エレノアとユノ
エレノアは、ユノと一緒に城下町で買い物をしていた。
聞けば、ユノはあまり私服を持っていないそうだ。ファッションに興味がないのか、氷聖剣に選ばれた時に用意された普段着を数着しか持っていなかったのだ。
ロイと話をすることも考えたのだが、古着を着て寮内でぼーっとしているユノを見て、エレノアはどうしても我慢できなかった。
というわけで、ユノとエレノアは城下町の服屋でショッピング中。
「そうねぇ……ユノは綺麗な青髪だし……うーん、青と言うよりは水色かしら? 白系統のワンピースとか似合いそう。ね、いろいろ試着してみよっか」
「うん。なんだか女の子っぽいね」
「いや女の子でしょ……いくら聖剣に選ばれたからって、お洒落とか捨てちゃダメよ」
「エレノア、こういうの得意?」
「得意というか、ママ……お母様の教えなのよ。パパはあたしを騎士として育ててくれて、ママは騎士になっても、女の子としてお洒落とか料理とかできるようになっておきなさいって、いろいろ教えてくれたの」
「…………そうなんだ」
「ユノは?」
「わたし、いない」
「え?」
「パパとママ、わたしが生まれてすぐに死んじゃった」
それだけ言い、ユノは店に飾ってあった麦わら帽子をかぶる。
エレノアは、それ以上深く聞いてはいけないような気がして、小さく「ごめん」と謝った。
そして、ユノは言う。
「でも、わたしを育ててくれたパパは大好き」
「そうなんだ……」
「うん。クマみたいな人」
「く、くま?」
「すっごく毛深くて、むきむきで、髭モジャで、素手でシカの首をへし折って解体するのが得意なの」
「へ、へぇ~……」
別の意味でコメントに困った。
どういう父親なのか。ユノの出身はレイピアーゼ王国で、極寒の大地とは知っているが……なんとなく、モジャモジャした大男を想像するエレノアだった。
服や帽子、靴などを大量に買い、寮に届けてもらうように手配する。
ひと段落すると、お腹が空いてきた。
「ね、お茶にしない? クラスの子に聞いたんだけど、この近くに新しいカフェがオープンしたんだって」
「甘いの食べたい。いく」
「じゃ、行きましょっか!」
二人は仲良く、カフェに向かって歩き出す。
今更ではあるが、エレノアとユノは美少女だ。
エレノアは、真紅の髪をポニーテールにして、服装はボーイッシュ系のシンプルなシャツとスカート。腰には炎聖剣フェニキアを下げている。
ユノは、買ったばかりの白系ワンピースに、麦わら帽子。腰には氷聖剣フリズスキャルヴを下げていた。
エレノアはスタイル抜群、ユノは幼さが残るスタイルと対照的だ。つまり……二人が聖剣を持って歩いていると、とんでもなく目立つ。
ヒソヒソと、どこか値踏みするような視線を感じていると、カフェに到着。
ちょうど店内の窓際隅の席が空いていたので、二人で座った。
「とりあえず、カフェオレとホワイトケーキで!」
「わたし、ケーキ全種類」
「え、ちょ……マジ?」
この店のケーキは二十種類ほど。その全てが運ばれ、テーブルに並べられた。
ユノは、今日一番の笑顔でケーキをモグモグ食べ始める。
さすがのエレノアも、見ているだけで胸やけした。とりあえずユノを見ず、自分のケーキを食べる。
「ん、おいし……さっすがトラビア王国のケーキ」
「おいしい、おいしい」
すでに七皿目のホールケーキを食べ始めているユノ。
エレノアは、もうケーキを気にせずユノに言う。
「そういえば聞いた? あたしとユノと殿下の三人に、専属の教師が付くんだって」
「聞いた。授業後に、聖剣の使い方を教えるって」
「……確かに、必要よね」
エレノアは、テーブル脇にある『聖剣用スタンド』に立てかけてある炎聖剣フェニキアを見る。
ちなみに王都にある全ての飲食店には、聖剣を置くスタンドの設置が義務付けられている。
「あたし、まだ剣に炎を纏わせるくらいしかできないわ」
「わたしも……ほんの少し、氷を出すだけ」
「殿下も、剣を光らせるくらいしかできないみたい。聖剣使いが七人そろったって言っても……あたしたちは、まだ全然だしね」
七人いる、女神の聖剣の所有者。
そのうち、三人が選ばれて一年未満だ。他の四人はすでに能力を覚醒させていると聞く。
「あの魔界貴族……ベルーガだっけ? あいつ、あたしたちの技を全部避けて、受け止めてたよね」
「うん……剣術も、全然通用しない」
「何もかも、足りないわ」
聖剣の力も、剣術も、何もかもが未熟。
ずっと剣を振るってきた。でも……それだけじゃダメだと、思い知った。
「ユノ、もっと強くなろうね」
「うん」
「それに、あたしたちには───っ、っ、??? あれ?……あ」
ロイとデスゲイズが付いてる。
そう言おうとしたら、声が出なかった。
デスゲイズに関することは言えないようになる呪いのせいだ。
「どうしたの?」
「あ、なんでもない。あはは」
「?」
ユノは小さく首を傾げ、いつの間にかケーキを完食していた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
午前の授業が終わり、午後は剣術授業。
ロイは、木刀の柄に触れる。
「剣は握れなくても振れる。ありがたいんだか、ありがたくないんだか」
すでに、剣は捨てたロイ。
剣術授業は、捨てた剣に対する僅かな未練が蘇るような気がして、正直嫌だった。
すると、オルカがロイの傍に来た。
「あ~……最近の剣術授業、滅茶苦茶キツいよな。シヴァ先生、一年生が狙われたって知ってから、訓練に熱が入りすぎちまってるし」
「わかる。まぁ俺は落ちこぼれ呼ばわりされてるから、あんまり気にならんけど」
ロイとオルカは一緒に訓練場へ。
そこにユイカが合流。さらに、ユノも合流した。
この四人でいることが自然と多くなり、最初はユノに緊張していたオルカもよく喋るようになった。
「そういやユノちゃん、噂で聞いたんだけど、特別授業受けるってマジ?」
「まじ」
「へー、すげぇなぁ……誰に教えてもらうんだ?」
「生徒会長」
「マジで!?」
オルカの驚きが半端ではなく、ロイもユイカも驚いた。
ユイカはユノに聞く。
「生徒会長って、地聖剣の!? すっごぉ……」
「有名なのか? 俺、よく知らん」
「ばっか!! ロイのバッカ!! 生徒会長さんはね、聖剣を手に入れて三年しか経ってないのに、魔界貴族を何人か倒して、ダンジョンの一つを攻略してるのよ!? なかなか学園にいないって話だけど……」
「ああ、入学式にいた人か」
ロイは思い出す。そういえば、入学式にゆるふわウェーブヘアの少女がいたような気がした。
ユノはロイに言う。
「生徒会長、わたしとエレノアと殿下を鍛えるって」
「そうなのか……大変そうだな」
「でも、強くなれる。わたしも、エレノアも」
「…………うん」
ユノは、強い眼差しでロイを見つめた。
なら、ロイがすべきことは……前を向いて戦う聖剣士たちの背後から、弓で援護すること。
「がんばれ、ユノ」
「うん」
ロイは、学園が終わったら弓の訓練をしよう、そう思った。





