表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第二章 夢とお菓子と快楽のパレットアイズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/230

魔界貴族公爵クリスベノワの『討滅城』⑨/愛の矢

 新たな力、大罪権能『色欲』による『野伏形態(レンジャーフォーム)』へ変わったロイは、かつて行った狩りを思い出す。


 それは、貴重な高級肉『白銀兎(シルバーラビット)』を狩った時のこと。

 噂では、十年に一度しか繁殖せず、非常に憶病で警戒心が強いため、人前に現れることはここ数百年なかったという、伝説の兎肉。

 そのシルバーラビットが、ティラユール家の裏山に現れた。

 存在を知っていたロイは歓喜し、約二キロ離れた場所から狙撃しようと弓を構えたが、弓を構えた瞬間、シルバーラビットがロイの方を向き、逃げようとした。

 シルバーラビットは、二キロ離れたロイの弓に、気付きかけた。

 慌てて弓を下ろし、全力で気配を消した。

 シルバーラビットの警戒は解け、葉っぱをむしゃむしゃ食べ始めた。

 遠距離では気付かれる。なら、あえて接近する。

 ロイは、羽虫よりも薄い気配で接近する。それでも、シルバーラビットの警戒は鋭く、ようやく一キロ接近した時には最大級の警戒をしていた。

 もっと、自然に同化せねば。

 もっと、もっと……ロイは、気配を殺し過ぎて自分が死ぬレベルまで呼吸数を、心音を、体温を殺して接近。半径二百メートルまで近づき、ようやく弓を構えることができた。

 そして───……仕留めた。


(あの時と同じ)


 体温が低くなり、ステルス効果に加え、心音も、呼吸音も消えかける。

 命すら危うい状況。

 だが、ロイは気配を消す。


「───ん? んん?」


 クリスベノワは、急に険しい顔になった。

 ロイが消えたことに、驚いていた。


「諦めるかァァァァァッ!!」


 サリオスを完全に無視。

 ロイを探そうと周囲を探るが……いない。

 

「何なのだ、奴は」

「うおぉぉっ!!」

「ええい、喧しい!!」

「ブガぁっ!?」


 軽く押され、サリオスは吹き飛び、壁に叩き付けられた。

 壁に亀裂が入るほどの威力。だがクリスベノワはサリオスなど視界に入っていない。いつ、どこで

、どのタイミングで心臓を狙われるかわからなくなった今、狙うべきは七聖剣士ではなく、『八咫烏』になった瞬間であった。

 遊びはもう終わり。クリスベノワは、本気で『狩る』ために動き出す。


「どうやら、遊びの時間は終わりのようです。きみたちには悪いが───……これにて終幕!!」


 クリスベノワは、収納から『剣』を取り出す。

 それは、かつてベルーガが持っていた『魔剣』と同じだ。

 魔力を吸収する効果のある『魔剣エーテルイーター』という、『忘却の魔王』ササライが持たせた武器であった。

 ベルーガから得たデータで、強化改修した魔剣をエレノアに突き付ける。


「『制限』───……『この場で、剣を振るうことは不許可』、『この場で魔法を使うことは不許可』、『聖剣の能力を行使するのは不許可』」

「「「ッッ!!」」」


 こうしてエレノアたちは、この場に三人だけしかいることができず、炎を無効化され、氷を無効化され、光を無効化され、剣を振るうことができず、魔法を使うことができず、能力も使えなくなった。

 七つの制限により、ただ聖剣を持つことしかできない。

 エレノアたちを、確実に葬るためだけの制限が、牙を剥く。


「くっ……剣が、重いっ!!」


 どうにもならない状況。

 クリスベノワは、エレノアの前にゆっくり歩いてくる。


「まずは、きみからだ。せめてもの慈悲───……苦しまぬよう、一刀両断にしてやろう」

「ぐ、こ、この……ッ!!」


 ギリギリと歯を食いしばるが、剣が重い。

 このままでは両断される。死ぬ。

 クリスベノワが剣を振りかぶり、エレノアに向けて振り下ろした───……次の瞬間。


『守れ!!』

「ッ!!」

「───何ぃっ!?」


 エレノアの身体が軽くなり、聖剣が持ち上がった。

 聞こえてきたのは、八咫烏……ロイの声。

 

『やれ!!』

「ッッ!! 『灼炎楼(しゃくえんろう)十二神将(じゅうにしんしょう)』!!」


 一瞬でバーナーブレードを展開、驚愕するクリスベノワの身体に、十二の斬撃を叩き込む。

 そして、ユノも動いた。

 両手にあるのはチャクラム。そのリングは、しっかりと凍り付いている。

 ダメージよりも、『制限』が無効化されている事実がクリスベノワには信じられなかった。


「『氷華蓮(ひょうかれん)石楠花(シャクナゲ)』!!」


 接近し、両手に持ったチャクラムで踊るように斬りつける。

 傷口が凍り、クリスベノワの顔が歪む。

 そして、真横。

 双剣を構えたサリオスが、魔力操作で身体強化をしながら突っ込んできた。

 クリスベノワが眼を見開くが、もう遅い。


「高速連刃!! 『シャイニング・スラッシャー』ァァァァァッ!!」

「ぬぅゥゥゥゥゥッ!!」


 魔剣で防御するが、いくつか深く斬り込まれた。

 致命傷ではないが、油断した。

 魔族の『核』が無事なら、身体はいくらでも再生する。だが……ダンジョンの『核』と融合したこと、『制限』により膨大な魔力を消費したことで、クリスベノワの再生力が相当なレベルで落ちていることに、クリスベノワはたった今気づいた。

 そもそも、何が起きたのか?

 魔力を探るが、『制限』が解除されたわけでもない。

 

「まさか───……」


 もう、可能性は一つしかない。

 八咫烏。奴が、何かを仕掛けたのだ。


 ◇◇◇◇◇◇


(───……ある意味、助かったな)


 ロイは、玉座の裏に座り込んで動けなかった。

 胸を押さえ、胸の内を這いまわるような悪寒に耐えていた。


『どうだ? 『色欲』の力───……愛の力は』

(二度と使いたくない……って言ったら?)

『ククク、それはそれで』


 ロイは、短弓を見る。

 つい先ほどクリスベノワに向けて放った『矢』の効果……それを、恐ろしく感じた。


 大罪権能『色欲(ラスト)』の力。それは───……《愛》。

 

「『全てを君に捧げたい(クレイジー・エレジー)』の矢……これを喰らったら、対象の能力全てを、俺が受けることになる……とんでもない狂った力だ」


 つまり、クリスベノワの能力による効果は、全てロイが肩代わりする。

 仮に今、クリスベノワが自分を回復させる能力を使ってもロイが回復する。逆に、クリスベノワが自分を殺そうとする能力や魔法を使っても、ロイが死ぬ。

 愛により、自分の全てをロイに捧げる。『色欲(ラスト)』の力は愛。

 今、『制限』の全てをロイが肩代わりしている。今のロイは聖剣を振ることも、魔法を使うことも、能力を行使することもできない状態だ。空間内にあるクリスベノワの能力全てが、ロイに向いている。

 おかげで、エレノアたちが『制限』から解放された。


『色欲は愛の力。ククク、他にも面白いことができるが……お前がどう悪用しようが、我輩は何も言わん』

「…………」


 愛の力。

 愛の力は偉大、なんて聞いたことがある。

 もしかしたら、ロイが思い描くことなら何でもできるかもしれない。

 だが、弱点もある。


「狙撃向きじゃない。少なくとも、百メートル以内に近づかないとな」

『……十分だろうが』


 さらに、『色欲』の矢はダメージを受けない。クリスベノワに刺さった矢は、痛みもなくクリスベノワに吸収されていた。

 クリスベノワは、エレノアたちを拘束しようと魔法を放つ───……が、魔法自体は発動したが、エレノアたちが拘束されることはなかった。


「───ッぐ!?」


 代わりに、ロイの身体が動かなくなった。

 肩代わり。

 エレノアたちを守るにはうってつけの力だが、ロイにはかなり厳しかった。

 自らの意志で解除も可能だが、もう少し。


「おのれぇぇぇぇぇ!! 何が起こっている!? くそ、八咫烏の仕業だな!?」

「いける!! 殿下、ユノ、一気に攻める!!」

「ああ!!」

「うん!!」


 サリオスは長槍を、ユノは鞭剣形態に。

 エレノアは『熱線砲』形態に変形させ、火力を溜め始めた。

 エレノアが何をするのか察した二人は、互いに頷き合いクリスベノワに接近する。


「輝け、『ルミナス・ブレイク』!!」

「舞え、『氷華蓮(ひょうかれん)八重霞(ヤエガスミ)』!!」


 槍の連続突き、鞭剣による連続斬りを魔剣で辛うじて受け流すクリスベノワだが。


「これで、終わりぃぃぃぃぃぃっ!!」

「ぬぅゥゥゥゥゥッ!!」 

 

 炎聖剣から放たれた熱線が、クリスベノワの魔剣と正面から衝突する。

 クリスベノワは歯を食いしばる。

 油断。いや……自分に不備はなかった。

 八咫烏による、得体の知れない攻撃で乱され、そこを素人同然のガキ三人に付け込まれた。そして今、敗北寸前まで追い込まれている。

 始めから『制限』などかけず、ただ殺すだけでよかった。

 パレットアイズのために『遊んだ』ことで、追い込まれた。


「く、そ、ガァァァァァァッッッ!!」

「ッッ!! ま、だ、ま、だぁぁぁぁぁぁっ!!」


 すると、エレノアの背中を、剣を放り投げたユノとサリオスが支える。

 熱線を魔剣で防御するクリスベノワは、耐えていた。 

 この力に耐え、一気に接近して首を狩る。

 今は、耐える。人間の方が耐久力、体力ともに低いので問題ない───……はず、なのだが。


「───ッ、っがぁ!?」


 胸に衝撃。

 下を見ると、鏃が見えた。

 鏃に刺さっているのは、クリスベノワの心臓から飛び出した『核』……自分と、ダンジョンの核だった。


「なっ……」


 クリスベノワの身体が、青く燃え始める。

 後ろを首だけ振り返ってみると……八咫烏が、右手の短矢を向けていた。


「三分経過───……俺の、俺たちの勝ちだ」

「ぬ、ぁ、っが……く、そ、ガァァァァァァ!! この、クリスベノワが、パレットアイズ様の側近が……あぁぁ、パレットアイズ様ァァァァァッ───……ッッ!!」


 クリスベノワが完全に燃え尽き、消滅した。

 エレノアの熱線も消え、残ったのは……粉々に砕け散り、消滅した魔剣の残滓だった。


「……か、った」


 サリオスがポツリと言うと、三人はその場に崩れ落ちた。

 こうして、魔界貴族公爵クリスベノワは討伐された。

月間ハイファンランキング8位になりました!

皆様の応援のおかげです。これからもよろしくお願いします!

↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると、すごく嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
【コミカライズはこちらから↓】
gbxhl0f6gx3vh373c00w9dfqacmr_v9i_l4_9d_2xq3.jpg

web原作はこちらから!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

ニコニコ静画さんでも連載中。こちら↓から飛べます!
聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~


お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[良い点] 月間ランキング入りおめでとうございます! [気になる点] 流石にドン引くレベルで公爵級が討伐されてまたこの3人が持て囃されるのか?まぁロイは影に撤するし今さら名声などいらないでしょうけど …
2022/10/03 15:49 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ