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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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動き出す魔界貴族

「…………あれ」

「む?」


 トリステッツァに包帯を変えてもらっていたネルガルが、仕込んでいた『病』が消えたことに気付く。

 部下のガルムドが死んだ。死んで撒き散らすタイプの『病』ではなかったので、核が破壊されたと同時に、病と一緒に消滅したようだ。

 トリステッツァは首を傾げる。


「どうしたのだ?」

「死んだみたい」

「……ああ、お前が仕込んだ『病』か。ふう……安心だ。決められた領地以外を攻めるのはルール違反だからな。被害が出た時点で他の魔王たちに責められるところだった。ふぅぅ」


 トリステッツァは、部下の死に安堵……だが、すぐにボロボロ泣きだした。


「ぐ、ぅぅぅ……我が部下よ、そなたの死は忘れない。ええと……部下よ!!」


 部下の名前が出てこず、ネルガルは白けた目でトリステッツァを見る。

 トリステッツァは咳払いし、ネルガルに言った。


「さて、本格的に動かねばな。確か、レイピアーゼ王国は氷聖剣フリズスキャルヴの国。聖剣士がいるかわからんが、いつもの戦法で落としてやろう」

「……『魔王聖域(アビス)』を?」

「いや、それは最後の締めだ。今は、お前たちに任せる」

「じゃあ……今度こそ」

「うむ。お前の《疫病》……期待しているぞ」

「…………ん」


 包帯を変え終わったネルガルが両手をパンと合わせると、ネルガルの背後に四人の魔界貴族が現れた。


「みんな───……この国を毒す。殺さず、苦しめ、ほんのわずかの希望を持たせ……喰らい尽くそう」

「「「「仰せの通り」」」」


 疫病。

 トリステッツァの『手番』で使われる戦法。

 人類が経験したことのない『病』を流行させる。治療系、解毒系の聖剣士ですら治すことのできない病気を治療する手段は一つ。

 トリステッツァの配下である四人の魔界貴族侯爵と、ネルガルの持つワクチンサンプルを集め、調合すること。そうすれば病気は治る。

 だが……それは決して、楽な道のりではない。

 パレットアイズのように、四人の侯爵たちはダンジョンで待ち構えているわけではないのだ。病に侵された聖剣士たちは、血反吐を吐きながらワクチンを集めなくてはならない。

 

「ネルガル様ぁ。あたくし、今回が初めての『手番』なのでぇ~……ちょっと緊張しちゃってますぅ」


 フリフリのドレスに日傘を差した、アイスブルーの髪と瞳を持つ、どこかチャラチャラした少女が、可愛らしく首を傾げて言う。

 魔界貴族侯爵『ゆらゆら』のシュプレー。身体を揺らしながら、どこか楽し気だ。

 すると、カチャカチャとスライド式のパズルを解いている少年が言った。


「できないならすっこんでれば? 邪魔すんなら殺すけど」

「ぁ?」


 分厚いコートに帽子をかぶり、顔しか露出していない身長の低い少年だ。

 魔界貴族侯爵『遊戯』のルードスは、シュプレーの顔を見ず手元のパズルだけを見ていた。そんなルードスが気に食わないのか、シュプレーは傘をクルクル回して頬をピクピクさせる。


「喧嘩はやめなよ。みっともない……ぼくの胃腸、ただでさえ調子悪いのに、もっと悪くなっちゃう……あいてててっ」


 すると、げっそり痩せ細った、薄青い肌の青年が、しわがれた声で言った。

 薄青い肌には、サメのような鱗が生えており、頭にはツノも生えている。

 ひどい猫背で、髪も伸びっぱなし。陰気の塊とでも言えばいい男だった。

 魔界貴族侯爵『猫背』のジガート。その二つ名にふさわしい猫背の男は、音もなく歩いて二人の間に割って入る。

 すると、ルードスが鬱陶しそうに言った。


「喧嘩じゃないし。ってか邪魔」

「そうですよぉ? こんなガキと喧嘩するわけないじゃないですかぁ」

「ならいいですけどね。っっ、いてて……」


 ジガートは腹を押さえ、猫背のまま壁際へ。

 そして、最後の一人。

 眼鏡をかけた恰幅のいい中年女性がパンパンと手を叩いて言う。


「はいはいはい。そこまでにしなさい。じゃあさっそく役割分担するよ。アタシとジガートはコールドイーストの町へ、シュプレーとルードスはアイスウエストの街へ行って『病』をばらまくよ! ネルガル、アンタはレイピアーゼ王国王都でばら撒きな」

「ん……それでいい」

「「えぇ~? こいつとぉ?」」

「また喧嘩してるし……あいてて」


 嫌がるシュプレーとルードス。 

 すると、中年女性が両手をパンと叩くと同時に、二人の頭にゲンコツが落てきた。


「「いったぁ!?」」

「文句言いなさんな!! さ、仕事だよ!!」

「「………はぁい」」

「おお、さすがだね」


 ジガートがパンパンと手を叩く。

 魔界貴族侯爵『拳骨』のママレードは、ポッコリ出た腹をパンと叩いた。


「さぁ、久しぶりの『手番』だ。みんな、張り切っていくよ!!」


 トリステッツァの『手番』が、本格的に始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


「……ん」


 窓から漏れる光がロイの顔を照らし、ロイは起床する。

 ベッドから降り、大きく伸びをするが……寒い。

 ロイは震え、急いで着替えてコートを羽織る。どうやら火の魔石が消え、部屋が寒くなっていた。

 部屋を出てリビングへ。すると、リビングは温かかった。


「おはよう、ロイ君」

「おはようございます───……って、マリアさん!?」


 なんと、ユノの義姉マリアが朝食の支度をしていた。

 いきなりの事で驚くが、マリアは笑う。


「今日、この町で合流すると言っただろう?」

「確かに……でも、こんな早朝で、しかも朝食の支度をしてるなんて思いませんでした」

「ははは。口に合うかはわからんが……」


 パン、ベーコンエッグ、サラダ、スープ、果物という組み合わせだ。

 席に座ると、エレノアとユノも降りて来て、マリアを見て仰天する。


「ね、義姉さん? なんで?」

「ここで合流すると言っただろう?」

「び、ビックリしたわ……あ、いい匂い。マリアさんがご飯を?」

「ああ。さ、食べようか」


 マリアの作った朝食は絶品だった。

 食後の紅茶はエレノアが淹れ、落ち着いた頃にマリアが話し出す。


「今日は、レイピアーゼ聖剣騎士団の所有する魔法高速艇で、レイピアーゼ王国まで行く。その後、ユノとエレノア君は国王陛下へ謁見、ロイ君には宿を用意したので、そこで過ごしてくれ」

「ロイ、一緒じゃないの?」

「いや俺、付いてきただけだしな……それに、国王とか緊張するし」

『嘘つけ』


 デスゲイズの声は聞こえないふりをした。

 エレノアは、紅茶を啜って喉を潤しつつ言う。


「あの、あたしはやっぱり、炎聖剣で……?」

「ああ。実はその……私の婚約者、フレム王国の王子が、炎聖剣を見たいと言ってな」

「え」

「すまない。グレンはもともと、炎聖剣の継承者候補だったからな……」


 フレム王国の王子グレン。

 エレノアは、なんとも申し訳ない気持ちになり、炎聖剣を収納から取り出した。


「なんか、申し訳ないですね……」

「そんなことはない。炎聖剣フェニキアがエレノア君を選んだのは、間違いなく聖剣の意志。君が気遣う必要も、申し訳ないと思うこともない」

「は、はい……」

「グレンは純粋に興味を持っているだけだ。安心してくれ」

「……わかりました」


 エレノアは炎聖剣を収納し、頷いた。

 話は変わり、ロイが言う。


「じゃ、俺は留守番だな」

「むぅ」

「すまんな。外は寒いだろうが、観光して構わない。護衛はどうする?」

「いえ、俺も聖剣士の端くれなんで、大丈夫です」

『はっ、聖剣士ねぇ』


 デスゲイズの柄をぺしっと叩いた。

 留守番。確かに、ロイは普通の人が見れば、聖剣レジェンディア学園の新入生で、七聖剣士に選ばれたエレノアとユノの同行者にすぎない。

 だが、ロイにとっては好都合だった。


『トリステッツァの部下である魔界貴族も動くだろうな。ククク、久しぶりに楽しい狩りになりそうだ』


 デスゲイズは嬉しそうに言う。 

 ロイはもう一度、デスゲイズの柄をぺしっと叩いた。

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