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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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ユノの修行

 ロイとエレノアが学園に戻ると、教本を片手にスタスタ歩くユノに遭遇した。


「ユノ!」

「あ、ロイにエレノア。送ってきたの? くんくん…………甘い匂いする。何か食べてきた」

「あんた犬? それより、何してたの?」

「ララベル先輩から魔法の基礎習った」


 ユノが掌を上に向けると、魔力の小さな玉が現れた。

 それを維持したまま、ユノはエレノアに言う。


「エレノア、修行に付き合って。能力覚醒は、エレノアにとっても修行になる」

「───それ、いいわね」

「あ」


 エレノアにスイッチが入った。ロイが気付くがもう遅い。

 

「じゃ、ロイ。あたしはユノと修行するから。例の件もユノに話しておく」

「あ、ああ」

「例の件?」

「戦いながら話す。それと、その魔法の基礎、あたしにも教えて」

「いいよ」


 そう言いながら、二人は歩き去った。

 残されたロイ。とりあえず部屋に戻ろうと寮に続く道を歩いていると。


「あれ、ロイじゃないか」

「殿下……お疲れ様です」


 サリオスだった。

 あまり見ない私服姿で、何をしているのか手には大きな鋏を持っている。

 汗を手拭いで拭き、ロイに近づいてきた。


「どこかに出掛けていたのかい?」

「ええ、町までちょっと……あの、殿下は?」

「オレは花壇の手入れを少し。ロセ会長に頼まれた仕事だからね」

「ああ……そういえば殿下、生徒会に入ったんでしたっけ」


 サリオスは、生徒会に入った。

 エレノア曰く『ロセ先輩の傍にいたいから』らしい。少なくとも、エレノアやユノに対するアピールは消え、日常会話や挨拶くらいしかしなくなったらしい。

 ロイにライバル宣言したサリオスはどこへ行ったのか。すると、サリオスは苦笑する。


「あのさ、以前キミにライバル宣言したと思うんだけど……どうやら、オレではキミに勝てないようだ」

「え?」

「はは……その、エレノアのことは、戦友としか思えなくなった。エレノアはその、いい子だとは思うけど、オレ程度の男じゃ相手にもされないよ。向こうも、いい友人くらいには思ってくれてると思う。今は、この距離感が心地いいんだ」

「は、はあ」

「悪かった。きみを混乱させるようなことを言って」

「い、いえ。まぁ、エレノアよりロセ先輩の方がカッコいいですよね」

「ああ!! って───……きき、きみは何を言ってるんだ!?」

「あ、やべ」


 ついつい本音が漏れてしまい、ロイは口を押さえた。

 サリオスもわかりやすいくらい動揺し、顔を真っ赤にして鋏をブンブン振り回す。危なくなったロイは距離を取るが、サリオスの息は荒い。


「かかか、勘違いしないでくれ!! おお、オレはその、会長のことが好きとかじゃなくてだな!! その、戦う姿に憧れてているというか!!」

「わ、わかったんで鋏、ハサミを振り回さないで!!」

「あ、ああ!!」


 ようやく落ち着いたサリオスだが、耳が真っ赤だった。


「え、ええと……こほん!! オレは花壇の手入れがまだあるんで!! っと……ところで、エレノアとユノは一緒じゃないのかい?」

「あいつらなら、聖剣の能力を覚醒させるとかで、訓練場に行きましたよ」

「何ぃ!? くっ……さ、先を越されるのは悔しいな。ええい、ロセ先輩のところへ行ってくる!!」

「あ」


 サリオスは、鋏を持ったままダッシュで消えた。


『妙な男だな』

「それ言うなよ……俺さ、殿下のこと憎めない奴だと思えてきた。ああいうの嫌いじゃないかも」


 ロイは、今度こそ部屋に戻ることにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 部屋に戻ってすぐ、ドアがノックされた。

 

「よ、ロイ」

「おう」


 オルカが部屋に入ると、勉強机とセットになっている硬い椅子に座る。


「あのさ、さっきの件、ユイカに確認したぜ。一緒でいいってさ」

「お、マジか」

「ああ。でもさ……大丈夫なのか。ラグーンで何日か遊んだあとにユノちゃんの故郷行くとか」

「悪いな。秋季休暇はちゃんと付き合うからさ」

「おう」

「そういやユイカと二人きりか? 大丈夫なのか?」

「───……あ」


 オルカは今思い出したように青ざめた。

 だが、首をブンブン振る。


「いやお前、あいつはダチだし。お前だってそうだろうが」

「はっはっは」

「いや何笑ってんだ!?」

「いやあ……ユイカはいい子だと思うぞ? 話してて楽しいし。お前とお似合いかもな」

「う、うっせえ!! そういうお前はどうなんだよ? エレノアちゃんとユノちゃん、どっち選ぶんだ!?」

「は、はぁ!? なんだその二択!? いや、エレノアは幼馴染で」

「へっ、どうだかなぁ?」

「こ、この野郎……」


 ロイとオルカが睨み合っていると、ドアがノックされた。

 そして、返事する間もなくドアが空き、ユイカが入ってきた。


「よ、何ギャーギャー騒いでんのよ」

「いや、ロイが」

「お前だろうが」

「……そんなことより、夏季休暇のこと話に来たよ」


 ユイカも、ロイの部屋に入る。

 座るところがないので、ベッドに座るロイの隣へ。


「ね、ロイ。エレノアとユノが来るってマジなんだよね?」

「ああ。ユノの故郷に行くついでに寄る。悪いな、たぶん何日かしか遊べない」

「ま、氷聖剣の持ち主だしねー、忙しいのは仕方ないって!」

「俺もエレノアもユノと一緒に行くからさ、オルカと二人きりだけど楽しんでくれ」

「あはは、大丈夫大丈夫。遊ぶのは数日だけで、あとは宿のお手伝いだし。いやー、ありがとねオルカ。おじさん、男手欲しいって言ってたし」

「え」


 初耳だったのか、オルカの表情が凍り付いていた。


 ◇◇◇◇◇


 オルカとユイカが部屋に戻り、ロイとデスゲイズだけになった。

 ロイはベッドに横になり、デスゲイズを傍に置く。


「はぁ~……」

『おい、遊ぶのも結構だが、トリステッツァのことを忘れるな』

「トリステッツァ……『嘆きの魔王』だよな。なぁ、またトラビア王国を襲うとか」

『それはない。奴らのルールの一つに、「他の魔王が襲った国は、次の自分の手番が来るまで襲わない」というのがある。パレットアイズがトラビア王国を襲った以上、次に狙われるのは別の国だ』

「可能性として高いのは、マリアさんが言ったレイピアーゼ王国か」

『そうだな。ちょうどいい……ロイ、今度はお前がトリステッツァを討て』


 ロイは「簡単に言うなよ」と言い、体勢を変える。


「なあ、そのトリステッツァは、どんな力を使うんだ? パレットアイズが『お菓子』なら、トリステッツァは? どんな手を使うんだ?」


 そう言うと、デスゲイズは少し黙った。

『気を付けろ。トリステッツァは───……「ロイ、いる?」


 と、ここでドアが開いた。

 エレノアだ。手には聖剣を持ち、息が荒い。


「あーもう疲れたわ。ね、あんたがサリオスを送り込んできたの?」

「い、いきなりだな。送り込んだというか、場所を聞かれたから教えただけで」

「サリオス、すっごいやる気になっちゃって大変なのよ。ユノもノリノリだし、あたしだけ付いていけないわ……だから逃げてきたの」

「そうなのか」

「だから、かくまって!! 追われてるのよ───ユノに」

「ユノって……「エレノア」

 

 今度は、冷気を纏ったユノが現れた。

 両手に第三形態であるチャクラムを持ち、冷たい目でエレノアを見ている。


「サリオス、凍っちゃった……溶かして」

「え」

「こ、凍ったって……い、生きてるのかしら?」

「うん。首から下だけ凍った。『死ぬ、死ぬ……』って呻いてる」

「わ、わかった。あの、それ終わったらあたし」

「エレノアの番。もう少しで何か掴めそうな気がするの」

「え、ええと」

「エレノア」

「と、と、とりあえず!! サリオス溶かすわっ!!」


 エレノアはダッシュで部屋を出て行った。恐らく速攻でサリオスを溶かし逃げるつもりだろう。

 すると、ユノはロイを見た。


「ロイ」

「あ、ああ」

「エレノアから観光都市のこと聞いた。思い出いっぱい作りたいから、ぜったい勝つね」

「お、おお!! が、頑張れよ」

「うん。ロイ、勝ったらご褒美ほしい」

「ご褒美? わかった、いいぞ」

「約束」


 そう言い、ユノは冷気を纏ったまま部屋を出た。

 気のせいではなく、部屋の気温が大幅に下がっており、ロイは椅子にひっかけてある上着を取る。


『ご褒美……さてさて、何を要求されるのやら』

「ユノだし、山盛りお菓子とかだろ。前日までに用意しておくよ」

『ククク、どうなることやら』


 結局、トリステッツァの事は聞かなかった。ロイも、デスゲイズも忘れてしまった。

 聞けばよかったと後悔することも知らずに。

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