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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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観光都市ラグーン④/魔族の手

 いっぱい、楽しんだ。

 オアシスを満喫し、豪勢な夕食を楽しみ、宿に戻って入浴し、ベッドへ。

 明日は買い物だ。女性陣が一番楽しみにしているイベントであり、ロイとオルカは荷物持ちとして一日を使うことになるだろう。

 ロイはベッドに寝転がり、隣にいるオルカに聞く。


「明日は買い物だな。な、何買おうか」

「とりあえず、面白そうなモン。どうせユイカたちは服とかアクセサリーだろ? オレは目についた面白そうなモン買って、寮の部屋に置く。そうすれば、ラグーンでの楽しい思い出を振り返ることができるから……」

「何言ってんだお前……まぁ、俺も部屋に飾る置物とか欲しいな。思い出のモンは欲しい」

「だろ!? はぁ~……働きたくない」

「そういやお前、俺たちが帰った後は宿の手伝いだっけ……がんばれ」

「おう。ま、気楽にやるさ。給金も出るっていうし、ユイカもいるから悪いことばかりじゃねーしな」

「まさかお前、ユイカのこと好きなのか?」

「そういうんじゃねーよ。あいつはダチだよ、ダチ」

「ふーん……ふぁぁ、もう寝ようぜ」

「ああ。おやすみ」


 ロイたちは目を閉じ、意識を手放した。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 ロイとオルカが着替えて部屋を出ると、ユイカが朝食を作っていた。


「おっはよ。ご飯、食べるでしょ?」

「え……ユイカが作ったのか?」

「なに? キャラに合わないとか言うつもり~?」

「すっげーいい匂い。おま、やるじゃねぇか!! あれ……他の二人は?」

「起きてるよ。女の子は、いろいろ支度する必要があるの!」


 十分後、エレノアとユノが来た。

 ユイカの朝食を食べ、五人はさっそく町に出た。

 観光都市ラグーンの中心は、観光客が非常に多い。まだ早朝なのに大勢の観光客が買い物を楽しんでいた。ここに、ロイたちも加わる。


「すっげえ人。迷子にならないようにしないとな」

「ロイ、手つなぐ」


 さりげなく、ユノがロイの手をきゅっと握る。

 柔らかな女の子の手にロイの心臓が跳ねた。すると、エレノアが二人の間に割り込む。


「はいそこまで。ユノ、手ならあたしが繋いであげるわね~」

「むぅ」

「お、おお」

「くっくっく。見てて楽しいぜ」

「茶化さないの」

「あいてっ」


 ユイカがオルカをぺしっと叩き、五人の買い物が始まった。

 最初に入ったのは、やはりアクセサリーショップだ。

 観光客向けの格安アクセサリーから、本格的なアクセサリーまで幅広い。そして、服や小物なども売っている店が数多く並ぶ区画に来ると、エレノアが言った。


「ん~、あたしここ来るのすっごく楽しみにしてたのよね。ユノ、ユイカ、行くわよ!!」

「うん!!」

「おー」

「男二人、荷物持ちよろしくねっ!!」

「「お、おおー……」」


 やはりというか、案の定というか……約半日、ロイとオルカはたっぷり荷物を抱え、区画内をひたすら歩き回ることになった。

 お礼に、お昼は奢りだった。ロイはともかく、オルカの疲労がすさまじい。


「おいオルカ……大丈夫か?」

「し、しんどっ……つーか、なんでお前は平気そうにしてるんだよ」

「ま、荷物担いで歩くの慣れてるからな」


 狩った獲物を解体する前に運ぶことも珍しくない。魔力操作して身体強化せずとも、ロイの筋力は十五歳の平均より遥か上だ。

 オルカも、聖剣士として鍛えてないわけではないが、それでも荷物持ちをしながら走り回るのはキツイ。なので、オルカとユイカは荷物を持って、先に宿へ帰ることにした。


「あたし、オルカと一緒に一回戻るね。ロイ、二人のことよろしく~」

「いいけど、二人きりでいいのか?」

「……ちょっとこっち」


 ロイは、ユイカに引っ張られみんなと距離を取る。

 すると、ユイカはヒソヒソ声で言う。


「あのねー……気を遣ったんだから、これを機にどっちにするかちゃんと決めなさいよ?」

「ど、どっちって何だよ」

「ユノか、エレノアか。ふっふっふ……お二人とも、あんたのこと好きなんじゃない?」

「は、はぁぁ!? そそ、そんなわけ」

「はいはい。いいから、これを機にしっかり考えたら? ささ、デートの時間開始っ」


 ロイの背中を押し、ユイカとオルカは荷物を持って戻ってしまった。

 残されたロイ、ユノ、エレノアの三人。

 エレノアは、大きく伸びをしながら言う。


「んぁ~……ちょっと歩き疲れたし、カフェでお茶しよっか。ふふふ……それにしてもユイカ、オルカと二人きりになりたいとか、大胆ねぇ」

「……あれ」

「ん、どうしたの?」

「あ、いや」

「甘いの食べたい」

「そうね。ケーキ食べよっか」


 なんとなく思った。

 エレノア……ユイカに気を遣われていることに気付いていない。ユノもだが、ユイカがオルカと二人きりになりたいから、二人と三人に分かれたと思っているようだ。

 気を遣われたのはこちらなのだが……と、ロイは言えない。


『二人とも喰えばいいだろう?』

(お前は黙ってろ。めんどくさくなる)

『くっくっく。楽しくなってきた。この旅行も悪くないな』


 デスゲイズの柄をぺしっと叩き、ロイはエレノアたちを追って歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


『…………チッ』

「ん?」


 カフェでお茶をして、町を歩いていると……デスゲイズが舌打ちした。


『楽しい時間は終わりだ。ロイ……魔族だ』

「え? 魔族って……大道芸人の人たちだろ?」


 エレノア、ユノはいない。

 二人は、近くのアクセサリーショップでピアスを見ている。どうやらエレノアがピアスに興味を持ち、耳に穴を空けるか悩んでいる。店員に「い、痛くないですよね?」や「あの、血は出ますか?」と青ざめた顔で聞き、ユノは隣でぼんやり聞いている。

 ロイは休憩がてら、店の外にあるベンチでシャーベットを食べている最中だった。


『この感じ、トリステッツァの魔力だ。どうやら、奴の配下が動き出したようだな』

「動き出した、って……ここでか!? レイピアーゼ王国じゃないのかよ」

『知るか。部下の暴走か、トリステッツァのルール違反か知らんが、間違いなく魔族……いや、魔界貴族が来ている。この冷たい、悲しみに満ちた魔力は間違いなく、トリステッツァのモノだ。あいつの魔力を受けた魔界貴族が、この町に入った』

「お、おいおい……」

『ロイ、始末しろ』

「……場所はわかるか?」

『魔力は町の入口付近から感じる。急げ、まだ間に合う』

「まだ間に合うって、暴れたりするのかよ」

『トリステッツァの配下は特殊だ。いいから急げ』

「わ、わかった」


 エレノア、ユノに声をかけようかと思ったが……楽しそうにピアスを見たり、ユノの耳にピアスを当てて笑うエレノアを見て、どうしても声がかけられない。

 ロイは、建物の影に隠れた。


「『黒装(トランス)』」


 黒装束、仮面、魔弓デスゲイズを手に持ち、背中に矢筒を背負う『狩人形態(ハンターフォーム)』へ変身、音もなく建物の屋根に上り、オアシスの周囲を飛ぶ『オアシスネコ』という鳥を見た。

 そして、オアシスネコを万象眼で見て視界を共有……観光都市ラグーンの入口付近を見た。


「……あれ?」


 いた、のだが……様子がおかしい。

 観光都市ラグーンの正面入口。

 ロイたちが入ってきた高速飛行艇とは違う、馬車や徒歩専用の入口で、少し騒ぎがあるようだ。

 魔界貴族が暴れているのかと思ったが……どうやら、急病人が出たらしい。

 男が倒れ、担架で運ばれていた。


「病人か。暑さでやられたのかね」

『違う。ロイ、そいつを観光都市ラグーンに入れるな。わかったぞ……これは、『疫病』のネルガルだ』

「……え、疫病?」

『魔界貴族公爵、『疫病』のネルガル。トリステッツァの側近で、『四魔公爵』の一人だ。奴は人間が経験したことのない『疫病』を使う。魔界貴族に病原菌を寄生させ、街中で一気に病気をバラ撒くつもりだ』

「なっ……」

『チッ……面倒なことになった。ロイ、病原菌に寄生された魔界貴族を始末しろ。早くしないと、観光都市ラグーンは壊滅的なダメージを受けるぞ!!』

「……そんな、馬鹿なことさせるかよ」


 ロイは魔弓デスゲイズを強く握りしめた。


「五分以内にケリ付ける。さぁ───狩りの時間だ」

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