止まない雨、詩が終わる時
七魔剣士は、魔剣を奪われ、全ての魔力を吸い尽くされ、今や立つこともできなかった。
デスゲイズが魔力の鎖で拘束し、七人を『聖域』の扉に放り込むと、どこかに向かって歩き出す。
エレノアが首を傾げた。
「ね、どこ行くの?」
「……いいから、来い」
「あ、うん。ね、あんたさ……封印、解けたんでしょ? こうして実態もあるしさ、よかったじゃん」
「…………」
デスゲイズは歩き出す。
エレノアはもう一度首を傾げて隣に並び、ユノ、アオイも続いた。
その後ろを、ロセたちが続く。
「忘却、快楽、嘆き、愛の四大魔王より前に、大罪の魔王デスゲイズが存在した……って、聞いたことある?」
「あるわけねーだろ」
「アタシも。エルフの里ならなんか情報あるかな。ね、サリオスも王家の書庫とか調べてみてよ」
「は、はい。それにしても……エレノアたち、友人みたいに接してますね」
スヴァルトは「フン」と鼻を鳴らす。
「知ってやがったみてぇだな。ってか、あんな隠し玉あるなら最初から出せってんだ」
「……そうできない理由が、あったのかも?」
「あぁ?」
「あの強さ、私たちの常識を超えているわ。もし、あの力を自由に振舞えるのだとしたら、最初から四大魔王がこの世界で暴れることもなかったわねぇ」
「聖剣を生み出した魔王、ってのもすごいよね。アタシも驚き」
「…………」
サリオスは、デスゲイズの背中を見て、ポツリとつぶやく。
「……なんだか、悲しい背中に見えるのは気のせいかな」
◇◇◇◇◇◇
そこは、ありふれた雑木林の中だった。
歩いているうちに、雨が降り出した。
小雨だが、やがて本降りとなり……周囲に雨音が響く。
「嘘」
一本の枯れ木にもたれかかっていたのは、八咫烏だった少年。
割れた仮面、砕けた弓、夥しい血……そして、安らかな寝顔。
「ロイ?」
エレノアが、いつものように呼ぶ。
こんなこともあった。
狩りを終え、欠伸をして、木にもたれかかり、そのまま寝る。
エレノアが近づくと飛び起きるが、一緒にいる時に寝ると起きない。
こうして近づけば、飛び起きるはずなのだ。
「ロイ?」
でも、起きない。
当たり前だった。
もう、冷たくなっていた。
命が、尽きていた。
「…………遅かったね」
傍には、セレネがいた。
ロイに寄り添っていたが、エレノアたちは見ていない。
「なんで?」
光の消えた目で、エレノアが呟く。
ユノも、アオイも同じだった。中途半端に口を開けたまま、声が出せない。
デスゲイズが言う。
「ロイは、ササライの不意打ちで致命傷を負い……最後の力で、我輩をも超える『聖域』を展開し、聖剣士たちの援護に徹した。今、王都が無事なのは間違いなく、ロイのおかげだ」
雨が降り続ける。
全員、びしょ濡れだった。
「ろ、ロイが……八咫烏」
「ロイくん……」
「マジ……?」
「……ケッ」
サリオス、ロセ、ララベル、スヴァルトも驚いていた。
デスゲイズが続ける。
「ロイは、死の間際……我輩の封印を解く方法を見つけ、命懸けで実践した。我輩に……お前たちを救ってくれと頼み、な」
「……嫌」
泥まみれになるのも構わず、エレノアが地面に崩れ落ちた。
そして、四つん這いになり、這ってロイの元へ。
ロイの冷たい頬に手を添えると、涙腺が決壊した。
「いや、いやあああああああああああああああ!!」
その叫びを聞き、ユノも顔を歪め大泣きした。
アオイも涙を流し立ち尽くす。握った拳から血が出るが、どうでもいい。
「どうして、どうして……ロイ、終わったんだよ? もう戦いは終わったの、なんで? なんで目を開けないの? なんで……」
エレノアが縋りついて泣く。だが、ロイが目を覚ますことはない……永遠に。
ロセも目元を押さえ、サリオスは俯き、ララベルは目を逸らし、スヴァルトは無言だった。
「……ロイ、うぅぅ」
ユノも、ロイに縋り付いて泣いた。
アオイも、ロイの傍で泣いた。
デスゲイズは……そんなエレノアたちを見て言う。
「不思議だ。あんなにも憧れた自由。外の世界……だが、なぜこんな空っぽなんだ」
デスゲイズは空を見上げる。
まるで、今の自分の……いや、エレノアたちと同じ、心が曇っている。
自分の胸に手を当て、言う。
「全く、お前は本当に……困ったヤツだ」
「……え?」
デスゲイズは、ロイに近づく。
エレノアたちがそっと離れると、ロイの傍にしゃがみ込む。
「お前は言ったな? 外に出たら、美味いモノいっぱい食えと……でも、一人じゃダメなんだ。お前がいないと、我輩は満足できない。まったく……お前は本当に恐ろしいな。この大罪の魔王デスゲイズの心すら、射止めてしまったのだから」
デスゲイズは、ロイの胸に触れる。
「お前を選んだことは、我輩にとって幸運だった……間違いなくな」
デスゲイズは微笑み、エレノアたちに言う。
「……お前たち三人には、悪いことするな」
「「「え?」」」
そして、デスゲイズは……ロイの亡骸へ、そっと手を伸ばした。





