『地底宝物殿』の財宝①/エレノアとユノの戦い
地のダンジョンこと、『地底宝物殿』に降りるにはどうすればいいか。
エレノアとユノ、バルバーとネクロム、マッパーと荷物持ちの総勢十二名。
準備が終わると、大穴の前に集まった。
「今日は軽い調査だけだ。まぁ、火のダンジョンで経験してると思うが……ここには危険な魔獣も多く出る。宝物殿の財宝を守る番人みてーなモンだ。気を付けろよ」
「「はい」」
「……バルバー、相変わらず子供には優しいね」
「っるせえぞ!! ったく、余計なこと言うな」
バルバーの聖剣は『槍型』だ。
収納から出すのではなく、常に手に持つスタイルらしい。槍を軽く振ると、エレノアたちの身体が『風』の力でふわりと浮き上がった。
「わぁ!」
「おおー、浮いてる」
「このまま下に降りる。暴れんなよ」
バルバーの槍こと『聖槍ロシュナンテ』の属性は『風』だ。部隊長でもあるバルバーの魔法は、人間を十人以上風で浮かべるなど、朝飯前のようだ。
ゆっくりと大穴を降りること五分。ようやく地面が見えた。
エレノアたちが着地すると、そこは大きな洞窟のような入口だ。火と水のダンジョンとは違う、どこか原始的な、人の手が入っていない入口に見えた。
「ふわあ」
「洞窟……ここが、ダンジョン?」
「ああ。いいか、気ぃ抜くんじゃねえぞ? ここはダンジョンでの中でも難易度は低いが、魔獣も出てくるし、トラップもある」
「は、はい」
「ん」
エレノアとユノは頷いた。
バルバーは「チッ」と舌打ちして先に進む。すると、ネクロムがエレノアたちにボソッと言った。
「もうわかると思うけど……バルバー、きみたちのこと心配してるだけだから。今のも、『魔獣に気を付けて』って意味だからね」
「はい、わかってます」
「怖いけど優しい」
「うん」
ネクロムは、ほんの少しだけ笑った。
エレノアは、バルバーとネクロムはわかりにくいが、信頼できると感じた。
そして、ユノに言う。
「ユノ、気合入れていくわよ」
「うん」
二人はダンジョン内へ歩き出し、ネクロムがその後に続いた。
◇◇◇◇◇◇
ダンジョン内は、洞窟なのに明るい。
天井に吊るされた鉄の籠で、薪が轟々と燃えているのが見えた。
そして、洞窟に入るなり現れたのは……小さな、茶色い肌を持つ小鬼。
エレノアたちを見て、手に持った棍棒を振り回し始めた。
「ダンジョンゴブリン。ま、雑魚だが……どれ、やってみろ」
「はい!」
「ん!」
エレノア、ユノが聖剣を抜く。
エレノアは両手持ちの剣、ユノがレイピアだ。
ユノの周りに冷気が発生し、エレノアの剣の刀身に炎が燃える。
「…………ふむ」
「なるほどね」
バルバー、ネクロムがそれを見て何かを感じていたようだが、エレノアたちは見えていない。
ダンジョンゴブリンは二匹。それぞれ一匹ずつ相手をする。
「燃えろっ!!」
「貫け」
エレノアが剣を振ると、炎が刃のように飛ぶ。
ユノが剣を突き出すと、氷の塊が槍のように飛んだ。
ダンジョンゴブリンは燃え上がり、氷の槍が突き刺さり討伐され、光となって消えた。
「なるほどな。まだまだ課題は多い」
「え……」
「ネクロム、おめーはそっちの青い方を見ろ。オレはこっちの炎聖剣を見る」
「わかった」
二人がポカンとしていると、バルバーがエレノアに言う。
「とりあえず、聖剣の力と剣技を半々で出してみろ」
「え……」
「今のは、聖剣の属性である『火』を増幅させて放っただけだ。それじゃあ駄目だ。いいか、七聖剣ってのは、オレらが使う模造聖剣のルーツとなった武器。未だに全貌が解明されてねぇ……わかってんのは、変形機構があるのと、魔法を増幅させる力があるってことだけだ」
「魔法を、増幅……?」
「ああ。模造聖剣とは比べものにならねぇ出力で魔法を使える。お前、魔法は……ああ、新人だもんな、まだ使えねぇか。じゃあ……とりあえず、変形できるようになるところからだ。ちなみに、ロスヴァイセのやつは、聖剣に触れて四日目で一つ目の変形をさせたぜ」
「え」
ロセ会長、どれだけ規格外なのか。
エレノアは苦笑い。すると、バルバーは槍で通路の先を差す。
「ほれ、また来たぞ」
「え……うわぁ、またゴブリン」
「模造聖剣には変形機構がないから何とも言えねぇが、ロスヴァイセは『イメージを剣に伝える』って言ってたぞ」
「剣に、イメージを?」
「ああ。お前は、その炎聖剣に何を望む? その望みを剣に込めて戦ってみろ。いいか、剣技に頼りすぎるな、剣の力に頼りすぎるな。自分の力を信じて戦え」
「…………」
エレノアは、炎聖剣を構える。
確かに、今までは炎聖剣の力に頼りすぎていた。身に付けた技に頼りすぎていた。
それがダメということじゃない。
大事なのは、エレノアがどう戦いたいか。
剣技だけを使い戦い、ベルーガに敗北した。だから聖剣の力だけを使い戦ったらロセ会長に『聖剣に頼りすぎ』と言われた。
なら、どうすればいい?
「…………ああ、そっか」
聖剣だけじゃない。
剣技だけじゃない。
エレノアが鍛えた技と聖剣で戦えばいい。
ティラユール流剣術は、力強い轟剣。それに炎聖剣の力を載せる炎の剣技。
見えた気がする。
『ギャァァッハッハッハッハッハ!!』
エレノアに向かって、ダンジョンゴブリンが向かって来る。
数は五。横一列になり、手に棍棒を持っている。
エレノアは、炎聖剣を横に構えた。
すると、刀身が割れ、柄が伸びる。
縦に割れた刀身部分から、超高熱の炎が噴き出した。メラメラと燃えるのではなく、噴射のような、まるで炎が固まって剣となったような。
「『炎聖剣・第二形態』」
バーナーブレード。
超高熱の刃となった『炎聖剣フェニキア』を横一線。
ダンジョンゴブリンは、一瞬で燃え尽きた。
「上出来だ」
バルバーは、ニカッと笑って親指を立てた。
◇◇◇◇◇
「大事なのは、イメージ」
ユノは、頭の中でイメージしていた。
レイピアーゼ流細剣術。レイピアーゼ王家に伝わる、『突き』を基本とした剣技。
そして『氷聖剣フリズスキャルヴ』はレイピアだ。突くことに特化している。
だが、よく見ると……氷聖剣は、突くだけではない。刀身が細身で先端が尖っているだけで、ちゃんとした刃もある。
つまり、斬ることもできるのだ。
「斬るのは、苦手」
ユノは、レイピアーゼ王国の王女。
代々、氷聖剣に選ばれてきた家系。でも……本当は、違う。
本当の両親は、幼い頃に死んだ。そして、ユノを引き取ったのが、両親の遠縁の親戚である、今の父親。
その父親が、レイピアーゼ王家の末席だったので、ユノも王族ということになっている。
父は、豪快な人間だった。
武器を持たず素手で戦うことを得意とし、細い剣でチマチマ突くレイピアより、「叩き潰す斧の方が強いぞ!」とユノに言っては笑わせてくれた。
戦い方も、教えてくれた。
レイピアーゼ流細剣術は、王家のしきたりだからと習わされたが、本当は父が教えてくれるいろいろな武器の扱い方のが、楽しかった。
中でも、ユノが気に入ったのは。
「来たよ」
ネクロムが通路奥を指さすと、ダンジョンゴブリンのが群れで向かってくる。
ユノは無言で前に出ると、レイピアを構えた。
「『氷聖剣・第二形態』」
ユノが剣を振ると、細い刀身がバラバラになる。
自壊───……ではない。バラバラになった刀身は、細いワイヤーのようなもので連結されていた。
鞭剣。ユノが得意だった武器の一つ。
鞭剣を頭上でクルクル回転させ、向かってくるダンジョンゴブリンの一匹に向けて投げる。
『ギィィッ!?』
「捕まえた───……凍れ」
すると、ダンジョンゴブリンが一瞬で凍り付いた。
ユノは、魔力操作で身体強化。そのままダンジョンゴブリンを持ち上げて手元に引き寄せ、鈍器のように振り回してゴブリンたちを薙ぎ払う。
凍り付いたゴブリンたちは砕け散り、氷の結晶がパラパラとユノの頭上に降り注いだ。
「これ、いいかも」
ユノはクスっと笑い、初めて『氷聖剣』を理解できた気がした。
「……上出来だね」
ネクロムもウンウン頷き、こちらを見ていたバルバーと目を合わせ、互いに頷き合った。





