エピローグ①/三年経過
人類、魔族の戦い……『聖魔大戦』から三年が経過した。
人々の傷も癒え、変わらない日常が戻っている。
トラビア王国、聖剣レジェンディア学園もまた、変わらない日常を過ごしていた。
「……ふぁぁ」
「おいロイ、寝不足か?」
「うっさいな……」
「フフフ。毎晩求められる身としては辛いなあ?」
「だから、うるさいっての」
ロイは、聖剣レジェンディア学園を卒業後、トラビア王国郊外にある農村に移り住み、今は山奥にある大きな家で狩人として暮らしていた。
本当は、小さい家でよかったのだが……『嫁たち』が『狭いのは嫌』というので、けっこうな金をつぎ込んで作らせた屋敷であった。あまり存在感がありすぎるのは相応しくないので、目立たないよう、山奥で木々に擬態するような家にしている。
今日も狩りを終え、獲物を屋敷内の解体場に持っていく。そこには赤毛の虎がいた。
『お帰り、今日の獲物は?』
「でっかい鹿。肉は保存して、ツノと毛皮は村に卸して、内臓はお前のオヤツだ」
『やった。解体、手伝う』
シェンフー。
三年前の『聖魔大戦』でパレットアイズから力を施され人間の姿になった。そのまま魔界に帰るのかと思いきや、ロイの傍でペット兼狩りの補佐として暮らしている。
今は、屋敷の管理や料理などもしてくれる。捕らえた獲物の内臓はシェンフーのオヤツだった。
ロイは、飛びついてきたシェンフーを撫でる。
「よーしよし。ところで、みんなはまだか?」
『うん。エレノアとユノはあと数日、アオイは明日には帰ってくる……って話だけど、どうせいつも通り予定延期になる。絶対帰ってこない』
「じゃあ、今日も俺とデスゲイズとお前だけか。そうだな……燻製肉とチーズのサンドイッチでも作るか」
『いいねー』
「うむ。肉は多めで頼むぞ」
エレノア、ユノ、アオイ。
七聖剣士であり、トラビア王国の『英雄』である彼女たちは、学園卒業後は七聖剣士として、トラビア王国最強の剣士として剣を振るっている。
エレノアは砂漠王国で、ユノは故郷の氷結王国、アオイも故郷で聖剣士として仕事をしていた。
「……あいつら、大変なのはわかるけど、無理しないといいな」
「はっはっは。我輩としては、お前を独り占めできるから帰ってこなくてもいいがな」
「それ、エレノアに言うなよ……また喧嘩になるぞ」
「うむ。さて、メシだ。その後は……ふっふっふ。愛人の責務を果たそうかな」
「……お、おう」
「シェンフー、人の姿になれ。お前もケモノらしくご奉仕しろ」
『わかった』
これが、ロイの日常。
デスゲイズを相棒に狩人としての暮らし。
ぶっちゃけ、働かなくても生きていけるだけの蓄えはある。だが……ロイは、夢だった狩人としての人生を楽しんでいる。
◇◇◇◇◇◇
ロイの屋敷の庭には、畑もあった。
近くの村で買った苗を植え、シェンフーと二人で手入れをするのが日課となっている。
ちなみに、早朝なのでデスゲイズは爆睡していた。
「ロイ、野菜いっぱい収穫できるね」
「ああ。またオルカの宿に持って行こう」
オルカは、トラビア王国領内にある小さな町で、宿屋を始めた。
三年前の大戦で、避難所を守るために奮闘したのだが、そのときたまたま町の宿屋のおじいさんがいて、オルカに救われた礼として、自分の経営していた宿屋をそっくりプレゼントしたのだ。
そのおじいさんは現在、王都の息子夫婦の元で暮らしているらしい。
「まさか、聖剣士であり宿屋の主人とはなあ……ユイカも一緒だし」
「そういえば、子供そろそろって言ってたかな」
ユイカは、オルカの宿の手伝いをすると言い、卒業後にそのまま同棲開始、すぐに結婚した。
現在妊娠中。オルカは、宿屋の主人として働き、町を守る聖剣士でもある。けっこうな人気宿となっており、夫婦ともども忙しいそうだ。
「ロイ、子供欲しい?」
「まあ、欲しいかなあ……でも、みんな七聖剣士として忙しいだろ? ただでさえ、俺と結婚したこともよく思われてないし……」
まさか、トラビア王国の英雄である七聖剣士の三人が、同級生のよくわからない狩人の元へ、学園卒業と同時に嫁ぐなんて思いもしなかった。
ロイが『八咫烏』であり、七聖剣士を援護した伝説の弓士ということは知られていない。少し前に知ったのだが……八咫烏についての憶測本や、演劇なども行われているそうだ。
シェンフーは言う。
「でも、みんな幸せそうだぞ。お前のこと大好きだしな」
「……うん。そうだな」
「あたいも、お前のこと大好きだぞ。いっぱい可愛がってくれるしな」
シェンフーはにっこり笑う。
虎として撫でまわすこともあれば、女として可愛がることもある。
もちろん、嫁公認……今日はモフモフの虎の姿で、思いっきりモフろうと決意したロイであった。
「よし、収穫終わり。さて……久しぶりにトラビア王国に行かないとな。野菜、オルカに届けないと」
「じゃあ、あたい留守番してる。デスゲイズ様と行ってきなよ」
「ああ、そうするよ。今夜はいっぱいモフってやるからな」
こうして、ロイは久しぶりにトラビア王国へ行くのだった。





