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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第二章 夢とお菓子と快楽のパレットアイズ

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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ⑦/魔王という存在

 聖剣士五人は、誰も剣を構えようとしなかった。

 それくらい、意味がない行為だとわかった。目の前に浮かぶのは可憐な少女などではない。この世界を、人間をいつでも滅ぼせる『魔王』なのだ。

 人間を滅ぼさないのは、ほんの気まぐれ。

 四人の魔王たちによる『ゲーム』だから、直接手を下すことはしない。

 でも、今は違う。

 五人は触れてしまったのだ。決して触れてはいけない、魔王という存在に。

 八咫烏を責めることはできない。パレットアイズの『魔王聖域』を解除するためには、どのみち触れればならなかったのだ。


「さて、どうしよっかなー」


 パレットアイズは可愛らしく首を傾げる。


「とりあえず、あんたらより格上の敵を用意してあげる。徹底的に嬲ってから、最後はあたしが直接殺してやるわ」


 パレットアイズが指を鳴らすと、白銀に輝く騎士が地面から湧くように現れた。

 黄金騎士よりも、金剛騎士よりも強い闘気を纏う、『白銀騎士』だ。

 最初に剣を構えたのは、ララベルだった。


「あ、アンタら……死にたくなければ、やるわよ」

「ら、ララベル……」

「ロセ、アンタが正しかったわ。これ、アタシらには荷が重かったわ」


 ララベルは、震えながら笑った。

 ロセも、止まらぬ震えを押さえるように、力強く『地聖剣ギャラハッド』を握り、大斧をブンと振るう。


「そう、ね……サリオスくん、ユノちゃん、エレノアちゃん。ここは私とララベルに任せて」

「え……」

「あなたたちが逃げる時間は稼いであげる。ふふ、先輩の意地、見せちゃうね」


 ロセの震えが止まった。

 表情もどこか安らかだ。

 この表情は、死を覚悟した者の眼。

 ロセは、命を賭けて戦うつもりだ。

 だが───……サリオスは、そんなこと許せなかった。


「───ッ!!」


 勢いよく『光聖剣サザーランド』を抜き、震えを無理やり押さえつけ、剣を構える。

 そして、ロセの前に立った。


「逃げません」

「さ、サリオスくん……?」

「さっきも言いましたよね。ここで逃げたら、オレは……もう、勝てない。引いたらダメなんだ!!」

「……っ」


 そして、エレノアとユノ。

 二人も、剣を構えてサリオスの隣に立った。


「そうよね……殿下、今のあなた、すっごくカッコいいかも」

「うん」

「エレノア、ユノ……」

「殿下。ううん……サリオス、やるわよ!!」

「サリオス、一緒にやろう」

「……ああ!!」


 エレノアとユノが、サリオスを真に信頼した。

 震えは止まり、剣を握る手には力が入る。

 それを見て、ロセとララベルは顔を見合わせ、苦笑した。


「なんか、いけるかもね」

「ええ。ララベル、後輩に負けてられないわねぇ」

「そうね!!」


 五人の聖剣士が、剣を構える。

 サリオスが、聖剣をパレットアイズに突き付けた。


「魔王、ここd


 次の瞬間。

 サリオスが消え、お菓子の家が一直線にいくつも砕け散った。


「あ、終わった?」


 人差し指を、ちょこんと構えるパレットアイズ。

 何をしたのか?

 砕けたお菓子の家の先に、右腕が砕かれ、いくつもの木片が身体に突き刺さったサリオスが、盛大に血を吐いた。

 カランと、エレノアの隣には『光聖剣サザーランド』と、サリオスの左腕が肘の部分から千切れてその場に落ちてた。


「え?」


 理解できなかった。

 光聖剣サザーランドと、サリオスの腕がここにある。

 パレットアイズが、『魔力を指先から放出した』だけでこの結果だった。


「あ、ぁ……ァァァァァッ!!」


 ロセが怒りのまま飛び出した。

 パレットアイズはニヤニヤ笑うと、その前に『白銀騎士』が立ち塞がる。

 

「邪魔ァァァァァッ!! ───……ッ!?」


 だが、白銀騎士はロセの暴力的な横薙ぎを、右腕だけで防御。

 左手で持つ大剣で、ロセを両断しようと一気に振り下ろした。

 ロセは感情のまま飛び出したおかげで、頭が真っ白だ。

 だが──。


「こんの、大馬鹿!!」

「ッ!?」


 ララベルが割り込み、ロセを蹴り飛ばし、回避が間に合わないと判断し、短剣をクロスして大剣を真上から受け止めた。


「ッぎ……っっづぁぁ!!」


 受け止めた瞬間、ララベルの両腕に亀裂が入った。

 ロセならともかく、ララベルの細腕では白銀騎士の大剣を受け止めるなど自殺行為。右腕が完全に折れ、左腕に大剣が食い込んだ瞬間、全力で後方へ下がり辛うじて回避。地面を転がり、ロセの前で止まる。


「ら、ララベル……」

「この、馬鹿……考えなしに、飛び出すのは、アタシの、役目……で、しょ」


 ララベルの左腕が、肘から切断されていた。

 すると、パレットアイズがララベルの腕を掴み、面白そうに振る。


「あっはっは!! よっわぁぁ~……ねぇねぇ、こんなんであたしを倒せるのぉ?」

「くっ……!!」

「ばか、挑発に、乗んな……!!」


 ララベルは、ロセの腕を掴んで止める。

 すると、パレットアイズは白銀騎士を押さえ、ユノの目の前に瞬間的に移動した。


「えっ」

「あら可愛い。おじょうちゃん、あたしのペットにならない? かわいがってあげるけどぉ~?」

「───……ッ」


 頬を撫でられ、口に指を入れられ、首を撫でられ───服を裂かれ、上半身が露わになる。

 それでも、ユノは動けない。

 動いたら、パレットアイズに殺される。震えることも、抵抗することもできない。

 胸を、脇を、腹を、背中に触れられる。冷たい手が、命を狩ることのできる手が、ユノの肌を蛇のように這いずり回る。


「ふふふ……」


 パレットアイズが口を開けると、蛇のような舌がにゅるっと伸び、ユノの顔に触れた。


「……っ」

「あらら、怖かったぁ?」


 ユノは粗相をした。が、羞恥などない。

 恐怖しかない。今すぐ楽になりたいとすら思えた───が。


「う、ァァァァァッ!!」

「んん?」


 バーナーブレードが、パレットアイズに向けて振り下ろされた。

 だが、バーナーブレードがパレットアイズに触れる瞬間、白銀騎士の蹴りがエレノアの腹に突き刺さり、エレノアは十メートル以上転がり、盛大に吐血した。


「ぶ、っがっぁは、ぐぇっ……」

「無粋な子。邪魔しちゃダメじゃない」

「ゆ、のを……ユの、に、触る、っな!!」


 エレノアは立ち上がる。

 パレットアイズは満面の笑みを浮かべ、ユノの肌に手を這わせ……胸の中心、心臓部分に爪を立てる。


「っぁ」

「ふふ、お友達? ねぇ、お友達の心臓、見たくない?」

「こ、んのッ……っぐぁ!?」


 だが、白銀騎士がエレノアの背後に現れ、その両腕をガッチリつかみ、ゆっくりとユノの、パレットアイズの前まで歩いてくる。

 パレットアイズは、ユノの身体を蛇のような舌で舐め回している。今気づいたが、パレットアイズの眼も、蛇のように瞳孔が縦に割れていた。


「いいこと考えた。ふふ、この子の心臓をあなたの前で抉り出して、あなたが食べるっていうのはどう? ああ───あたしの魔力で、心臓がなくてもこの子を少しだけ生かしてあげる。オトモダチが、自分の心臓を食べる様を見て、あなたがどう思うのか、すっごく見たい……」


 狂気。恐怖。異常。

 人間の眼から見て、パレットアイズは狂っていた。

 何が面白いのか、ニコニコしたままユノの身体に爪で傷を付け、少しずつ流れる血を美味しそうに舐めては魔法で治療している。


「炎聖剣の子。あなたは最後に殺してあげる。あっちのエルフと、ドワーフの混ざりものの内臓を喰らって、お腹いっぱいにしてからあたしが丸呑みしてあげる……ふふふ、楽し


 次の瞬間。パレットアイズの頭に『矢』が突き刺さった。

 カクン、とパレットアイズの首が折れる。同時に、白銀騎士の心臓部分に大穴が開き、白銀騎士の両腕が肘から吹き飛び、エレノアは解放された。

 ずっと、機会を伺っていた八咫烏だ。

 サリオスが吹き飛ばされても、ララベルの腕が切断されても、ユノが辱められ、エレノアが蹴り飛ばされても……ずっと、機会を伺っていた。

 狩人のように、気配を消し、心を消して。

 戦いが始まると同時に全力で離脱し、援護に徹しようとしたが……援護どころか、まともに剣を振ることすらできていない。

 今、できるのは。パレットアイズを仕留めるために矢を射るだけ。

 約三百メートル離れた木の上にいたロイは、首が折れ曲がったパレットアイズに向け、狙いを定めた。


「これで───」

「これで、なに?」

「えっ」

 

 ロイの隣に、パレットアイズがいた。

 馬鹿な。

 あそこに、首が折れ曲がったパレットアイズがいる───が、消えた。

 速すぎて、残像があそこにあった。

 パレットアイズは、頭の矢を抜く。


「すごいわね、あんた。でも───死ね」

「ッ!!」


 ロイは魔弓デスゲイズで身体を守る───が、パレットアイズの魔力による『圧』で、身体ごと地面に叩き付けられた。


「っがっぁ!?」

「この弓? 聖剣でもないのに、変な能力持つの。それとも、突然変異した聖剣? まぁ、ブチ壊すけど」


 メキメキメキメキと、パレットアイズは地面に仰向けになったまま動けないロイに、強大な『圧』をかける。呼吸すらできず、全身の骨が軋み───嫌な音がした。

 それは、『魔弓デスゲイズ』に入る、小さな亀裂。


「───ッ、す、げ」


 デスゲイズ。

 そう言いたいが、声が出ない。

 べき、ばき……と、ロイの右腕が折れ、左足も折れた。


「───ッ、!!」


 ロイ!! 

 エレノアがそう叫び、バーナーブレードを全力で燃やし、血を吐きながらボロボロでロイに斬りかかる。だが……パレットアイズは、見もせずに手を振るった。

 すると、空気が裂け───エレノアも、裂けた。


「───ッあ」


 右手、右足が切断され、エレノアは吹き飛んだ。


「───ッ、───」


 ロイは叫ぶ、が……声は出ない。

 

「アンタらも、邪魔」


 パチンと指を鳴らすと、巨大な雷の柱が、這いずるララベル、ロセ、ユノに直撃。

 黒焦げになった三人が倒れ、ピクピクと痙攣していた。


「───」


 ロイは絶望した。

 勝てない。死ぬ。このままでは死ぬ。全員死ぬ。

 エレノア、ユノ。

 ぐるぐると思考が回転し、涙が出た。


「あっはっは。わかった? 人間は人間らしく、夢を見ず生きればいいの。人間はあたしたちにとって、ただの娯楽の道具なんだから」


 パレットアイズは、どこまでも楽しそうに笑っていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 亀裂が入った『魔弓デスゲイズ』は、今なおビキビキと亀裂が入っていく。


『…………』


 ロイが死ぬ。

 やはり、魔王を相手にするには早い。

 権能もまだ二つめ。しかも、『色欲』に至っては使いこなせてすらいないし、嫌悪していた。

 今のロイでは、魔王を相手にできない。

 恐らく、公爵級がせいぜいだろう。クリスベノワには勝てたが、残り三人の公爵級相手では厳しい。

 再び、大きな亀裂が入った。 

 このままでは砕け散る。

 だが、デスゲイズは笑った。


『ククク……』

お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

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