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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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氷聖剣フリズスキャルヴ

 ユノたちは森に踏み込んだ……が、入って数分で後悔しそうになった。

 森から感じる数々の視線。間違いなく見られているが、襲い掛かる気配がない。まるで値踏みするような、弱るのを待つような……ジトジトした視線を感じていた。

 だが、ララベルがあっけらかんと言う。


「ま、気にしなくていいわよ。ここは森の入口だし、この程度の視線なら大したことないわ。問題なのは───不意打ち」


 ララベルが風聖剣の一本を腰から抜いて振ると、ギィン! と何かを弾いた。

 それは、小石。

 森のどこかから投げられた小石を、短剣で弾いたのだ。


「全員、警戒しなさいね。アタシとロセでも、この森は中腹までしか進めないから」

「「「…………」」」


 三人とも、額から冷たい汗を流していた。

 気温は低くない。むしろ、森の中なので温かい。

 だが───冷たい何かを、三人は感じ取っていた。

 すると、ロセが立ち止まり、大斧を分離させ、片刃剣として手に持つ。


「さっそく来たわねぇ。ララベル、右側を」

「はーい。サリオス、ユノ、エレノアはそっちね。デカいの来るわよ」


 と、藪を掻き分けて現れたのは、四メートルはある巨人だった。


「で、でっかぁ!?」

「こいつは───な、何だ!?」


 エレノアとサリオスが剣を構える。

 ユノはすでに第三形態のチャクラムに冷気を纏わせていた。


「どうでもいい」


 そして、片方のチャクラムを投擲───だが、巨大な敵の顔面にヒットしたが、凍ることもなく、傷つくこともなく、ただ弾かれて地面に落ちた。

 ユノはエレノアとサリオスよりも速く動いてチャクラムを回収。第一形態のレイピアに戻し、巨人の脛を突いた。


『グォォォォッ!!』

「ッ!?」


 ほんの少し刺さったが、筋肉が分厚く奥まで刺さらない。


「また悪い癖出てるわよ」


 ユノの戦いを見もせず、ララベルが言う。

 そして、エレノアがようやく動いた。手を巨人に向ける。


「第一階梯魔法、『フレイムドライブ』!!」


 炎がエレノアの掌から飛び出し、巨人の顔面に命中した。

 巨人は目を閉じ、嫌そうに手で払う。その隙にユノは離れ───反対に、サリオスが飛び出した。

 両手にあるのは双剣。


「第一階梯魔法、『ダブルイリュージョン』!!」

『ガァァァァァァッ!! ッア!?』


 巨人がサリオスを殴りつけるが、光魔法によって屈折したサリオスの映像を殴っていた。

 サリオスは巨人の背後に回り込み、体勢を低くして足を斬る。

 浅いが皮膚が斬れ、血が噴き出す。巨人は顔をしかめ、サリオスを殴ろうと速い動きで拳を振りかぶった。が、バーナーブレードを展開したエレノアが、サリオスに向き直ったことでガラ空きの背中を斬りつける。


「はぁ、はぁ、はぁ……!! サリオス、大丈夫!?」

「何とか……ッ!!」


 サリオスは、辛うじて拳を回避していた。

 すると、ユノが再び飛び出した。


「第一階梯魔法───『フリーズアウト』」


 剣を振るうと、巨人の足が地面に固定されるように凍り付く。膝下から完全に凍り、巨人は前のめりになって倒れて来た。


氷聖剣(フリズスキャルヴ)第四形態(フォースシフト)!!」


 柄が伸び、鍔の部分が横に伸び、刀身が鞭のように伸びて固定される。

 そのまま一気に刀身が凍り付き、極薄な氷の刃が形成される。

 横広がりの大剣。大男が持つような氷の大剣を、ユノが両手で持っていた。

 氷の大剣を突き出すと、前のめりに倒れて来た巨人の心臓、首に向かって突き刺さった。

 血は出ない。血、傷が凍り付き、巨人は即死した。


「はぁ、はぁ、はあ……ふぅぅ」


 剣を抜き、レイピアに戻すと巨人は倒れた。

 すると、すでに同じ巨人を倒していたロセ、ララベルが近づいてくる。


「まだまだだけど、いい感じね。魔法をうまく使って倒せたじゃない」

「ふふふ。ユノちゃん、すごいわねぇ。ちなみにこの魔獣の名前は、『グレートオーク』よ。討伐レートはA+で、この辺りではオーソドックスな魔獣ね。これから先、いっぱい出てくるから、一人で討伐できるようになりましょうね~」

「はい!!」


 ユノはいい返事をした。

 遅れて、エレノアとサリオスも返事をする。


「わたし、もっと強くなる……魔法も、剣も使いこなして、能力を覚醒させる」

「あ、あたしだって!!」

「オレもだ。ふふ、負けられないな」


 三人は決意を新たにし、森の奥へ進みだした。


 ◇◇◇◇◇◇


「───二十二」


 ロイの放った矢が、『グレートオーク』の上位種、『エンペラーオーク』の心臓を撃ち抜いた。

 エンペラーオークは倒れ、口からゴボゴボと血を吐き死亡。死を確認し、ロイは接近。

 

「これ、食えるか?」

『さあな』

「ちょっと狩り過ぎたな……」


 これで二十二匹目。

 グレートオーク十七体。エンペラーオーク三体。コボルトの上位種テラーコボルト二体をロイは倒した。解体しようと思ったが、倒すと同時に潜んでいた魔獣が一斉に死骸に飛び掛かるので解体が出来ず、狩ったはいいが素材は何も獲得できない状況が続いていた。

 回収できたのは、僅かな骨と魔獣の『核』だけ。

 ロイは、たった今狩ったばかりのエンペラーオークが、すでに食われて残骸となっているのを確認。ため息を吐き、心臓部分にあった小さな宝石のような『核』を回収し、ポケットに入れた。


「肉、食いたいな……」

『ここの魔獣は常に飢えている。しかも、狡猾だ。お前が餌に───……なるわけないか。だが、あっちの連中はわからんぞ』

「あっち、って……エレノアたちか?」

『ああ。今日はもう狩るのは諦めて、様子を見に行ったらどうだ?』

「……そうだな。もしかしたらピンチかもしれないし」

 

 ロイは近くの木に飛び乗り、上空を飛んでいる鷹に『愛奴隷(スレイブラヴァー)』の矢を打ち込む。エレノアたちがいた入口付近を捜索するように命令を出し、万象眼で自分も確認しながら森を進んだ。

 それから。十五分後。


「───いた! 戦ってる……なんだ、蛇か」

『蛇?』

「ああ。でっかい蛇……喰いごたえありそうだな」

『……まさか、タイラントスネークか? 今の奴らで相手にできるかわからんぞ』

「え……」


 ロイは、エレノアたちが戦っている場所に向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


「───いた」


 エレノアたちがいた……が、状況は最悪だ。

 デカい蛇は首を落とされて死んでいたが、死ぬと同時に現れたグレートオークの群れと戦っているようだ。どうやら、疲労したところを狙われたようだ。


「……少し、ヤバいかな」


 先程ロイが倒したエンペラーオークをボスに、十以上のグレートオークに囲まれていた。

 足下に、四体ほどのグレートオークが倒れていることから、善戦しているのだろう……だが、五人の疲労は色濃い。どうやら、この軍団に囲まれる前から、かなり戦っているようだ。


「あーもう、ミスったわぁ!!」

「ララベル、過ぎたことは仕方ないでしょ……今は、この状況を何とかしないと」

「ええ、わかっているけ……どっ!!」


 ララベルが持っていた弓を構え、矢を放つ。

 矢はグレートオークの眼に刺さり、その隙にロセが接近。大斧が断頭台のように振り下ろされ、グレートオークの首が綺麗に落ちた。


「第一階梯魔法、『アイスランス』!!」

『ぶごっ!?』

「ナイス!! サリオス!!」

「ああ、合わせる!!」


 氷の槍で怯んだグレートオークにエレノアとサリオスが接近、サリオスが長槍を心臓に突き刺し、エレノアが真横に回り込み、グレートオークの首をバーナーブレードで斬り落とした。


『なかなか連携が取れている。ふむ……苦戦続きで、自分が成すべきことを理解した上で行動しているのか。足止め、攻撃、囮……自分ができること、できないことを他人に任せる。ふむ、苦戦もいい経験になるな』

「んなこと言ってる場合かよ。よし、俺も」

『正体はバラすなよ』

「ああ」


 狩人形態へ転換(コンバート)

 近くの木に登り、周囲の地形を把握。ミスリル製の鏃が付いている矢を数本抜き、番える。


「エレノアッ!!」

「ッ!!」


 サリオスが叫び、エレノアがハッとなる。

 グレートオークの一匹が、エレノアの背後に迫った瞬間、ロイは矢を放った。

 矢はグレートオークの心臓を貫通。グレートオークは白眼を剥いて倒れ死亡。


「えっ……」

「矢……まさか」


 ロセ、ララベルが気付き、矢が飛んで来た方を見ると……ララベルに見られた。

 ララベルは視力もいいようだ。ロイは見えていると思い、クイッと顎で指示する。

 ロイは、矢を番えながら心の中で言った。


(俺が援護する。この状況───……三分以内にケリ付けるぞ)


 ◇◇◇◇◇◇


「『八咫烏』───……どうして、ここに」

「ッ!!」


 ロセの声に、サリオスが振り返る。

 援軍。そう考えるのが普通だが……なぜかサリオスは、八咫烏が気に食わなかった。

 どこか安心したように聞こえるロセの声に、苛立ちを感じてしまう。

 だが───今は、手が足りない。余計なことは言わず、剣を振る。


「…………」


 ユノは、氷聖剣フリズスキャルヴを構えたまま、目を閉じていた。

 死線は、何度か潜った。

 命の危機を感じたことも、一度や二度じゃない。

 そのたびに───……ユノは、救われてきた。

 八咫烏に、ロセに、ララベルに。そして、サリオスにエレノア。

 みんな、大事な仲間。

 七聖剣士であり、共に戦う聖剣士たち。


「力になりたい」


 ココロからの願い。

 魔力を剣に流し、流麗な動作で振る。

 まるで、踊るように……舞うように。


「力が欲しい」


 フリズスキャルヴの柄に埋め込まれている青い宝石が、輝く。

 淡い水色と、濃い青、そして透き通るような空色の光。


「ロセ、これって」

「ええ───……おめでとう、ユノちゃん」


 ユノは理解した。

 自分は、至ったのだ。

 氷聖剣フリズスキャルヴの、『能力』が覚醒した瞬間だった。


「いくよ───……能力発動、『水祝(みずいわい)』」


 ユノが、何もない空間を斬りつける───すると、斬りつけた部分に亀裂が入り、莫大な量の水が噴き出した。


『グォォォォッ!?』

「凍れっ!!」


 水流がグレートオークたちに直撃する。そして、水を斬りつけると瞬時に凍結した。

 ユノは、エンペラーオークに向かって走り出す。


「第一階梯魔法、『アイスブロック』!!」


 魔法で生み出した氷の塊を飛ばすが、エンペラーオークは持っていた斧で叩き落す。

 そして、ユノに接近し一刀両断しようと斧を振りかぶる……が。

 ユノは素早く地面を斬りつけた。


「『水祝(みずいわい)』」

「───ブガァ!?」


 斬りつけた部分から、水が噴射した。

 噴射を斬りつけると、水は瞬時に氷となる。顔面が凍り付いたエンペラーオークは、氷を砕こうと顔をガンガン叩く。

 その隙に、ユノは第四形態の『大剣』へ変形。

 思いきり振りかぶり、跳躍した。


「『絶氷陣(ぜっひょうじん)椿断頭(ヒメツバキ)』!!」


 振り下ろされた大剣が、エンペラーオークの首を斬り落とした。


 ◇◇◇◇◇◇


「な、なんだあれ……水?」

『聖剣の能力に覚醒したようだな』

「能力……?」

『見たところ、『斬りつけた部分から水を噴射させる』といったところか。ふ……あれはいい能力だ。水のない場所でも水、氷の技をいくらでも発動できる』

「ユノ、すげえ……」

『魔法も覚え始めたようだし、まだまだ強くなるぞ』

「…………」


 グレートオーク、エンペラーオークは討伐された。

 ユノはララベル頭を撫でられ、ロセとサリオスも笑い、エレノアは喜びでユノに抱きついて泣きそうになっていた。


「…………」

『どうする、行くか?』

「……いや、帰るよ」


 ロイはその場から離れ、一度だけ振り返った。

 その時に見たユノの笑顔は───これまで見たことがないくらい、輝いて見えた。

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