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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第二章 夢とお菓子と快楽のパレットアイズ

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吹き荒ぶ『螺旋風の塔』③/魔界貴族侯爵『荒巻』のザオレン

「マジかよ……!!」

 

 ロイは、二十五階層の扉の影で歯を食いしばった。

 スケルトン・グリフォンが現れた時も、ロイだけは気付いていた。

だから、ララベルを襲うほんの一瞬、全員の位置と死角を計算し、全員がスケルトン・グリフォンに釘付けになった一瞬を狙って『音無矢(セイレーン)』でスケルトン・グリフォンの背に一発食らわせたのだ。

 ほんの一瞬、スケルトン・グリフォンがよろめいた瞬間をララベルとロセは見逃さなかった。もし見逃せば、《第三者》の存在がバレる可能性もあったが、追加の一発を射る予定だったのだが、なんとかそれは阻止できた。

 だが、今……ロセたちの前に、魔界貴族侯爵『荒巻』のザオレンがいる。


『チッ……最悪だな。パレットアイズの奴め、聖剣士で「楽しむ」のをやめて「殺す」方針に切り替えたか。まぁ、短気なヤツにしては随分と持ちこたえた方だが』

「くそ、どうする」

『待て。うかつに動くな……援護はまだ早い』


 前に出たのは、ロセ、ララベル。一歩下がってカレリナ、ミコリッテ。そしてマッパーと荷物持ちを守るようにサリオスだ。

 てっきりサリオスは前に出るかと思ったが。


『自分の実力を把握してあの位置にいる。ふふ、女に守られてるだけでは歯がゆくなるだろうと思っていたが、なかなか冷静だ。自分がまだ足手まといだと理解している』

「……殿下」


 ロイは、改めてサリオスの評価を変えた。

 きっと、今の自分ではロセどころか、誰も守れないと気付いている。

 この国の王子。そして光聖剣サザーランドの所持者は、成長していた。


「…………デスゲイズ、やるぞ」

『待て、お前まさか』

「大丈夫。絶対に『俺だと』バレないようにする」

『……まさか』

「ああ。こうなったら、やるしかない」


 ロイはデスゲイズに『提案』する。

 デスゲイズは「はっ」と笑い、その願いに応えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 サリオスは、震えと汗が止まらなかった。


「あ、あれが……魔界貴族、『侯爵』」


 侯爵級。

 一般的な魔族。中級魔族、上級魔族。その上に立つ魔族の中の魔族である『魔界貴族』たち。

 男爵級、子爵級、伯爵級までは聖剣士たちでも辛うじて対応はできる。だが……『侯爵級』からは別次元の存在だ。

 さらにその上には、四人の魔王が一人しか所有していない側近、『四魔公爵』がいる。

 侯爵級以上は、七聖剣士しか相手ができないとされているが……今の未熟なサリオスは、たとえ自分が千人いようと、目の前にいる侯爵級のザオレンに傷付けることすらできないと完全に自覚した。

 今の自分にできるのは、ロセやララベルたちに守られながら、同行した荷物持ちやマッパーの前で『盾の真似事』をするだけ。


「で、殿下……」

「だ、大丈夫。お、オレが守るから……ッ!!」


 情けないくらい声が震えているが、サリオスはそれしか言えなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ロセ、ララベルはそれぞれ『地聖剣ギャラハッド』と『風聖剣エアキャヴァルリィ』を構え、ザオレンと対峙していた。


「侯爵級、久しぶりね」

「ええ……勝てる?」

「さぁ?」


 ララベルは余裕そうに見えたが、表情が硬い。

 ロセも、小さく深呼吸……地聖剣ギャラハッドの柄を強く握ってしまい、汗で滑ることに気が付き、慌てて手を拭う。


「は、ビビッてんのか?」

「まぁね。アンタ、死ぬほど強いし」

「見る目はあるじゃねーか」


 ザオレンはニヤッと笑う。

 今は、多少なりとも気を落ち着かせる時間が欲しい。

 すると、ザオレンは言う。


「その弓……お前、エルフ。お前に聞いていいか?」

「……何?」

「このダンジョンに、お前の仲間はいるか? 聖剣士で、弓を使う奴は」

「……はぁ? 仲間なんていないわ。アタシは、無断で国を出たんだもの。付き人や護衛は全員振り切ったしね」

「……ふーん」


 ザオレンは紙巻煙草を取り出し、火を点ける。


「アタシの仲間を殺ったのは、この中にいるか?」

「「…………」」

「いない、か……それとも、お前らが知らされていないか、七聖剣士が無断で、しかも単独で動いているか、か?」

「……どういう、こと?」

「魔界貴族侯爵が、三人殺されてんだよ。おかげで、パレットアイズ様のダンジョンを管理する侯爵級はアタシだけ。クッソめんどくせえことしてくれやがった」

「ダンジョンが消えただけじゃなく、侯爵級が三人も……」


 ロセは驚く。今の話は信用できた。なぜならザオレンが嘘をつく理由がない。

 ロセたちの知らない『何か』が、暗躍している。

 ふと、ロセは思ったのは……『水のダンジョン』での出来事。まるでサリオスを守るかのように飛んで来た『何か』だった。

 そして、ララベルも思う。たった今、スケルトン・グリフォンが動きを鈍らせた『何か』が、その何者かの仕業だったら?


「「…………」」

「チッ……その顔、テメーらも何も知らねぇみたいだな。じゃ、いい。パレットアイズ様に見せる最後のショーだ……死ねや」


 ザオレンは煙草を吐きだし、両手の五指を開くと、十本の指に『竜巻』が渦巻く。

 ビリビリとした殺気に気おされつつ、ララベルは言う。


「ロセ、出し惜しみナシ!! 全力でいくわよ!!」

「ええ!! ララベル、お願いね!!」

「よっしゃ!!」


 二人が剣を構える。

 ザオレンの竜巻がさらに威力を増し、暴風となり部屋を覆い尽くそうとした───……次の瞬間。


「───ッ!!」


 ザオレンの背後、首に向かって何かが飛んで来た。

 ザオレンは首筋に竜巻を発生させ飛んで来た『何か』を弾く。


「あァ!? 舐めた真似するクソはどこのどいつ───……」


 振り返った瞬間、両腕に何かが刺さった。そして、顔面に拳を叩き込まれ、ザオレンは床に叩き付けられる。


「ッブ!?」


 そして、『何者』かが一瞬で離れ、ロセたちのすぐ近くで止まった。


「え……」

「は……?」


 それは、漆黒だった。

 黒いコート、黒い皮の手袋、黒のロングブーツ身を包み、フードを被っているため肌の露出が一切ない。顔には白い仮面があり、黒いラインが禍々しく刻まれている。

 手に持つのは弓で、背には矢筒を背負っている。

 

「───だ、だれ?」


 思わず出た、ロセの言葉。

 その言葉に反応し、『黒い何か』は、老若男女、少年少女の声が混ざり合ったような、ブレた声で言った。


『俺は『八咫烏(ヤタガラス)』───……七聖剣士、援護する。戦え』

「「……は?」」

『敵ではない。今は納得しろ……来るぞ』


 八咫烏は矢を何本か抜き、一本を番えた。

 敵意はない、ロセはそう考え前を向く。

 だがララベルは、八咫烏の弓が気になったのか、前を向かない。


「ララベル!!」

「あ、うん!! わかったわ!!」

『…………』


 こうして、『八咫烏(ヤタガラス)』という謎の射手と共に、ロセたちは戦うことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 当然、八咫烏の正体はロイだった……が、内心ドキドキが止まらない。


(おい、なんだよヤタガラスって……!)

『昔、我輩が飼ってた大烏の名前だ。カッコいいだろう?』

(ペットかよ!? しかも何だこの恰好……俺は仮面じゃなくて被り物で、身体ももっと分厚いローブにしろって言ったじゃねぇか!!)

『まあいいだろう。ククク、カッコいいぞ?』

(うれしくない!! ああもう……やっぱやめとけばよかった)


 ロイの提案とは、『こうなったら堂々と前に出る。でも正体は徹底的に隠すため、デスゲイズの力でバレないための装備品を作る』というものだ。

 こうしてできたのが、漆黒の狩人『八咫烏(ヤタガラス)』というわけだ。


(俺、これからずっとあの装備でいくのかよ……)

『安心しろ。ステルス機能や仮面の効果は残っているぞ』

(そういう問題じゃない……)

『とにかく、今は集中しろ。ザオレンは手ごわいぞ』

(へいへい)


 そう思い、ロイは矢を矢筒から抜く。


(五分以内にケリ付ける───……行くぞ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 弓が木刀と一緒なの気付かれとるな
[一言] 八咫烏。方向性はぴったりですね
[一言] 導きの神ですな デスゲイズが「三本目の足」ってことになるんだろうか?
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