吹き荒ぶ『螺旋風の塔』①/竜巻の塔
風のダンジョン。
別名、『螺旋風の塔』では、すでにサリオスたちがダンジョンに出発した後だった。
ロイはステルス状態で天幕に入り、聖剣士たちの話を聞く。
サリオスの天幕前で、若い二人の聖剣士が話をしていた。
「それにしても、ロスヴァイセ様とララベル様。対照的だよな」
「ああ。ロスヴァイセ様はドワーフとのハーフ、ララベル様はエルフとのハーフだろ? どっちもすっごい美少女だけどよ……ここがなぁ」
男が、両腕で胸を持ち上げるような動きをする。
「お前、どっちが好きだ?」
「オレはララベル様。あの勝気な感じがすっげえ好きだなー」
「そうか? オレはロスヴァイセ様だな。あのおっとりした感じに、あの胸……母性ってのかねぇ? ぎゅってされたいぜ」
「あっはっは。それにしても、サリオス殿下は大変だよな」
「ああ。あの二人に挟まれてのダンジョン攻略だぜ?」
「そういや聞いたか? ロスヴァイセ様はサリオス殿下のこと、少し気になってるらしいぜ。オレの同期のカナが、『あれは恋する乙女ね!』って言ってた」
「マジ? じゃあララベル様も?」
「ララベル様は、ロスヴァイセ様に張り合ってるだけじゃねえか? それか、面白がってるか……どっちにしろ、間に挟まれるサリオス様は大変ってことだ」
「あっはっは、違いない」
ロイは話を聞き、その場を離れた。
天幕を抜け、『螺旋風の塔』へ向かいながらポツリと言う。
「ララベル先輩も来てるのか……なんでだろう?」
『しらん。だがまぁ、あのエルフは見た感じそこそこ強そうだ。相性が悪かったとはいえ、あのドワーフもかなり強い。あの二人が組めば、侯爵級も相手できるだろうな。現れる魔獣や男爵級では相手にならん』
「俺の出番、少なそうだな」
『かもな。だが、油断するな』
ロイは「わかってるよ」と言い、急ぎダンジョンへ向かった。
◇◇◇◇◇◇
「…………」
『…………』
風のダンジョン、『螺旋風の塔』
竜巻の中に隠された、巨大な塔。
サリオスたちは、ララベルが台風を『斬る』ことで一時的な入口を作り入った。が……当然、ロイにそんなことはできない。
ロイは矢筒に手を伸ばすが。
『待て。一時的にでも台風の流れを乱せば、ザオレンが気付く。すでに攻略部隊であるサリオスたちがいるのに、再び風に乱れが生じたら、サリオスたちも気付くだろう』
「おい、じゃあどうしろってんだよ……こんな台風に突っ込んだら、バラバラになるぞ。それとも、他の入口があるのか?」
『残念だが、ここに隠し通路はない。いや……あることはあるが、全て塔の中だ』
「…………」
『さて、どうするか……む、そうだ』
「?」
ロイは、デスゲイズからの『提案』を聞き、嫌そうに顔をしかめた。
◇◇◇◇◇◇
一方、風のダンジョン制御室では。テーブルに足を乗せ、煙草を吸いながら画面をジロっと睨む若い女がいた。
女は、見かけ通りの年齢ではない。
パンクなファッションに身を包み、耳には十を超えるピアスで彩られ、短い髪は濃い緑色に染まっている。
魔界貴族侯爵、『荒巻』のザオレン。
ザオレンは、煙草を吸いながらイライラしていた。
「チッ……雑魚が。こんなクソに、全員ヤラれちまったのかよ」
つい先ほど、ボッグワーズの死が伝わって来た。
ザオレンは、ダンジョンの管理をしながらその報告を聞き、思わず「何ぃ!?」と叫んでしまった。
つまり、残りの侯爵級は、ザオレンのみ。
「めんどくせぇ……」
仲間が討伐されて悲しんでいるのではない
仲間が討伐されたことで、仕事量が増えて怒っている。
ザオレンは、大きな欠伸をして画面を睨む。
そこにいたのは、サリオスを挟んで言い合いをする、エルフとドワーフのハーフである少女たち。どうやら、サリオスのことで言い合いになっているようだ。
「…………ま、いいか。面白そうだ」
ザオレンはニヤッと笑い、『螺旋風の塔』の仕掛けを発動させた。





