聖剣が最強の世界で②/互角
ロセは再びグレコドローマと対峙、手には大槌を持ち、ニコニコ笑う。
グレコドローマは首を傾げた。
「ふむ、なぜ笑う?」
「いえ、なんだか不思議でして。一人じゃないと、こうも力が溢れるんだなぁ~と」
「んー、意味不明だなあ。こうして集結しようと、戦うのは自分、己の力で戦うものだろう?」
「そうですね。でも、傍に仲間がいるだけで出せる力もあるんですよ? ほぉら」
すると、グレコドローマの背後、チェンソーエッジを手にしたスヴァルトが、凶悪な笑みを浮かべながら剣を振り下ろしてきた。
少し目を見開くグレコドローマ。だが、チェンソーエッジの一撃を腕で受ける。
ギャリギャリギャリ!! と、チェンソーが高速回転。強靭な皮膚を持つグレコドローマだが、その回転する刃に初めて皮膚が傷ついた。
そして、ロセが急接近、大槌が『ハンマーガントレット』に変わる。
右腕に巨大な『ハンマー』をくっつけ、全力でグレコドローマの顔面を殴りつけた。
「『ドワーフ・ハンマーブレイク』!!」
「ぬぐっ!?」
ドゴン!! と、グレコドローマの顔面にハンマーが叩き付けられ、鼻血が出た。
グレコドローマは青筋を浮かべるが……すでにロセはヴェンデッタに向かっていた。
「おのれ、小癪……!!」
「『シャイニング・エッジ』!!」
「ぬがぁ!?」
ロセばかり見ていたせいか、すぐ真横にいたサリオスに気付くのが遅れ、双剣による斬撃をモロに受けた。
サリオスは言う。
「これはチーム戦!! 一対一じゃない、七対七ってことを忘れるな!!」
「小僧……舐めるなぁ!!」
いつもニコニコしているグレコドローマだが、この不意打ちのような、『卑怯』な戦法にイライラし、大槌を振り回そうとする……が。
「ちょっと、危ないですわ!!」
「貴様、周りを見ろ!!」
「ええい、やかましい!! ワシより弱い雑魚がイキるなぁ!!」
アミュ、サスケが傍にいたが完全に無視。そのまま槌を振り回す。
チームワークも何もない。
その様子を見て、ライハが軽く舌打ち……そして、アオイの抜刀術を鞘で受けた。
「チーム戦慣れしていないとは、七魔剣士……ただの個人の集まりのようだ。フン、失望だな」
「言いますねぇ……ですが、お忘れですか? 私たち、そしてあなたたちの差」
「…………」
アオイは離れ納刀、全身を帯電させライハに突っ込む。
同じく、ライハも全身を帯電……構えからの斬撃を繰り出した。
「久世式帯刀剣技、『閃雷華』!!」
「道明寺流剣技、『雷雲崩』」
雷の華が咲き、雷雲を拭き散らす斬撃が衝突……互角。
アオイは目を見開く。
「その技……道明寺流だと」
「あはは。バレましたね……お初にお目にかかります、道明寺雷葉と申します。久世葵殿」
「暗部の、道明寺……魔族に寝返った国賊か!!」
「ええ。ふふ、まあ……そんなこと、もうどうでもいい。その雷聖剣、どうですか? かつて道明寺家のものであったゆえに、懐かしさを感じます」
「黙れ……!! 道明寺の殲滅は久世家の悲願!! ここで貴様を討つ!!」
「おやおや。そんなに熱くなっていいのですか?」
「ッ!!」
しまった……と、アオイはハッとした。
一対一では不利。七対七で混戦に持ち込むことが勝機に繋がると、打ち合わせすることなく七聖剣士は理解していた。が……ライハにかかりきりになったことで、戦術が崩れそうになった。
アオイは舌打ちし離脱しようとするが、ライハが許さない。
「久世式帯刀剣技、『花散』!!」
「なっ……!?」
自分と同じ剣技。アオイは辛うじて受け止める。
「何を驚きます。久世家に帯刀剣技を伝えたのは道明寺家……あなたの技なら、私も使えるのですよ」
受け止めた……が、アオイの左腕から血が噴き出した。
一撃だけ、躱し切れなかった。
「う、っぐ……」
「皆さん!! 慌てず、冷静に対処を!! さあさぁ、終わらせましょうか!!」
ライハが叫ぶと、七魔剣士たちの目に光が灯る。
「……ヤバイ!!」
エレノアが悟る。
このままでは負ける。混戦だからこそ、チーム戦だからこそ、勝機はあった。
一対一に慣れきった七魔剣士たち。チーム戦なんて想定していないがゆえに、チーム戦に持ち込むことで優勢を保っていたが……冷静になられたら、一対一で対処されたら、エレノアたちは負ける。
そう、思った時だった。
「どこを見ている?」
「ッ!!」
アオイに注視しすぎたエレノアは、グレコドローマが拳を振り上げていることに気付かなかった。
瞬間的に剣を持ち上げるが……剣の腹で受けた拳は、衝撃を完全に殺せず、エレノアを吹き飛ばす。
壁に激突したエレノアは、盛大に吐血した。
「っが、っは!?」
「エレノア!!」
ユノが叫ぶ。でも、ユノの背後にヴェンデッタが。
チームの統率が取れ始めてきた。
このままではまずい……エレノアは叫んだ。
「根性ォォォォォォッ!! 『鎧身』!!」
鎧を纏い、全火力を持って噴射、ユノに接近していたヴェンデッタに、強烈なドロップキック。
「っっ、っづ!!」
「オラララララララララァァァァァァ!!」
爆炎がヴェンデッタを包み込むが、割り込んだアミュの氷で相殺……だが、完全には相殺できず、二人は地面を転がった。
同時に、エレノアの鎧が解除される。
「エレノア!!」
「ユノ、無事? アオイ……」
「……すまぬ。不覚を取った」
アオイは、制服を破り左腕に巻いていた。サラシに包まれた胸が見えているが、気にしていない。
仕切り直しとばかりに、七聖剣士たちは集結、並ぶが……ララベルが膝を付いた。
「おい、ララベル」
「ごめ……なんか、力、入らなくて」
左腕を失い、失血も多いララベルは、この中で一番の重傷だった。
誤魔化しつつ、混戦を利用して立ち回りをしていたが、限界はすでに超えていた。
同じく、ユノ、ロセ、サリオス、アオイ……スヴァルトも、疲労の色が濃い。
だが、七魔剣士たちは、負傷こそしていたが、まだ気力と体力共に十分だった。
「……少し翻弄されたが、やはり限界か」
アークレイは冷静に言う。
そして、七魔剣士の一歩前に出て、魔剣を突きつけた。
「もう、誤魔化しは終わりだ。さて……貴様ら全員の首を……」
と、そこまで言った時だった。
◇◇◇◇◇◇
「…………」
◇◇◇◇◇◇
『忘却王城彼方永久』のテラス、柵の上に……黒い何かがいた。
「───っ!!」
視線を向ける。
アークレイが急に真横を向いたので、全員が向いた。
そこにいたのは、黒いコート、黒い弓、仮面を被った人間だった。
「………………」
八咫烏。
聖剣が最強の世界で、聖剣士を援護する漆黒の弓士が現れた。





