『地底宝物殿』の財宝②/大地と風
「派手にヤられたわね、ロセ」
「ララベル……?」
風のダンジョン近くに設営された聖剣騎士団の天幕に、エルフの美少女にして『風聖剣エアキャヴァルリィ』の所持者であるララベルが、ベッドで横になっているロセの元に来た。
ララベルの登場に、ロセは驚きを隠せない。
「あなた、どうしてここへ? 今、トラビア王国にいない七聖剣士は、自国の防衛をしてるんじゃ」
「そんなの任せてきたわよ。パパ……じゃなくて、うちの国王陛下、今は国内の防衛を~なんて言ってアタシを閉じ込めようとしたから、顔面ブン殴って出てきてやったわ」
「あなたねぇ……というか、どうしてここに? あと、私が怪我したこと知ってるの?」
「ふふん、そんなの『風に聞けば』すぐにわかるっての。それより……」
ララベルは、にんまりしながらロセをジロジロ見た。
ロセは、怪我は全て完治している。だが、失った右腕を『再生』させたおかげで、体力が著しく低下……数日の休養を余儀なくされた。
「腕喰われたってマジ? 失った部位を再生させるなんて、治癒系の聖剣士十人くらい必要よね。アンタらしくないわね~?」
ちなみに、ロセの治療をするために、ダンジョン攻略に同行した治癒系聖剣士たちが十人、衰弱で倒れてしまった。
「もう! ララベル、何をしに来たかわからないけど、邪魔するなら帰りなさいよぉ!」
「あっはっはっは! 弱ったアンタを茶化しに来たのと、アンタの代わりに坊ちゃんにお稽古付けに来てあげたのよ。いるんでしょ? サザーランドの所持者」
「え? いるけど……あなたが、指導?」
「そうよ。目の前に『風のダンジョン』があるのに、アンタが起きるまで待ってるしかないって、可哀想じゃない。だから、アタシが来たのよ」
ララベルは胸を張る……が、そのふくらみは小さい。
ないわけではないが、ロセと比べると山脈と平地だ。
「……サリオスくんは、私が指導するからいいわ。あなたは、国に帰りなさい」
「は? いやいや、せっかく来たのに何それ? アンタのお見舞いもしてあげてるのに」
「頼んでません! というか、あなた陛下や団長さんに報告もせずにここに来たの?」
「そうだけど」
「おばか! あのねぇ、国から出ちゃいけないあなたが、国王の許可も取らずにトラビア王国に来たら問題になるでしょうが! トラビア王国とエルフリア国の間に、問題が起きたらどうするの!?」
「平気よ。それより、サザーランドの所持者は?」
「……今はいません」
「……なーんか怪しいわね。あ、わかった。アンタ、そいつとアタシを会わせたくないんでしょ?」
「……っ」
「え、まじ?」
ロセの頬がカァ~っと赤くなったのを、ララベルは見逃さなかった。
そして、オモチャを見た子供のようにニヤニヤする。
「なぁ~るほどねぇ。ふふふ、アンタ、年下好きだったんだぁ?」
「ら、ララベル!!」
「あっはっは。病人はそこで休んでいなさい。アタシはアタシでやらせてもらうから~」
「あ、待ちなさい! こら、ララベル!」
ララベルは、ロセの天幕から出て、サリオスをからかおうと探し始めた。
◇◇◇◇◇◇
一方、エレノアとユノ。
地のダンジョンこと『地底宝物殿』は、構造こそ単純で魔族の道具が入っている宝箱が多く設置されている。だが……その代わりに、四つのダンジョンで一番多く魔獣が出る。
現在、三階層。宝物殿は地下に通じる階段があり、下に向かって降りていくのだが。
階段がある部屋の前にいる、三階層の守護魔獣を相手に、エレノアが一人で戦っていた。
敵は、ダンジョンゴブリンの上位種。ダンジョンビッグゴブリン。
「炎聖剣技、『灼炎楼・螺旋陣』!!」
ティラユール流剣術と、炎聖剣の攻撃を合わせたオリジナル剣術。
エレノアは、自身の戦闘スタイルを見つけ、急激に成長していた。
刀身が開き、高密・高熱の炎刃が噴き出す炎聖剣で、回転しながらの連続斬り。炎剣による攻撃力の高さと、回転による威力の増加での斬撃は、ダンジョンビッグゴブリンの身体を容易く両断した。
ダンジョンビッグゴブリンが青い炎に消滅。エレノアはバーナーブレードを通常剣に戻す。
「今の、いい感じだった。待って、回転するのもいいけど、跳躍して一刀両断するのもいいな。ティラユール流剣術にある『一刀両断』と合わせて……」
ブツブツ言っていると、バルバーがエレノアの頭をポンと叩いた。
「あいたっ」
「新しいスタイルに馴染んで、新しい技を開発したくてしょうがないって感じだな。いい傾向だが、お前の体力も無限じゃねぇし、まだ成長途中ってこと忘れんな。お前より強い魔獣なんて、このダンジョンにはわんさと出るぞ。実力を見誤らず、じっくり育てていけ」
「は、はい」
水のボトルを渡されたので、遠慮なくゴクゴク飲む。
やはりバルバーはいいヒト。兄がいればこんな感じなのだろうか。
「お兄ちゃんみたい」
「確かに……」
「そこ、うっせぇぞ!!」
ユノとネクロムに言われ、バルバーはキレた。
だが、エレノアは笑った。
決して気を抜いているわけじゃない。
大事なことは、頭の片隅にある。
だが、今は完全に出てこなかった。
『…………』
ダンジョンはすでに二つクリアされ、魔界貴族侯爵が二人も討伐された……そして、そのことで残りの魔界貴族たちが、どういう感情で、今のダンジョンを管理しているかなんて。
◇◇◇◇◇◇
「たのしそう、だなぁ……」
『地底宝物殿』の管理者。
魔界貴族侯爵『財宝』のボッグワーズは、スコープバットの映像を見ながら、なんとも白けた目でエレノアたちを見ていた。
「難易度が低い、四つのダンジョンで比較的簡単、魔獣も弱い……ねぇ」
バルバーたちの会話は、全て聞いている。
ボッグワーズは、ふかふかの椅子に座り、ぽっこり出たお腹を撫でながら、生のニンジンをボリボリ齧る。
「そして、魔族の作った道具。優秀な道具が置いてある……うん、このセリフは評価できるね」
ダンジョンにある宝箱。
そこに入っているアイテムは全て、ボッグワーズが作ったものだ。
魔族の武器、防具、薬。人間では作れないアイテムばかり。
だが、それらのアイテムは人間界に出回ることがない。人間の貴族たちが独占し、自分たちだけのために使っている。
「人間らしいなぁ。まぁ、ぼくにはどうでもいいけど」
生のジャガイモを手に取り、一口で飲み込んだ。
映像を眺めていると、通路の一角に置いてある宝箱を発見したようだ。
バルバーは『開けてみろ』と言い、エレノアがドキドキしながら開ける……中に入っていたのは、ボッグワーズが作った『ポーション』だ。
飲むと体力が回復。切り傷程度なら掛けるだけで綺麗に治るアイテムだ。
『ダンジョンの財宝は全部、王家の鑑定人が調べることになってる。そのまま収納にしまって、ダンジョンから出たら出しておけ』
『え、もらえないんですか?』
『……そういう決まりなんだよ』
バルバーは納得していないようだ。
ボッグワーズは思う。
「こいつらの誰かが、シェリンプさんと、シタラドさんを……? ぶふふ、ざまあみろだ」
ボッグワーズは、ダンジョン管理者である他の三人が嫌いだった。
自分を軽視し、馬鹿にする三人。馬鹿にしないのは、クリスベノワとパレットアイズだけ。
現在、二人の侯爵級が討伐された。
「クリスベノワ様は殺せって言ったけど……どうせなら、ザオレンさんを始末してから殺したいなぁ。そうすれば、ダンジョンの管理も、ぼく一人に任せてもらえるかも」
ボッグワーズはニヤニヤしながら、ダイコンを生で齧る。
「まあ……ここに来た以上、たっぷり楽しませてあげる。パレットアイズ様の機嫌もちょっと悪いし、今回はクリアさせないから」
そう言い、ボッグワーズはダンジョンに配置する魔獣のレベルを上げた。