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聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~  作者: さとう
第七章 君の愛の奇跡・大罪の魔王デスゲイズと虹の彼方

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それは君の愛の奇跡①/命奏でる詩

「…………」

『ロイ、ロイ!! おい、ロイ!!』


 デスゲイズは、本気で焦っていた。

 ロイは、重症だった。

 腹を、胸を杭で刺され、今も出血が止まらない。

 臓器も深く損傷している。このままでは確実に死ぬ。

 デスゲイズのいる『内面世界』では、周囲の空間に亀裂が入っていた。


『まずい、まずい……ロイが死ねば吾輩も死ぬ。封印云々じゃない、ロイの死に吾輩も引っ張られる……もう、どうしようもない』


 周囲には誰もいない。

 ちょうど、トラビア王国とササライの王城の中間地点。

 周囲に何もない平原。助けを求めることもできない。

 デスゲイズは叫んだ。


『くそ!! 誰でもいい、何でもいい!! ロイを助けてくれ!!』


 正体がバレるとか、存在を知られるわけにはいかないとか、そんなこと忘れてデスゲイズは叫んだ。

 魔弓デスゲイズにも亀裂が入る。深い亀裂が入った瞬間、ロイの内面世界にいるデスゲイズは胸を押さえ膝を付いた。


『うぐぁっ……わ、吾輩も、消滅する……ロイ、ここまで、なのか……』

「…………」


 その時……ロイの指が、ピクリと動いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 まどろむ意識の中、ロイはぬるま湯に浸かったような感触だった。


「…………あった、けえ」


 いろいろなことを思いだす。

 ティラユール家での訓練、エレノアとの出会い、一緒の訓練……そして、聖剣かと思ったら粗末な木刀で、それが愛用の弓を飲み込み、ただの趣味だった弓が武器となり、聖剣士を援護する弓士、八咫烏となった。

 

 初めては、学園を襲撃してきた魔族ベルーガだった。

 正直……ただの獲物。魔獣や動物と変わらないなと思った。この程度なら、弓でもいいかな、聖剣士を援護することもできるかな、と思った。

 

 その次は、パレットアイズ。

 王国周辺に現れたダンジョンで、エレノアたちが鍛えながら、ダンジョンを攻略していた。

 正直、学生と八咫烏の両立は厳しかった……が、悪くなかった。 

 デスゲイズとも、打ち解けることができた。


 その次は、トリステッツァ。

 極寒の国に現れたトリステッツァをみんなで倒した。ユノの故郷を守ることができてよかった。

 初めて、死ぬかもしれないと思い、全力の『魔王』相手に戦った。

 負けるかもしれないと本気で思い……もっと強くなりたいと思えた。


 その次は、バビスチェ。

 直接的な攻撃より、ロイの周りをかき乱すような攻撃が多かった。

 アオイとも知り合えた。女だと知った時は驚いた。

 聖剣の秘密や、デスゲイズのことをもっと知れた。今ではもう、デスゲイズは立派な相棒だ。

 バビスチェを倒し、世界の平和がまた近づいた。


 そして、ササライ。

 最悪の魔王。全てはササライのシナリオ通りだった。

 魔王宝珠を全て取り込むため、至高の魔王になるために、聖剣士たちを滅ぼさず、魔王を倒せる聖剣士を育てるのが、ササライの目的だった。

 その目的は果たされ、三人の魔王が討伐され、全ての力をササライが取り込み……ササライは真の『ゲーム』を、シナリオが決まったゲームを始めた。

 七聖剣士を模した七魔剣士との戦い、そして今……七聖剣士たちは、ササライに最後の戦いを挑んでいる。


 ロイの役目は終わった。

 七聖剣士を、ササライの元に送る。最後はきっと、七聖剣士が魔王を倒す。

 援護は、もういらない……この世界はきっと、平和になる。

 そう思い、眼を閉じようとした。


 ◇◇◇◇◇◇


『ロイ!!』


 ◇◇◇◇◇◇


 だが……聞いてしまった。

 デスゲイズ。四大魔王の前に存在した、もう一人の魔王。

 バカで、何かあればすぐ『女を抱け』とか、変なことばかり言う。

 でも、相棒だ。

 ロイの、大事な、愛しい『弓』の声が……今にも泣きそうな声が、響いていた。


「…………ぁ」


 まだ、ロイにはやるべきことがあった。

 震える指を動かし、今にも止まりそうな心臓の鼓動を確認する。


「……ま、だ」


 デスゲイズを。相棒を。ロイの弓を。

 

「……解放、する」


 人間くさい、愛を知っている最強で最悪でふざけた、大罪の魔王デスゲイズを、弓から解放する。

 それが、ロイの最後の仕事。


「……ふぅ」


 魔力を全身に循環させる。

 筋肉を魔力で操作し、大きく空いた穴を閉じる。

 失血は止まった。ロイはゆっくりと立ち上がる。

 命が燃えているのがわかった。


『……ろ、ロイ?』

「デスゲイズ。俺は、最後までやるよ。この世界を守って、お前を解放する」


 目を閉じると、聞こえてくる。

 エレノアたち七聖剣士の声。そして、トラビア王国で戦う聖剣士の声。

 トラビア王国は劣勢。魔獣が、人間たちを押している。


「……俺、わかったんだ。本当の、俺の……」


 ロイは手を合わせ、祈るように交差させた。


「『魔王聖域(アビス)』展開」


 ロイから、あり得ない量の魔力が噴出した。

 驚愕どころではない。一人の人間が出す魔力ではない。

 だからこそ、デスゲイズは気付いた。


『ま、まさか……命を燃やしているのか!? バカなバカばバカな!? ロイお前、死ぬぞ!? 下がれ、下がって治療を』

「お前がまともなこと言うの、初めてかもな」


 ロイは苦笑し、静かに言った。


「俺は聖剣士を援護する。八咫烏のロイ……さあ、トラビア王国を守る聖剣士たち、一緒にやろう!!」


 トラビア王国全体を、ロイの魔力が包み込んだ。


「『聖剣覇王七天虚空星殿せいけんはおうしちてんこくうせいでん神閻天蓋しんえんてんがい』」

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〇聖剣が最強の世界で、少年は弓に愛される~封印された魔王がくれた力で聖剣士たちを援護します~
原作:さとう
漫画: 貞清カズヒコ
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