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魔界貴族公爵クリスベノワの『討滅城』④/制限という苦痛

 パレットアイズは、久しぶりに「へぇ~」と興味を持ったような表情をした。

 クリスベノワも満足そうに微笑み、パレットアイズに跪いて言う。


「こちら、いかがでしょうか」

「いいじゃん。制限付きのダンジョンね」

「はい。最初は年齢制限、人数制限です。序盤は危険個所を減らし、財宝などで飴を与えつつ慣れさせ、徐々に、徐々に、苦しめていこうかと」

「ふふ、いいじゃん。面白っ」


 パレットアイズは笑い、クッキーが乗せてある皿に手を伸ばす。

 すると、皿がひょいっと移動した。


「や、パレットアイズ」

「……ササライ。なに? なんか用?」

「ッ!?」


 忘却の魔王ササライが、『討滅城』の制御室にいた。

 あり得ない。ここはクリスベノワがパレットアイズの力を借りて作り出した空間でありダンジョン。年齢制限、人数制限に引っかからず、全く何の気配もさせずに存在していた。

 クリスベノワは冷たい汗を流すが、ササライはにっこり笑って言う。


「あはは、そう怯えないでよ。ちょっと遊びに来ただけだから」

「遊び、ね」

「うん。ふふ、それにしても面白いね、パレットアイズ」

「…………なにが?」


 ササライがいう『面白い』が、ただの『面白い』ではない。長い付き合いだからこそわかる。

 案の定、ササライはどこか馬鹿にしていた。


「いやだってさ、パレットアイズ……きみ、僕の部下が死んだときに大笑いしてたよね? でもさ、きみのお抱え『侯爵』が四人も死んで、今は『公爵』であるクリスベノワが一生懸命頑張ってる。もしクリスベノワのダンジョンが攻略されて、彼が死んだら……ふふっ、きみは数千年ぶりに、魔界貴族を五人以上死なせることになるねぇ」


 ビシリと、クリスベノワの全身が砕け散るような殺気を感じた。

 クリスベノワは跪き、顔を伏せる。もしササライか、パレットアイズと顔を合わせたら即死する。そんなあり得ないことが起きるような気がした。

 流れ落ちる汗が止まらない。震えも止まらない……この殺気は、パレットアイズによる殺気。


「喧嘩売ってる?」

「まさか。まぁ……今のキミのやり方が面白いって思うのは、キミだけかなぁとは思ってる」

「…………ふーん」


 外見は十五歳ほどの少女なのに、あまりにも恐ろしい。


「じゃ、あんたはどうしたい? 今はあたしの手番だけど、ちょっとだけなら干渉していいわよ」

「嫌だなぁ。そんな面倒なことするわけないじゃないか。僕は『提案』するだけさ」

「提案?」

「そうさ、例えば……『キミ自ら手を下す』なんてどうだい? 僕ら魔王が直接手を出したのは……確か、七百年くらい前に、トリステッツァが『慈悲』を与えたのが最後じゃなかったっけ? どうだいパレットアイズ。久しぶりに、キミ自ら遊んであげるっていうのは」

「…………あんた、何考えてるの? まさか、あたしが、今の、聖剣士に、遅れを、取るとで、も!!」


 一言発するごとに、ササライの周囲が歪む。

 強大な力に、常識が崩壊しつつある。あまりのエネルギーに、クリスベノワは鼻血が出た……それくらい、パレットアイズの《圧》がすさまじい。

 だが、ササライは涼しい顔だ。


「退屈じゃないのかい?」

「…………はぁ?」

「変わらぬ日々。魔王は人間で遊び、人間が耐えきったら手番を変え、再び魔王による遊び……もう、何百年、何千年と僕らは変わらない。僕は、気付いたんだ……今回の七聖剣士は、何かが違う。はっきり言うと、ベルーガが負けるとは思わなかった。七聖剣士を二人殺して、一人と相打ちになると予想していたんだ。でも……七聖剣士は生き残った。それも、ほぼ無傷でね」

「…………」

「キミにこんなことを言うのは、キミの手番だから。パレットアイズ、キミが何かしなくても別にいい。次の手番であるトリステッツァに今の話をするだけだから。なぁパレットアイズ、見たくないかい? 感じてみたくないかい? 今回の七聖剣士たちの《可能性》ってやつを」

「…………」


 確かに。パレットアイズはそう思った。

 いつも通り、ダンジョンを展開して聖剣士たちで遊ぶ。そうすれば勝手に何人かは死ぬと思っていた。だが……死んだのは、パレットアイズの部下である『侯爵級』だ。しかも、全滅。

 今までとは違う。それは間違いない。


「あの女の作った『聖剣』がすごいのか、それを使う人間がすごいのか……どっちにしろ、直接戦わないのとわからない」

「……フン。やるなら、あんた自身でやれば? 次のあんたの手番まで、七人が生きていればだけどね」

「ま、キミならそう言うと思ったよ。僕が殺せなかった剣士を、殺すとか言ってたくせに」

「うっさい。でもまぁ……ちょっとだけ、ノッてあげてもいい」

「お?」

「この『討滅城』を聖剣士がクリアできたら、あたし自ら『少しだけ』遊んであげる」

「おお、さっすがパレットアイズ」

「うっさい。話終わったなら出てけ」

「はーい。ふふふ」


 ササライは、まだ手に持っていたクッキーの皿から一枚、口の中に入れてテーブルに置いて消えた。

 パレットアイズは、クリスベノワに言う。


「クリスベノワ。命令……あんたができる最大の『遊び』で、聖剣士をもてなしなさい。それと、ダンジョンの守護魔獣は、あんたが直接務めなさい」

「わ、我がですか? しかし」

「殺していい」

「…………かしこまりました。我が主」


 クリスべノワは、今までにないくらい真剣な表情で一礼した。


 ◇◇◇◇◇


(くっそ……なんて意地の悪いダンジョンだよ)


 ロイは仮面越しに舌打ちしそうになった。

 二階へ続く階段は、どう見ても先へ進むルート。

 今、このダンジョンに入った聖剣士は六十名ほどだ。数が全く足りていない。

 サリオスが舌打ちする。


「チッ……年齢制限の次は、人数制限か。仕方ない……今日はまだ序盤だ。人数制限のことは後で報告することにして、今日は一階層を探索しよう」


 妥当な指示に、サリオスのチームが頷く。

 エレノア、ユノのチームも同意。そしてエレノアが挙手。


「殿下、一階層にある扉はいくつかありますけど」

「……分担して進もう。全員で進むんじゃなくて、各チームから三名ずつ、このエントランスホールで待機。ドアを開けて、部屋の広さに応じて中に入るメンバーを決めて進むんだ。狭い部屋で全員が入っても、いざという場合、同士討ちを引き起こしかねないからね」

「了解!」

「ん……殿下、なんか頼りになる」

「か、からかうのはやめてくれ。じゃあ、オレは向こうのドアを。エレノアは向こう、ユノはあっちだ」


 サリオスが指さした方のドアへ進む。

 的確な指示だと思う。だがロイはそうでもなかった。


(くそ、わかっていたけど……俺一人じゃ、ばらけた場合に援護ができない)

『迷うことはない。この中で一番弱い、エレノアに付け』

(……エレノアは、ユノより弱いのか?)

『今はな。互いに才能はズバ抜けているが、相性という意味では、ユノのが優位だ。猪突猛進系のエレノアでは、ユノにはまだ勝てん。まぁ、戦術を学び、対処法を学べば、拮抗するだろうがな』

「……」


 ロイは、無言でエレノアのチームの最後方へ。

 ドアを抜けると、細長い通路。

 そして。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『この先、性別『女』のみ通行可能』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「なっ」


 ロイは思わず息を呑んだ。

 そして、ぎりぎりと歯を食いしばる。


「……女のみ、ね。仕方ない、この通路けっこう細いし、あたしと……あと五人だけ付いてきて。残りはここと、エントランスホールで待機!」


 エレノア───と、ロイは心の中で呼ぶ。

 だが、エレノアは気付かない……が、ほんの一瞬だけ、ロイの方を見た。


「───……」

(───っ)


 ───行ってくる。

 そう、呟いたような気がした。


『……いい女だな。お前が傍にいることなど気付いていないだろうに、いると信じて口を動かしたように見えた』

「…………」


 通路入口に三人残り、残りはエントランスホールへ。

 ロイは『姿隠矢(ゴーストフォース)』を抜き、静かに構えた。


「じゃあ、行くよ!!」


 エレノアは、女子五人を率いて通路を歩きだす。

 警戒しつつ進む。

 通路は石造りの、窓のない真っ直ぐな通路だ。奥に曲がり角があり、先が見えない。

 せめて、見える今だけでも援護を……そう思い、矢を番えて集中していると。


『グォルルル……』


 唸り声。

 エレノアたちが剣を抜く。すると、奥の曲がり角から、道を塞ぐように漆黒の肌を持つ『鬼』……ブラックオーガが現れた。


「全員、構えて!! あたしが前に出る」


 炎聖剣フェニキアの第二形態、刀身が縦に割れ、柄が伸び、炎が噴射して新たな刀身となるバーナーブレードへ。

 ブラックオーガが咆哮を上げ、大きな口を開いた───瞬間。


『ッブアァガ!?』


 突如、口を押さえ態勢を崩した。

 エレノアの後ろにいる五人の女聖剣士たちが「えっ?」と驚くが、エレノアは好機を逃さない。

 魔力操作により身体強化、剣を頭上に構え跳躍。


「『灼炎楼(しゃくえんろう)唐竹割(からたけわり)』!!」


 一刀両断。

 ブラックオーガが両断され、消滅した。


「さぁ、こんな雑魚にいちいち驚かないで、さっさと行くわよ!!」


 エレノアは剣を掲げ、五人の女子たちに向かって力強く微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇


 ロイは弓を下ろし、先へ進むエレノアたちを見送った。


(……頑張れ、エレノア)


 今の狙撃は、当然ロイ。

 ブラックオーガが大口を開けた瞬間、その口の中に『姿隠矢(ゴーストフォース)』を叩きこんだのだ。


『で、どうする?』

(やっぱり先には進めないみたいだし、別ルートを探してみる。殿下、ユノが通った道以外にもドアはあったし、もしかしたらエレノアたちや、ユノ、殿下たちと合流できるかも)

『わかった、行くぞ』


 ロイはエレノアたちが通路を曲がるのを確認し、こっそりと部屋を出た。

お読み頂きありがとうございます!


この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 七聖剣士の可能性って言っても侯爵4人はほぼ第3者のロイによるものだし、そんなこと知らない魔王からすればもしかして今回の七聖剣士は強いのでは?と勘違いするのも無理はないのかな?
2022/10/01 13:05 退会済み
管理
[気になる点] 子爵以下がカウントされてないのは??
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