いている。

 ユノは仏頂面で、マリアは無表情で、エレノアは緊張でガチガチという、わかりやすい顔だ。

 レイピアーゼ国王、インヴェルノ。

 ユノの義父であり、マリアの実父。

 雪国の王に相応しい立派な口髭、水色の長い髪は三つ編みで、豪華な刺繍の施された服を着ているが、かなり鍛え抜かれた立派な体格をしていた。

 王という存在に、魔界貴族とは違ったプレッシャーを感じるエレノア。


「さて、楽にしたまえ」


 そう言われ、マリアが立ち上がった。

 ユノ、エレノアも立ち上がる。

 エレノアは、ここでようやく玉座の左右に立つ二人の若い男性に気付いた。

 

「マリア、自由は満喫できたかい?」

「はい、兄上」


 一人は、優し気な、マリアと似た雰囲気の男性だ。細身ながら鍛えられた身体をしており、サラサラな水色の髪がサラリと揺れ、にっこりと微笑んだ。


「はははっ!! 行商人だったかな? 我の婚約者殿はなかなか面白い自由の使い方をするなぁ!!」


 豪快に笑ったのは、赤髪に褐色肌の男性だ。

 城内とはいえレイピアーゼ王国は寒いのだが、薄手の民族衣装に金色のリングを付けた、派手な男性だ。まさかと思ったエレノアだが、聞くまでもなかった。


「グレン……私は、行商人という仕事を通して、人々とのふれあいをだな」

「あっはっは!! 硬い硬い。硬いぞマリア。もっと二人きりの時みたいにだな「グレン」……じょ、冗談だ」


 マリアに睨まれ、ビクッと震えた。

 フレム王国第一王子にして、王位継承者であるグレンだ。ユノではなく、マリアの婚約者であり、幼馴染という立ち位置だが、王族らしくない軽薄さをエレノアは感じ取った。

 そして、グレンはエレノアを見る。


「きみが、炎聖剣フェニキアの」

「あ……」

「炎聖剣フェニキアを、見せてくれないか?」

「え、でも」


 そう言われたが、七聖剣士といえど、国王の前で剣を出していいものか。

 王をチラッと見ると、にっこり笑って頷いた。


「じゃあ……はい」


 収納から炎聖剣フェニキアを抜くと、グレンは「おお」と目を見張る。


「美しいな……」


 その眼差しは、懐かしむような、羨むような眼だった。

 炎聖剣フェニキア。フレム王国の守護聖剣なのだが、フレム王国の人間ではなく、トラビア王国出身のエレノアが選ばれた……どうしようもないことだが、エレノアは少し居心地が悪い。

 だが、グレンは笑った。


「はっはっは!! 使い手がこんな可愛らしい少女とは、炎聖剣フェニキアもわかっているな。確か……エレノアだったな?」

「は、はい!!」

「炎聖剣フェニキアを頼む。そして、いつかその剣を手に、フレム王国へ来てくれないか?」

「え、あ」

「ああ、なにも嫁げという意味ではない。使い手として、我が国の人間たちに、その剣を見せて欲しいのだ」

「……そういうことなら、ぜひ」

「ああ。ありがとう!! その時は、国を挙げて歓迎しよう!!」


 気持ちのいい笑みを浮かべ、グレンは頷いた。


 ◇◇◇◇◇


「久しいな、ユノ」

「…………ん」


 国王インヴェルノが話しかけたが、ユノは素っ気ない返事しかしない。

 インヴェルノは苦笑。ユノは無感情な声で言った。


「氷聖剣の使い手として、役目を果たしに来ました」

「う、うむ」


 エレノアは「おや?」と思った。

 氷聖剣にしか興味がない国王と聞いていたが、インヴェルノは何かを迷うような、何を話しかければいいのか、悩んでいるように感じた。

 すると、ユノの兄が言う。


「ユノ。詳しい話は後で私から説明する。しばらく城に滞在してもらうけど、いいかな」

「はい」


 こちらも素っ気ない返事だ。

 ユノの兄も苦笑する。親子そっくりの表情で、家族だなとエレノアは思った。

 

「では、ここで失礼します」

「ユノ、待て」


 マリアが止めるが、ユノはペコリと頭を下げて謁見の間を出た。

 ユノがいなくなると、インヴェルノはため息を吐く。


「やはり、嫌われているな……」

「ボクもです……ははは」

「はっはっは!! まるで、氷の少女だなぁ!!」

「グレン、笑えないぞ……」


 マリアがそう言うと、グレンはさらに「はっはっは!!」と笑った。

 ユノの兄は、ため息を吐く。


「とりあえず───今夜は食事会だ。ユノの好物を並べようか。と、エレノアさん、だったかな?」

「ふぁいっ!?」

「きみには、ユノのことを頼みたい。あの子の傍にいてやってくれ」

「は、はい!! あたし、同期ですし、炎と氷ですし、はい!!」


 いきなり振られたことで、意味不明なことを口走るエレノア。

 マリアがエレノアの肩をポンと叩き、謁見の間から一緒に退出した。

 謁見の間から出ると、エレノアは思い切りため息を吐いた。


「あぁぁ……滅茶苦茶緊張したぁ。しかも最後、意味わかんないし……」

「ケイモン兄上なら気にしていないさ。さて、エレノア君。ユノを頼むぞ」

「は、はい……えっと、ユノの部屋は」


 エレノアはユノの部屋へ、早歩きで向かった。


 ◇◇◇◇◇


 一方、ロイは。


「あ~~~……雪カニうまかったぁ」


 夕飯に『雪カニ鍋』の店で鍋を食べ、ぽかぽか気分で夜の町を歩いていた。

 フリズノウスは、街灯が多く夜でも明るい。

 さらに店で聞いた話だが、大量の酒を各国から輸入しているらしい。寒いので、身体の内側から温められるお酒は、住人にとって水と同じなのだとか。

 さすがに酒は飲めないが、果実水をいっぱい飲んだ。


「公衆浴場は無理だし、宿の浴場であったまるかぁ」

『全く、恥ずかしがらずとも行けばいいだろうに』

「やだよ。男はともかく、女の人もいるんだぞ」


 公衆浴場を素通りし、宿へ到着。

 ドアを開けようとした瞬間、デスゲイズが言った。


『───ロイ』

「ん?」

『……………………いや』

「?」


 デスゲイズが何かを言おうとしたが、押し黙ってしまった。


『……気のせい、か』


 ロイはドアを開け、宿の中へ消えた。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


「───……レイピアーゼ王国、王都」


 王都フリズノウスの正門から一キロほど離れた雪原に、車椅子の少女がいた。

 吹雪をその身に受け、全身が酷い凍傷に覆われている……が、少女は……ネルガルは、全く気にしていない。

 そして、車椅子から立ち上がると、口があり得ないくらい大きくなり、自分の指十本を咥え、そのまま噛み千切った。

 口の中で指が咀嚼され、肉片となる。

 骨がベキベキ嚙み砕かれ───ネルガルは肉片を雪の上に吐き出した。

 指のなくなった手から、真っ黒な血がボタボタ流れ落ち、雪に染み込んでいく。


「『人類未経験の疫病(ドロウ・ド・グラーベ)』」


 真っ黒な血が、意志を持ったようにうごめき、まるで蛇のように這いずる。

 ネルガルは車椅子にドサッと座り、口が三日月のように裂けた。


「さぁ───……始めましょう。病を、災いを、苦しみを……そして、『嘆き』を」


 生物のように移動する『黒い血』を眺めながら、ネルガルは歪に微笑んだ。

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