観光都市ラグーン③/オアシスであそぼう
観光都市ラグーン、大オアシス。
ロイは見たこともないし、知識としては知っているが、ここラグーンの大オアシスは、フレム王国に存在するオアシスでも最大の大きさらしい。
観光都市ラグーンの反対側にも大きな町があるらしい。
「フレム王国王都ヴォルケノにもオアシスはあるけど、あっちは領地で二番目に大きいオアシスだ。でも、透明度とかはあっちのが遥かにいいらしいぜ。そのまま飲めるみたいだし」
「こっちのは飲めないのか?」
「顔洗ったりするくらいはいいけど、直接飲むと腹壊すって。ま、魚が泳いでるくらいだし」
「ふーん」
ロイとオルカは、水着に着替えてオアシスに来ていた。
観光客用に開放されたリゾートエリア。
女性陣と違い、男は服を脱いでサーフパンツを履くだけなので、パラソルやシートなどの荷物を準備すべく、早めに来た。
準備は三分で終わった。ちなみに、聖剣を立てかける専用台も(折り畳み式で軽い)ある。ロイは木刀形態のデスゲイズを、オルカも自分の聖剣を立てかけておいた。
あとはもう待つだけ。のんびりシートに座っていると、オルカが言う。
「な、水着。いいよな」
「……お前、そんなに俺の水着が見たかったのか」
「ちっげーし!! くっだらねぇボケかますな!!」
「冗談だっつの。水着ね……」
エレノア、ユノ、ユイカ。
三人とも美少女だ。どんな水着かはロイも気になる……が。
「…………」
「ん、どした?」
「いやべつに」
昨夜のことを思い出す。
ユノが風呂場に寝ぼけて入り、裸を見てしまったこと。
今さら水着……なんて思ってはいないが、思い出してしまう。
「おまたせ~」
と、ユイカの声。
振り返ると、オルカが「おおっ」と声を上げた。
「朝っぱらからいい天気ねー」
「あつい」
「ふっふっふ。男子諸君、お待たせ~」
「「…………」」
水着。
エレノアは赤を基調にした、胸元を強調するような水着。
ユノは可愛らしい水色のワンピースで、ユイカはイエローを基調としたタンクトップビキニだ。同世代の水着という姿に、思春期の少年二人は緊張してしまう……が、オルカは言う。
「よ、よし!! 揃ったし、遊ぼうぜ!!」
「あんた、照れてるからって無理やりいつも通りに振る舞わなくてもいいのよ~?」
「や、やかましっ!!」
すると、ユノがロイの元へ。
「ロイ。昨日はごめんね。わたし、よく覚えていなくて」
「え!? あ!?」
「……昨日?」
エレノアが首を傾げるが、ロイはユノの口をふさいだ。
「あ、ああ、なんでもないよ!! それより、喉乾いたな。な、ユノ」
「もががが」
「……なんか怪しいわね」
「ね、ね。あっちに果実水売ってるところあるよ、行かない?」
「あ、行く。まぁいいわ……ユノ、行くわよ」
「うん」
ため息を吐くロイ。るすと、ユイカがロイの背中をペシッと叩く。
「むふふ、借りひとつ、ね?」
「……そりゃどうも」
こうして、楽しい海遊びが始まった。
◇◇◇◇◇
まず最初に、オルカがビーチボールを持って来た。
「ふっふっふ。レンタルしてきたぜ」
『オアシスの家』という、食事に買い物に道具レンタル何でもありの総合ショップが浜辺にいくつかあり、そこの一つで借りて来たようだ。
「ルールは簡単。海の上でボールを打ち上げて、先に落とした奴が罰ゲームな!! じゃあオアシスに向かって行くぜっ!!」
「あ、ずるいあたしも行く!!」
「俺も!!
「わたしも」
「ちょ、あたしもっ!!」
ロイたちは浜辺からオアシスへ。
オアシスの膝下くらいまで水がかかる場所まで行くと、オルカがボールをロイに投げた。
「うわっ!? あっぶねぇ!?」
「いつも女子にチヤホヤされやがって! 天罰じゃぁ!!」
「うおおっ!?」
ロイは危うくボールを落とすところだったが、なんとか弾いてユイカの元へ。
「ユイカ、パス!!」
「いえっさ!! ほいユノっ!!」
「ん」
ユイカが弾いたボールを、なんとユノはジャンプからの回転キャッチ。空中で反転し、華麗なフォームでエレノアへ。
エレノアはニヤッと笑って跳躍。飛んで来たボールを平手で叩いた。
「せいやっ!!」
「うおぉぉぉぉっ!?」
そして、ボールはオルカの腹にめり込み、オルカは吹っ飛んでオアシスに沈んだ。
「おお、これでオルカが罰ゲームだな。お昼、みんなに奢りで」
「「「やったあ!!」」」
「えええええ!? ちょ、ロイ」
「俺、果実水奢りだから忘れんなよ?」
「この野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
オルカが全力でボールを投げ、ロイはギリギリで受け止めることができた。
◇◇◇◇◇◇
午前中、ロイたちはオアシスで目いっぱい遊び、お昼はオアシスの家で食べ、午後は浜辺で遊んだり、浮き輪を借りてオアシスで日光浴を楽しむ。
ロイは、浮き輪でぷかぷか浮かびながら、持って来たデスゲイズに言った。
「なぁ……平和だよなあ」
『クソつまらんほどにな』
「平和はいいだろ? パレットアイズとの戦いは激戦だったし、ダンジョン攻略もしたし……しばらく、魔界貴族とは戦いたくない」
『まったく、腑抜けおって……レイピアーゼ王国に、トリステッツァとその部下がいるかも知れないということを、忘れるなよ?』
「ああ。っと、そうだ……以前、聞きそびれたけど、トリステッツァの力って何だ?」
『そうだな、伝えておく。トリステッツァは「どっかーん!!」
次の瞬間、オアシスの底から現れた何かに、ロイの浮き輪がひっくり返された。
「ぶぼぁっ!?」
バタバタもがくロイ。何かを掴み引っ張ってみると……それは。
「ふきゃぁぁ!? ちょ、ロイなにすんのよぉぉ!?」
「ぶあっば!? なな、なんだなんだ? 何が起きた? ユイカ、ユイカ!?」
「ぎゃぁぁぁこっち来ないでぇぇ!? うっきゃぁ!?」
どうやらユイカだったらしい。ロイは、ユイカの肩を掴んで何とか浮上。すると、背後から強烈なプレッシャーを感じ、思わず振り返った……手に、妙な感触を感じながら。
「ロイ、何してんの……?」
「え、エレノア……?」
「手」
「え」
「ぅぅ……」
ロイは、ユイカを思いっきり羽交い締めしていた。
ひっくり返された勢いでユイカの腕を掴み、あばれもがいたせいで羽交い締め。そのまま浮上し、ユイカを思いっきり羽交い締めしていたところで、エレノアに見られた。
「あ、いやその、これは」
「この、スケベ!!」
「ちょ、ちが」
「ろ、ロイ……あの~、ちょっと離してほしいかも、なんて」
「あ、ごめん」
ユイカを離す。
ユイカも、ごめんねと謝った。
「いや、ロイが浮かんでのんびりしてたから、ちょっといたずらしただけで……エレノア、ロイは悪いことしてないって。まぁ、いろいろ触られたけど」
「おま、フォローするなら最後まで頼むって……」
「あはは。あれ? ユノは?」
「疲れて寝ちゃった。オルカは知らないけどね」
結局、トリステッツァのことは何も聞けなかった。
観光都市ラグーン。ここに、敵となる魔界貴族はいない。
今だけは、七聖剣士ではなく、十五歳の少年少女として、ロイたちは過ごしていた。





