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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第三章 青白の嘆きトリステッツァと白銀世界

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久しぶりの狩り

「───……ん」


 パレットアイズの襲撃から一ヵ月が経過。

 トラビア王国は日常を取り戻し、学園も無事再開……今では、パレットアイズの『魔王聖域(アビス)』を『聖剣士が見せてくれたひと時の夢』だなんて言う人もいた。

 今日は学園が休日。ロイは久しぶりに、一人で狩りを楽しんでいた。

 いつも行く王都郊外の森ではなく、かつて『地のダンジョン』があった近くの森に来ている。

 この森は木々が高く、上から狙撃するには絶好の場所だ。しかも、現れる動物も大型が多く、狩りのしがいがある。

 ロイは、『万象眼』で上空を飛んでいた鷹を捉え、視覚を共有。


「……約四キロ、北東の方向にデカいクマがいるな。腹空かしてるのか、シカを二頭殺して、頭をボリボリ食ってる……うわ、ツノを嚙み砕いてるし」


 万象眼を解除。ロイは枝から枝に飛び移り、二分ほどでクマから二キロほど離れた場所へ。

 魔力操作による身体強化は、狩りの時だけ人類最強レベルにまで発揮される。

 ロイは、魔力により視力を強化。

 木々の間を抜け、約二キロ先にいる獲物を見た。

 座り込み、シカの腸をガツガツ食べている。この森のボスなのか、他の動物は恐れているのか近くには生物の気配がない。

 すると、クマの傍で震えるコジカがいた……喰われていたのは、このコジカの親のようだ。


「…………」


 ロイの眼がスッと細くなり、矢筒から矢を抜く。

 すると、クマがシカをほぼ完食───コジカをギロッと睨んだ。

 震え、動けないコジカ。

 大口を開け、デザートと言わんばかりにコジカに接近するクマ。


「───シュッ」


 ロイの口から小さく息が吐きだされ、矢が放たれた。

 矢は木々の間、枝と枝の間をすり抜け、コジカに襲い掛かったクマの口に侵入。そのまま延髄を破壊し、後頭部から矢が飛び出した。

 ぎゅるん、と、クマの目がひっくり返る。そして、そのまま倒れた。


「……よし」


 ロイは狩りを終え、クマに接近。

 コジカがまだ震えていた。ロイが近づいても逃げない。

 ロイは、コジカの頭を撫でた。


「仇は取ったぞ。これから、強く生きろよ」

『キュゥン……』


 コジカは、ロイに少しだけ甘えるように頭を擦りつけ、森へ消えていった。

 

『動物にも甘いことだ』

「いいだろ、別に。ほら、解体するぞ」


 ロイは矢筒からオリハルコン製の鏃を取り出し、鏃の先で器用にクマの解体を始める。刃物は持てないし使えない。だが、鏃をうまく利用して解体する術を身に付けていた。

 ロープで吊るし、皮を剥ぎ、内臓を抜き、肉を捌く。たった一人だが、身体強化された肉体で全く苦ではないようだ。どうやら解体も狩りの一部らしいと、デスゲイズは適当に思った。

 肉を捌き、内臓を細かく切って並べておく。


『その内臓、食うのか?』

「俺は食わない。こいつ、森のボスみたいだし、こいつに食われた動物や魔獣がたくさんいたみたいだ。だから、今度はこいつが食われて、森の生物たちの糧となる番だ」

『お優しいことで……うーん、優しいのか?』

「ま、俺は少しだけもらっていくよ」


 ロイは、肉を抗菌用の布で包んでカバンに入れ、近くの木に飛び乗った。

 すると、森の動物たちが何匹も現れ、肉を食べ始めたのだ。


「な?」

『なるほどな』


 ロイは森の入口に戻り、予め作っておいた竈に火を点ける。

 そして、肉を切り分け焼き始めた。


『お前、どうして狩りをするたびに森で焼いて食うんだ?』

「ばかお前、狩ったばかりの肉を自分で捌いて、その場で焼いて食うのは死ぬほどうまいんだぞ? 味付けは塩コショウのみだけど、どんな高級肉店で食う焼肉よりもうまい」

『ふぅん』


 熊肉は硬く、やや筋っぽかった……が、ロイにとって最高の昼食になった。


 ◇◇◇◇◇◇


 お腹がいっぱいになり、ホクホク顔で帰路へつく。

 トラビア王国まで相乗り馬車で向かう。大きな幌付き馬車の荷台には、若いカップルと壮年の男性、老夫婦、分厚いコートを着てフードを被った若い女性がいた。

 すると、老夫婦の男性がコートの女性に聞く。


「あんさん、レイピアーゼ王国から来たのかい?」

「ええ。よくわかりましたね」

「ふふ、この国でそんな分厚いコートを着ているのは、雪国から来たモンだけさね」

「ははは、確かに。私は行商人で、レイピアーゼ王国の特産品を、売りに来たんですよ」

「ほほう! レイピアーゼ王国の特産品といえば……雪中オニタケ、雪カニ、スノウベアの毛皮……ええと」

「よくご存じで。ちなみに、今言ったのは全部ありますよ」


 と、女性は背負っていたカバンからではなく……なんと、収納から荷物を出した。

 収納を使えるということは。


「あんた、聖剣士かね!」

「ええ。女の一人旅ではいろいろと危険があるので」


 ここで、女性はコートを脱ぎ、被っていたフードを脱いだ。


「おお……」

「ちょっと!」


 若いカップルの男性が見惚れるほど、女性は美しかった。

 薄水色の長い髪は背中の中ほどまで伸び、セーターを着て、その胸部は大きく盛り上がっている。顔立ちはキリっとした美女で、どこか勝気な吊り目をしていた。

 そして、収納から細長い剣を出し、自分の隣に置く。


『レイピアか。ユノと同じだな』


 デスゲイズが言う。

 女性は、収納から真っ白なカニや、白いキノコを取り出した。


「雪カニは銀貨三枚、雪中オニタケは銀貨一枚。スノウベアの毛皮もありますが、いかがです?」

「おおお! 婆さん、銀貨、銀貨!」

「おじいさん! まったく、みっともない」


 老男性は、老婦人から銀貨をもらい、雪カニを買っていた。

 なんとなく眺めていると、女性はロイを見てにっこり笑う。


「少年。きみもどうかな?」

「え? あー……カニ、美味しそうですね」

「だろう? 焼いてよし、煮てよし、生でもいける。レイピア-ゼ王国の清流にしか住まない貴重なカニだ。市場にもあまり流通しない、レアな食材だよ」

「い、いいな。カニ……」


 ごくりと喉を鳴らす……が、今のロイは手持ちが少ない。

 狩りに出るだけだったので、乗合馬車賃と湯屋で払うお金しかない。


「お金、今ないんですよね……肉ならあるけど」

「肉?」

「はい、これ」


 鞄からクマ肉を出す。

 女性は怪訝な顔をして顔を近づけ、驚愕した。


「こ、これ……ディノベアーの肉じゃないか。これ、まさかキミが?」

「ディノベアー? ええと、これは俺が森で狩ったクマですけど」

「なんと……討伐レートAの魔獣を、キミが一人で」

「は、はい」

「これはこちらから頼まねばな。少年、この肉と雪カニ、雪中オニタケを交換しないか? そうだな……スノウカリブーの肉も付けよう」


 女性は収納からカニ、きのこ、肉の包みを取り出す。

 当然、ロイの答えは決まっていた。


「ぜひお願いします!!」

「よし、交渉成立だ」


 ロイは、寮に戻ってオルカの部屋で鍋会をやろうと考えていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 トラビア王国に到着し、乗合い馬車から降りた。

 女性の後に馬車から降りると、女性はロイに聞く。


「少年。この辺で、商売ができるエリアはあるかな?」

「商売ですか? えーっと、あっちが商業区画ですね。確か……露店エリア? ってところがあって、商業ギルドに申請すれば、借りることができます? だったかな」


 オルカから聞いた情報をそのまま伝えると、女性は頷いた。


「あと……旅の汗を流したい。湯屋を知ってるか?」

「はい。あー……誰もいない、ボロッちいところと、豪華で立派なところ、どっちがいいですか?」

「…………?」


 女性は首を傾げた。そして、なぜかクスっと笑う。


「じゃあ、誰もいないところで」

「わかりました。案内します」


 ロイと女性は歩き出す。

 女性は、ロイを見て言った。


「きみ、聖剣レジェンディア学園の生徒だね?」

「……わかります?」

「ああ、その剣を見ればね」

「……木刀ですけど」

 

 ロイは苦笑し、デスゲイズを振り回す。

 ボロ湯屋に到着すると、女性は建物を見て「おおー……」と唸る。


「あの、あっちにでっかいのありますけど」

「いや、ここでいい。少年、案内ありがとう」

「いえ。では、ごゆっくり」


 ロイも風呂に入ってから寮に戻りたかったが、女性を優先した。

 そのまま向かいの湯屋へ行こうとすると、ボロ湯屋から人が出てきた。


「あ、ロイ」

「ロイ」

「ん? あ、エレノアにユノ。なんだお前ら、ここ気に入りすぎだろ」

「うるさいわね。ふふん、今回はあんたにいい思いさせないんだから。残念だったわね」

「べ、別に期待してないからな」

「どうかしらねー?」

 

 エレノアがロイをからかっていると、ユノが言った。


「───義姉さん」

「「え?」」

「……ユノ」


 ロイが案内してきた行商人の女性とユノ。

 互いに見つめ合い、ピクリとも動かなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり鏃での解体ですか 飼育されてる草食動物の内臓ですら臭みが凄くて、しっかり洗浄して香辛料入れて煮込んで臭み消さないと食えたもんじゃないですからね 雑食の野生動物の内臓なんてそりゃもう……
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