魔界貴族公爵クリスベノワの『討滅城』③/調査隊結成
翌日。
いつも通りに着替え、寮で朝食を食べ、教室へ。
クラスメイトたちに挨拶をし、ほんの少し雑談をしてから教師が教室へ。
授業前に諸連絡をして、午前中の座学が始まるのだが……今日は違った。
ロイの担任教師であるアンネは、こほんと咳ばらいをする。
「えー……今日は授業内容を変更して、トラビア王国郊外に出現した『討滅城』の参加者を、このクラスから五名、決めたいと思います」
すると、教室内が一気に興奮する。
「オレ行く!」「私も!」「バカ、オレに決まってる!」と、我先にと挙手しては自己アピール。オルカ、ユイカも挙手しており、手を上げていないのはロイ、ユノくらいだった。
アンネが手をパンパン叩く。
「はい、静かに……きちんと最初から説明しますね」
トラビア王国郊外に出現した『討滅城』
年齢制限が設けてあり、聖剣騎士団たちが検証した結果、十五~十七歳の子供しか入ることができない。
そこで、聖剣レジェンディア学園の一年生、二年生、三年生から二十名ずつ募り、ダンジョン調査隊を結成。三人の七聖剣士をリーダーに、三班を作り、攻略に当たる。
「一年生は四クラスあります。各クラス五名ずつ、代表を決めたいと思います」
「先生!! こういうのって成績上位とかあるの!?」
「あの、テストやるとか?」「やっぱ実力だろ!!」
再び、教室内が騒がしくなる。
よく聞くと、この教室だけではなく、他のクラスも熱狂しているようだ。
アンネはパンパンと手を叩く。
「皆さんの剣技に関しては、もう評価が出ています。なので、これからテストを行います……まぁ、心理テストですね。こちらのテスト内容で、代表を私が決めたいと思います」
「「「「「えぇぇ~……」」」」」
不満が出た。
ダンジョンがどのような物かを見たロイだからこそわかる。クラスメイトたちは、ダンジョンに夢を見過ぎている。
すると、ユノがポツリと言った。
「変なの。死ぬかもしれないのに、ダンジョンに入りたがるなんて」
不思議と、ユノの声は教室に響き渡った。
ダンジョンに何度か入ったことのあるユノだからこそ、説得力がある。
アンネは咳払いし、テスト用紙を配り始めた。
◇◇◇◇◇◇
心理テストを全て埋め、ロイはため息を吐いた。
『くくく、なかなか面白いテストだったな』
(意地の悪いテスト、って言えよ)
妙な問題ばかりだった。
魔獣に仲間が襲われている。片方は恋人、もう片方は両親、助けるならどちらか? みたいな綱渡り問題ばかりだ。
ロイは、全て正直に答えた。
「そこまで。これから答案を回収します」
アンネが答案を回収。
「一時間後に、代表五名を発表します。それまで、自習とします」
アンネが教室から出ると、教室内は心理テストの内容についての話題となった。
ユイカも、ロイの隣に来て言う。オルカは別の男子と喋っていた。
「ね、なんて書いた?」
「全部正直に書いた」
「じゃあ、親と恋人はどっち?」
「……お前は?」
「うーん……ナイショ」
「俺も内緒」
「だよねぇ。ヒトには言えないよねぇ……」
ユイカは苦笑する。
すると、ユノがロイの机へ来た。
「へんな問題ばかり」
「あはは。だよなぁ」
「……人を苦しめるような問題、多かった」
「ね、ね、ユノちゃん。ユノちゃんは学園の選抜メンバーを率いてダンジョンに行くんでしょ? どう……やっぱり、怖い?」
「うん。でも、やらなきゃ」
「カッコいいなぁ。こ~んなに可愛いのにぃ!」
「むぐぅ」
ユイカに抱きしめられ、ユノは息苦しそうにしている。
ロイは椅子に深く腰掛け、考える。
まず、自分はこのクラスからの代表五名には選ばれないだろう。だが、ダンジョンには必ず行く。
エレノア、ユノ、サリオスの援護。それだけなら楽なのだが……今回は、未熟な聖剣士たちも一緒だ。はっきり言って、かなり面倒なことになりそうな気がしている。
「はぁ~」
「ロイ、おつかれ?」
「いや、テスト疲れだよ」
「わかる。ね、今日終わったらさ、甘いもの食べない?」
「行く。ロイも」
「お、俺も? いいけど」
何気ない雑談で盛り上がること一時間……アンネが戻って来た。
教室内は静寂に包まれる。そして、アンネが持っていた羊皮紙を開いた。
「えー、1組の代表を発表します」
◇◇◇◇◇◇
その日の放課後、ロイとユノとユイカは、ユイカおすすめの喫茶店に来てケーキを食べていた。
ユイカは、フルーツケーキを食べながら言う。
「まーさか、オルカが選ばれるなんてねー」
「だな。俺も意外」
「でも、オルカはけっこう強い」
そう、五名のうちの一人に、オルカが選ばれた。
座学こそクラスの下の中だが、剣技は上位五名のうちに入っているオルカ。名前が呼ばれた時は、飛び上がるほど喜んでいた。
あとの四名は、男子二名、女子二名と、実力が拮抗しているクラスメイトだ。ロイは名前も曖昧で、挨拶もしないメンバーである。
「ユノ、オルカのこと、気にしててくれ。あいつ、調子に乗るかもしれないし」
「うん」
「はぁ~……でもちょっと、入ってみたかったなぁ」
ユイカは、ストローに口を付け、フルーツジュースをゴクゴク飲む。
ユノも、四個めのケーキを完食。おかわりを注文していた。
「な、ユノ。これから聖剣士たちはどうなるんだ?」
「ロセ先輩が代表者を集めて、ダンジョンについてお話する。そのあと、三チームに分けて、わたしとエレノアと殿下のチームにして、攻略を開始するって。早くて二日後から」
「……二日後か」
「その間、みんなはお休みだって」
「───!!」
それは嬉しい知らせだった。
堂々と、ダンジョンに侵入することができる。しかも、『討滅城』は目と鼻の先。急いで汗だくになりながら戻る必要がない。
「わたしも、今日いっぱい食べたら、ダンジョンに向けて集中する」
「ユノちゃん、がんばってね!」
「うん、ありがとう」
「ユノ……気を付けろよ」
「うん。ありがとう、ロイ」
お前のことは守るから。ロイは心の中でそう思った。
◇◇◇◇◇◇
二日後。
聖剣騎士団の天幕に、総勢六十名の聖剣レジェンディア学園の生徒たち、そして五人の七聖剣士が集まった。
エレノア、ユノ、サリオス、ロセ、ララベル。ロセとララベルはダンジョンに入ることはできないが、いざという時のために待機。
ロセは、サリオスに言う。
「サリオスくん。気を付けてね」
「はい!! ロセ先輩、まだまだ未熟ですけど……オレ、やり遂げます!!」
「うん。期待してる」
「ほうほうほう」「おおー」「くくく、ね? おもしろいでしょ?」
エレノアがニヤニヤし、ユノが首を傾げ、ララベルもニヤニヤしながらエレノアの肩をポンポン叩く。二人の様子を遠巻きで見ていたエレノアは、ララベルに言った。
「いやー、いろいろ楽しいですね」
「うんうん。エレノア、アンタわかってるじゃない」
「うっふっふ。ララベル先輩も」
「……なんかエレノアたち、ゲスいね」
「「!?」」
ユノに言われ、エレノアとララベルは同時にユノを見た。
そして、ロセがこほんと咳払い。エレノアたちの会話を聞いていないのか、集まっている生徒たちに向けて話し始めた。
「みなさ~ん!! おはようございまぁす!! 今日はこれからダンジョンに入ることになりますが───……」
◇◇◇◇◇◇
ロイは、天幕の近くにある大きな岩場に隠れ、様子を伺っていた。
近くにある『討滅城』を見上げ、仮面をずらして素顔で言う。
「あそこに、『公爵級』がいるんだな?」
『ああ。問題は……クリスベノワがどこまで本気か、だ。奴はパレットアイズを楽しませるためなら何でもする。パレットアイズが「さっさと殺せ」と命じたら、ダンジョンに入った時点で即死級のトラップが発動してもおかしくない。だが……わざわざ年齢制限を設け、ダンジョンに若い聖剣士をおびき寄せるような真似をするということは、パレットアイズが楽しんでいるという証拠でもある。パレットアイズにとって、四人の『侯爵級』は死んでも意味のない、取るに足らない存在だった……ということか?』
「話長い。念のために聞くけど、ここに隠し通路は?」
『ない。正直、我輩にもよくわからん』
「そっか……とりあえず、やっておくか」
ロイは『万象眼』で、エレノア、ユノ、サリオスを見た。
『お前、まさか……し、視覚の同時中継を!?』
「三人だけ。集中すれば視覚を切り替えられる」
『…………』
最近まで、一人しか視覚の共有はできなかったはずなのに。
だが、今はこうして三人までの共有を可能にしている。
デスゲイズは、もう認めざるを得なかった。
『ロイ』
「よし、先に行くぞ」
『……ああ』
ロイは仮面をかぶり、フードを被り周囲の風景に擬態。気配を殺し、足音を殺し、ゆっくりと『討滅城』に近づく。
入口の門は大きい。いつも通り、誰かが開けた瞬間に身体を滑り込ませる作戦にした。
すると、門に聖剣士たちが向かってきた。オルカもいるが、ユノが率いるチームにいる。その表情は期待、興奮に包まれており、笑みが隠し切れない。
「では、これより先に進む!! いいか、オレより前に出ないこと、勝手な行動をしないこと。事前に話したルールを破った者は、チームから外し、さらに罰則があるからな!!」
サリオスの声はよく響いた。
サリオスが門に触れると、門がゆっくり開く。
そして、いつの間にかいたララベルが「みんな、見てて」と言い門の先に進もうとすると、見えない壁に阻まれているのがよくわかった。
「それでは、出発!!」
サリオスたちが門の先へ。
その次がエレノア、その次がユノのチームだ。
全てのチームが門の先に進み、最後にロイが門をくぐる。
(よし───……)
門が閉まり、ついに『討滅城』へ入ることができた。
◇◇◇◇◇◇
門の先には橋が掛けられており、その先には大きなエントランスホールになっている。
階段があり、二階への道もある。エントランスホールにはいくつか扉があり、一階の探索だけでもかなりの時間が必要そうだ。
サリオスは、二階への階段に足を掛けようとした───次の瞬間。
「───ッ!! なんだっ!?」
突如、階段の上から大きな額縁が落ちて来た。
サリオスはバックステップで回避。階段の道が封鎖された。
そして、その額縁には絵が入っていない。
代わりに、白いキャンバスに文字が刻まれていた。
(───マジかよ、くそ)
その文字を見て、ロイは舌打ちしそうになった。
そこには、こう書かれていたのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『この先に進むには、聖剣士100名必要』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
年齢制限ならぬ、人数制限が道を阻んでいた。





