『地底宝物殿』の財宝③/ララベルとサリオス
「アンタがサリオスね? ふんふん、ロセのお気に入りだからどんな子かと思ったけど……けっこう細いのねぇ? あの子はデカチチのくせにちっこいから、もっとデカい子を想像してたけど。でも顔はいいわ。イケメンね! まだ子供だけど、あと二十年もしたらもっと男前になるかもね!」
「あ、あの……」
サリオスは、天幕から『風のダンジョン』がよく見える場所にいた。すると、エルフの少女ことララベルが近づいてきて、サリオスをジロジロ見始めたのである。
いきなりのことで驚くサリオスだが、ララベルの腰にある双剣……いや、双短剣を見てハッとした。
「その剣、まさか」
「はじめまして、アタシはララベル。『風聖剣エアキャヴァルリィ』の所持者。よろしくね!」
「は、はい」
軽くウィンクするララベル。長いエメラルドグリーンの髪をふわっとかき上げる姿は美しい。日の光に照らされた髪が宝石のように輝き、不思議と甘い蜜のような、森の香りもした。
だが、サリオスは「ん?」と首を傾げる。
「あの、『風』の聖剣士……ですよね? トラビア王国外の七聖剣士は、自国の防衛に」
「あー、何度も説明するのメンドくさいから簡潔に。防衛は他に任せて、アタシはあんたの指導に来たの」
「え」
「あれ、気になってるんでしょ? でも、ロセがあと数日で起きられるから待機……そう言われたのよね?」
「…………はい」
ララベルが指さしたのは、天幕から数キロ先でもよく見える『巨大な竜巻』だった。
正確には、塔。
真っ直ぐな塔から発生する『竜巻』だ。塔なので動くこともない、その場で渦巻く『竜巻』の中に、ダンジョンである『塔』があるのだ。
「『螺旋風の塔』……風のダンジョンね。ま、アタシと一緒なら問題ないわ」
「で、でも……聖剣騎士団の部隊長たちも、一人しかいませんし」
「大丈夫だって」
ダンジョンに入るには、聖剣騎士団の部隊長二名を同行させる決まりになっている。四部隊の部隊長が交代で付き、残り三部隊はトラビア王国の防衛にあたっている。
現在、『水』の部隊長ポマードと『雷』の部隊長エクレールが王都へ報告に向かい、『火』の部隊長カレリナと怪我の治療が終わった『地』の部隊長ミコリッテが交代でこの風のダンジョンに来る手はずになっている。
すると、いいタイミングで聖剣士が報告に来た。
「失礼します! 『火』部隊長のカレリナ様、『地』部隊長のミコリッテ様が到着しました!」
「お、いいタイミング。じゃあさっそく行きましょうか!」
「え、今!? あの、さすがにすぐは」
「いいからいいから!」
ララベルは、サリオスを引っ張って歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
「と、いうわけで……風のダンジョンに到着~!!」
「「「…………」」」
ララベルを先頭に、サリオス、カレリナ、病み上がりのミコリッテは、『螺旋風の塔』に到着した。
今日はロセの天幕で、ダンジョンについての説明や攻略などを話す予定だったが……カレリナとミコリッテが到着するなり、ララベルが強引に三人をダンジョンに連れ出したのである。
「あの、カレリナさん……いいんですか?」
「仕方あるまい……そもそも、七聖剣士としての権力を振るわれたらな」
「うぅぅ……わたし、病み上がりなのにぃ」
ヒソヒソ話すカレリナとミコリッテ。
七聖剣士は、聖剣士たちの上に立つ存在だ。基本的に、全ての聖剣士に対して命令権を持つ。
新人であるエレノアたちも知ってはいるが、さすがにそこまではしない。
だが、ララベルは普通に命令した。
「さ、あんたたち。今日は五階層まで行くわよ」
「ら、ララベル様!! 今日お着きになったばかりで知らないとは思いますが、すでにダンジョンは二つ攻略されています。まだ不明なことも多く、慎重に対応するべきかと」
「そうね。だからこそ五階層よ」
「…………」
ララベルは、塔を守る竜巻に無造作に近づいて行く。
「あ、あの!! 大丈夫なんですか!? ララベル先輩!!」
「先輩。いい響きねぇ……でもね、新人クンがアタシの心配するなんて、百年は早いわよ?」
ララベルが腰の短剣、『風聖剣エアキャヴァルリィ』を抜刀。両手で逆手持ちで構えを取る。
「『撫斬』」
一瞬、暴風が巻き起こった瞬間、竜巻が吹き飛ばされた。
「さ、行くわよ。今は消えてるけど、この竜巻はすぐに復活するから」
「…………」
唖然とするサリオスの肩を、カレリナがポンと叩く。
「あれがララベル様だ。エルフリア王国の第二王女にして、歴代最強の『風聖剣』の使い手。エルフリア王国では、王国一の『弓の名手」とも言われている」
「あの、性格がちょ~っと……その、アレな感じですけどね」
「そこ、聞こえてるわよ」
「ひぃっ!?」
ララベルは、余計なことを言うミコリッテをジロリと睨んだ。
◇◇◇◇◇◇
一方、エレノアたちは。
「いや~……お宝いっぱい!」
「財宝だらけ」
財宝、魔族の剣や防具、薬、宝石などを大量にゲットし、ホクホクだった。
今日の探索は終わり、転移石で入口まで戻り、バルバーの風魔法で天幕まで戻って来た。
回収した財宝は、王都から派遣されてきた鑑定人たちが全て持って行ってしまったが。
エレノアは、自分用に用意された天幕でユノとお喋りしていた。
「お宝、すごかったねー」
「宝石いっぱいだった」
「でもさ、みんな持って行かれちゃった。ちょっとくらいくれてもいいのになぁ」
現在、エレノアは、上半身裸のユノの背中を、濡れタオルで拭いている。
拭き終わると、ユノを仰向けにして寝かせ、髪を洗い始めた。
「ユノ、上着ていいわよ」
「別にいい」
「でも、胸……まぁいいか」
胸が丸見えだが、同性なのでユノは気にしていない。
最近、知ったことだが……ユノは羞恥心が薄い。スカート姿で無防備にしゃがんで下着が見えていることも多くあるし、もっと警戒してほしいとエレノアは思う。
大きめの桶にユノに氷を入れてもらい、エレノアが炎聖剣で溶かす。それだけでお湯も、飲み水も簡単に作れるので、二人がいれば喉が渇くことはなさそうだと笑い合った。
エレノアは、ユノの髪を洗う。
細く、薄い青の髪。さらさらとして、お湯で濡れているのにどこかヒンヤリする。
「ん……きもちいい」
「かゆいところ、ない?」
「うん」
どこか、手のかかる妹のようだ。
同じ七聖剣士であり、ライバルでもあると思ったが……最近はこうして、よく甘えてくれる。
「ロイ、元気かな」
「……そうね、元気だと思う」
ふと、エレノアは思った。
ユノになら、ロイの秘密を話していいかもしれない、と。
「ね、ユノ。火のダンジョンのこと、覚えてる?」
「うん。燃えるお猿を、エレノアが倒した」
「……実はあれ、っ、っ」
声が出ない。
あれはロイ。そう言おうと試してみたが、やはりデスゲイズの呪いで言えなかった。
「実は?」
「……なんでもない。はい、終わり」
「ん」
タオルで髪を拭くと、ユノはエレノアに向き直った。
「次、エレノア」
「あ、あたしは自分でやるからいいわよ。あたし、髪長いし……面倒だし」
「いい。おかえし、する」
「わ、わかったから。とりあえず服!」
「ん」
穏やかな二人の時間は過ぎていく。
明日から、再び『地底宝物殿』の探索が始まる。
今度は、どれだけの財宝が手に入るのか。
だが……再び命の危険にさらされるとは、この時は思いもしなかった。
◇◇◇◇◇◇
「───よし!!」
たっぷり寝たロイは飛び起き、首をコキコキ鳴らして腕をグルグル回す。
そして、制服ではなく私服に着替え、デスゲイズを手に部屋を飛び出した。
『なんだ、学園に行かないのか?』
「すっかり忘れてたけど、今日は休みだ!! 今日は朝からダンジョンに行ける。エレノアのいる『地のダンジョン』に向かうぞ!!」
『ふ、すっかり回復したな』
「おう。おいデスゲイズ……今度こそ、抜け道教えろよ。もう水のダンジョンみたいな目に遭いたくないからな」
『わかっている。地のダンジョンこと『地底宝物殿』には、しっかり隠し通路がある』
「よし、じゃあ行くか!!」
ロイは部屋を飛び出し、エレノアのいる『地底宝物殿』に向けて走り出した。
片道数十キロはある。だが、狩りに向かうため急がねばならないというロイの想いが、魔族すら超える身体強化で、圧倒的な速度を叩きだす。
「残りのダンジョンは三つ……やってやるぞ!!」





