それは君の愛の奇跡②/聖剣士の援護
劣勢だった。
オルカ、ユイカの二人は、傷だらけになりながらも戦いを続けていた。
着ていた鎧もボロボロになり、すり傷、切り傷が増え、疲労回復効果も少しずつ薄れ……それでも、戦いを続けていた。
オルカは、ユイカに言う。
「なあ……まだ、やるか?」
「……やるしか、ないじゃん」
魔獣の数は、増え続けていた。
オルカ、ユイカだけじゃない。トラビア王国城下町では、一年生、二年生と関係なく、聖剣を持つ者はみんなが戦っていた。
どこもかしこも、同じ。傷つき、倒れた者も多くいる。
二人は、寄り添うように崩れ落ちた。
「わり……なんかもう、疲れたわ」
「……頑張ったかなあ」
「ああ。きっとな……オレ、最後は聖剣士、ちゃんとやれたかな」
「あたしも……ふふ、最後がアンタとなんてね」
「嫌か?」
「別に? そんなに悪くないかも」
避難所からは離れた。きっと、ここで倒れても他の聖剣士たちが戦いを引き継ぐ。
自分たちの死は、無駄ではない。
ユイカは、オルカの手をギュッと握った。
「ありがとね」
「……ああ、オレも感謝だ。宿屋、やりたかったなあ」
魔獣が二人に迫る。
不思議と、穏やかな気持ちでユイカとオルカは目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
『諦めんなよ、二人とも!!』
◇◇◇◇◇◇
すると、迫っていた多くの魔獣たちに、大量の『矢』が突き刺さった。
どの矢も、正確に核を打ち抜いている。
そして、二人の前に現れたのは。
「……ろ、ロイ?」
『おう。ほら、まだやれるって……な?』
「……え?」
すると───……二人の全身に力が湧いてきた。
身体が軽く、疲労が抜け……そして、全身を魔力が包み込む。
鎧が学園の制服に変わり、ケガも消えた。
「うお……な、なんだ!?」
「か、身体、軽っ!! すっご!!」
『まだやれるな? 俺が援護するから、押し返すぞ!!』
八咫烏のロイが弓を構え……オルカが気付いた。
「お前、ロイなのか? なんか……半透明じゃね?」
ロイの身体が、半透明に透き通っていた。
実体のないロイが現れ、オルカとユイカを救った。
ロイは言う。
『俺の真なる魔王聖域の力だ。トラビア王国を守るために、俺が……八咫烏が、聖剣士たちの援護をする!!』
聖剣覇王七天虚空星殿・神閻天蓋
聖剣士を援護するための、最強の聖域。
ロイの意識を無数に散らばせ、聖域内にいる聖剣士のサポートをする聖域。
その規模は、トラビア王国全域を包み込む。城下町内、そして城壁の外で戦っている聖剣士たちは全員、その力を感じていた。
八咫烏の援護……それにより、魔獣たちを一気に押し返し、さらに聖域の効果で身体能力が爆増している。戦局はいきなり変わった。
◇◇◇◇◇◇
「これって……」
「まさか、あいつの」
パレットアイズ、シェンフーも、ロイの聖域を感じていた。
聖剣士ではないのでサポートはない。だが、半透明の八咫烏が二人の前に現れた。
『パレットアイズ、シェンフー……ありがとな、みんなのために戦ってくれて』
「……あんた、マジで何者? 人間が、こんなバカみたいな規模の聖域を展開するなんて……魔王宝珠があったころのアタシでも、こんな緻密なレベルの聖域を国を覆うほどの規模で展開するなんて不可能なのに……!!」
『ま、いろいろ犠牲にしてるからな。でも……これで流れは変わる。きっと、トラビア王国は救われる』
「……ロイ」
『シェンフー? はは、立派になって。トラに戻れるのか?』
「……」
シェンフーは察した。
いろいろ犠牲にした、それが何を意味するのかわかっていた。
パレットアイズも気付き、ため息を吐く。
「……デスゲイズは?」
『大丈夫。あいつは、必ず解放する。それとパレットアイズ……頼みがある』
「なに?」
パレットアイズは、ロイの頼みを聞き仰天した。
シェンフーも同じだった。まさかロイが、そんなことを言うとは思わなかった。
「……それ、本気なの?」
『お前にしか頼めないよ。それに……お前なら大丈夫だって思うからさ』
「……はあ。まあ、いいけどね。あたしも……同じ気持ちだし」
『そっか。じゃあ……あとは頼む』
「ええ。元、魔王として誓う……トラビア王国は守るわ。このパレットアイズの名に懸けて」
ロイは頷き、仮面を外し……笑顔を見せた。
その姿が消えると、パレットアイズは舌打ちした。
「ムカつく……ああいう人間は、大嫌い……!!」
「……パレットアイズ様」
「やるわよシェンフー。ああもう……同じ魔族だけど、本気でブチ殺してやるわ」
パレットアイズは、強化した聖剣士でも手に負えない魔界貴族を相手にするため走り出した。





