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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第二章 夢とお菓子と快楽のパレットアイズ

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夢とお菓子の不思議な世界・快楽の魔王パレットアイズ⑥/時空穿つ矢

「あれー?」


 パレットアイズは、クッキーをモグモグ食べながら、聖剣士たちが消えたのを確認した。

 だが、すぐに見つけた。大きな公園に集まり、何かを話している。

 声を拾おうと思ったが、すでに会話は終わっていた。


「ま、いいけど」


 トラビア王国上空。

 パレットアイズは、空に浮かべたテーブルにお菓子をばら撒き、同じく浮かべたソファに横になりつつ、スコープバットから送られてくる映像を見て楽しんでいた。

 ここは、パレットアイズが展開した『魔王聖域(アビス)』の中。『夢とお菓子のファンタジア・スイーツ・不思議な世界(ワンダーランド)』の世界。

 この空間内で、魔王は無敵。

 だからこそ、こうしてのんびりできる。


「くぁぁぁ~……なんか、眠くなってきたわねぇ」


 大きな欠伸をするのは、銀髪をツインテールにし、ゴスロリ服を着た十四歳ほどの少女にしか見えない。今もこうして人間がお菓子を食べ蟲人間に代わり、お菓子の家を食べる様子を見ていたり、パレードを楽しんだり、聖剣士たちが抵抗するのを見て笑っているだけだ。

 そもそも、同じ土俵に立っていない。

 資格を与えたのは、パレットアイズの『魔王聖域(アビス)』に入る許可だけ。ササライが言っていた『今の聖剣士は違う』ということなんて、もう忘れていた。


「もうちょっと遊んだら終わりにしよっと」


 そう言い、再び大きな欠伸をした───。


 ◇◇◇◇◇


 ロイは、エレノアたちに『作戦』を説明……すると、エレノアが反対した。


「あたしは反対」

『…………』

「危険すぎる」

『でも、それしかない』


 八咫烏の作戦を聞き、ロセは頷いた。


「私は賛成……成功の可能性は低いし、失敗しても……その、私たちは無事に済むわ」

「先輩!!」

「エレノアちゃん、私はね……まだ、八咫烏を信用していないの。もちろん、成功すれば嬉しいけどね」

『それでいい』

「ロセはいいとして……サリオス、ユノ、あんたたちは?」


 ララベルが言うと、二人は頷く。


「オレは賛成です」

「わたしも」

「ちょ、二人とも!! ああもう、あんたこっちに来なさい!!」

『っ』


 なんと、エレノアは八咫烏の裾を掴み、ロセたちから少し離れた場所へ。

 そして、八咫烏の───ロイの胸倉をつかんだ。


「あんた、どういうつもり? あんた、あたしたちの援護するんじゃなかったの!? これじゃ、あんたが狙われるだけじゃない!!」

「落ち着け、エレノア。確かに失敗すれば危険だけど、成功すればパレットアイズを倒せるかもしれないんだよ」

「デスゲイズ、あんたも同じ意見なの!? ロイが死んだら困るでしょ!?」

『確かにな。だが、これはある意味好機だ。可能性は低いが……賭ける価値はある』

「……っ」

「エレノア……」

『エレノア。お前がこいつを心配するのはわかる。だが……この策でなければ、パレットアイズを引きずり下ろして、このふざけたパレードを止めることはできないぞ』

「その言い方、ズルいしムカつく」


 エレノアは、ロイの胸倉から手を離す。

 そして、拳を作りロイの胸をドンと叩いた。


「絶対、成功させなさいよ」

「ああ、俺だって死にたくないしな」


 エレノアとロセたちの元へ。


「エレノアちゃん……?」

「大丈夫。話付けました。八咫烏の作戦に賭けましょう」

「それはいいんだけど、二人って顔見知り?」

「え」

『…………』


 ララベルが首を傾げる。離れていたし、小声だったので会話は聞かれていないはず。


「なんか距離近いなーって……気のせい?」

「き、気のせいですよ!! こんな黒い変な仮面人間知りませんし!!」

『おい、怒っていいぞ』

(後でな)


 ちょっとショックなロイだった。


 ◇◇◇◇◇


「あれ~?」


 パレットアイズは気付いた。

 スコープバットが一匹、いなくなった。

 数ある画面のたった一つに過ぎない。いなくても、他の画面で代用できる。

 まあいいか、と……別の画面に視線を送ると、妙だった。


「……なにしてんだろ?」


 蟲人間たちを放置し、パレードを放置し、聖剣士と黒い弓士は集まって何かをやっている。

 この状況を打開する作戦かな? と、パレットアイズは新たな展開にワクワクする。

 

「じゃ、行きますね」

『ああ』

「思いっきりね!!」

「よろしく」


 八咫烏、ララベル、ユノの三人が一塊になっている。

 そして、サリオスとエレノアが聖剣を抜き、周囲を警戒している。


「……?」


 パレットアイズは首を傾げた。

 すると、ロセが『地聖剣』を大斧状態にし、思い切り振りかぶる。


「『地帝(ドワーフ)ストライク』!!」

「「「っ!!」」」


 ロセが地面を大斧で叩き、さらに『大地干渉』の力が合わさり、三人の立つ地面が巨大な『塔』のようにぐんぐん、ぐんぐんと伸びていく。

 百メートル以上伸びただろうか、ララベルが八咫烏の背に飛びついた。


「ユノ、お願い!!」

「ん」


 ユノは『氷聖剣』を鞭剣にし、八咫烏の立つ地面に円を描くように鞭を丸く置く。


「『絶氷陣(ぜっひょうじん)凍茎塔(ヘテロフィラ)』」


 鞭剣に氷の力が注がれ、せり上がった地面からさらに氷の柱が上る。

 ロセの大地の塔から、ユノの氷の塔へ。再び一気に上がっていく。

 そして、数百メートル伸びたところで氷が止まり、八咫烏が魔力操作で身体強化、全力で跳躍。

 ララベルが短剣の柄を連結させ、さらに変形……突撃双槍(ツインランサー)形態へ。


「しっかりね!!」

『了解!! 一分以内にケリ付ける!!』


 ララベルは八咫烏から離れ、突撃双槍(ツインランサー)を両手で高速回転させる。


「『螺旋風(ヴィント・ホーゼ)』!!」


 『風聖剣』の力で、回転した刃から竜巻が発生。

 八咫烏の身体が一気に押し上げられる。風の力だけで、八咫烏の身体は数百メートル上昇した。

 そして、勢いが収まり、八咫烏は───ロイは、矢筒から矢を抜き、上空で構える。

 何をするのか? ここまで見たパレットアイズは「まさか」と呟く。

 八咫烏の矢には───『スコープバット』が、括り付けられていた。

 矢が放たれる。当然、パレットアイズには届かない……だが。


「───……見え、た!!」


 スコープバットを『万象眼』で見ていたロイは、スコープバットと視界を共有。

 スコープバットの視力はかなりいい。おかげで、上空数十キロ先に浮かぶパレットアイズが見えた。パレットアイズも気付いていなかったが、ダラダラしているせいで少しずつ高度が落ちていたのだ。

 ロイは笑う。


『く、はははっ!! やれ、ロイ!!』

「言われずとも!! 大罪権能『暴食』装填!!」


 矢筒から矢を抜くのは、『時空矢(アイオーン)』だ。

 上空で、不安定ながらも弓を構え───放つ!!

 それは、通常ならあり得ない速度で飛んだ。そして、あらゆるモノを『喰う』力が、ロイとパレットアイズの『距離』を喰らう。


「!!」


 ようやく理解した。

 七聖剣士たちは───自分を、パレットアイズを仕留めに来た!!

 距離を喰らい、『時空矢(アイオーン)』が現れたのは……パレットアイズの心臓。

 デスゲイズ曰く、魔王も魔族も同じ。弱点は心臓。

 スコープバットがいない今、パレットアイズがどうなったかわからない。

 ロイは落下する……すると、風の力がロイを包み込み、ゆっくりと下降していった。


「どう、仕留めた!?」


 降りるなり、エレノアが叫ぶ。

 ロイはわからない。だが、間違いなく、ほぼゼロ距離で矢は心臓付近まで距離を喰らったはず。


『恐らく、仕留めた……と、思う』

「ほ、ほんと!? やったぁ!!」

「お、終わった……のか?」

「おおー」

「え、マジで? 魔王倒したの?」

「はぁ~……疲れましたぁ」


 エレノアが喜び、サリオスが怪訝な表情をし、ユノはよくわからない表情で、ララベルはどこかワクワクして、ロセは胸を押さえてため息を吐いた。

 本当に、終わったのか。

 ロイの矢は、魔王を貫いたのか。


『……ロイ』

(デスゲイズ、どうなんだ)

『…………』


 デスゲイズが、何も言わない。

 これだけで、ロイは嫌な予感しかせず───答えは出た。

 突如、圧倒的な『力』が、上空から降り注いだ。


「「「「「ッッ!?」」」」」

「これ、遊びなの」


 ふと、聞こえたのは……少女の声。


「遊びに命賭けるヤツ、いる?」


 上空から、傘を持ってフワフワ下りてきたのは、ゴスロリ服の少女。


「あたし、殺すつもりなかった。ここで全滅させたら、この後の『遊び』がつまらなくなるから……だから、半分だけにして、終わらせようと思ったのよ」


 地面に降り立たず、上空五メートルほどの位置で止まった。


「でも……ちょーっとキレたわ。十分の一まで減らしてやる」


 ゴスロリ服の少女ことパレットアイズが指を鳴らすと、パレードを繰り広げていた着ぐるみが凶暴化し、住人たちに襲い掛かった。


「それと、あんたら」


 怖気がした。

 エレノアたち聖剣士は当然ながら、どんな魔界貴族を相手にしても怯むことのなかったロイですら、パレットアイズと対峙した瞬間、恐怖に覆い尽くされた。


「徹底的に嬲り殺してやる」


 パレットアイズの顔中に青筋が浮かび、グチャリと歪んだ笑みを浮かべた。

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