至高魔王ササライ・世界はひとつ②/街での戦い
「うおおおおおおおお!?」
「ちょ、オルカ!! 振り回さないでよ!!」
「わ、悪い!!」
トラビア王国、城下町にて。
現在、大量の魔獣がなだれ込み、城下町警備の聖剣士たちが総出で戦っていた。
そこには、ロイの同級生であり友人のオルカ、ユイカもいる。
二人は背中合わせで、迫りくる魔獣たちと戦っていた。
「おいユイカ、マジでやべえぞ……」
「わかってるわよ……でも、どうしようもないじゃん」
「……だな」
二人は、すぐ近くに避難所があり、ここを放棄したら魔獣たちは戦えない人たちを襲うと知っている。だから、どんなに弱くても、怖くても戦っている。
オルカは、「ははは」と乾いた笑いを出す。
「さっきまで『聖剣士やめる』とか言ってたくせに、いざ剣を握ると……守りたくなっちまう」
「あんたさ、やっぱ向いてると思うよ」
「……え?」
ユイカは、オルカに向かって微笑んだ。
「怖くて聖剣士やめたいなんて、当たり前の感情じゃん。でも……本当に怖くてやめたいなら、剣を捨てて逃げればいい。でも、あんたは戦うこと選んで、ここにいる。それだけできっと、あんたの聖剣は、あんたのこと認めてる」
「……ユイカ」
オルカは自分の聖剣を見た。すると、淡い輝きがオルカ、ユイカを包み込む。
「え、な、なに?」
「……『能力』だ。ハハハ……こいつ、『疲労回復』の能力だって。怪我や病気は治せないけど、溜まった疲れを癒す効果がある。こいつがいれば、死なない限り、怪我して動けなくなるまで戦える」
「なにそれ……今まさに必要じゃん。あんたやっぱり、聖剣に愛されてるわ」
「……なあ、宿屋の主人で聖剣士ってどう思う?」
「ふふ、最高じゃん!!」
オルカ、ユイカの二人は、まだまだ戦えると力を入れた。
◇◇◇◇◇◇
アンジェリーナは、人類の援軍、そして魔界貴族の援軍が同時に現れたことに舌打ちする。
「チッ……ササライ様の演出か。同じタイミングで来るだけで、さらなる混戦となる……!!」
アンジェリーナは、自分に迫る魔獣を両断する。
周りを見ると、もう指示もクソもない。迫る魔獣、魔界貴族を相手にただ戦う。逃げ出す魔獣、魔界貴族もいれば聖剣を捨てて逃げる人間もいた。
アンジェリーナは歯噛みする。
「これも『シナリオ通り』なのか。くそ、こんな戦いのどこが……ええい!!」
アンジェリーナは叫んで指示を出すが、もう陣形もクソもない。
援軍も、いきなり現れた魔獣たちに対処することしかできない。
陣形は崩れている。それは魔獣も同じ。ただ本能のままに暴れるだけで、こうも恐ろしい。
「このままでは総崩れ……」
人間も、魔獣も、魔界貴族も共倒れ。
すでに城下町への侵入も許しており、街中でも被害が出ている。
「どうすれば……」
力が足りない。
アンジェリーナは、つい口にしてしまった。
「バビスチェ様……」
だが……その声は決して、届くことはない。
◇◇◇◇◇◇
城下町では現在、パレットアイズとシェンフーによる『掃除』が行われていた。
「シェンフー、どう?」
「こっちはだいたい片付きました」
シェンフーは、人間の姿なのに四つん這いになり、口に魔獣を咥えていた。
パレットアイズは、十四歳ほどの少女にしか見えないのに、五メートルを超えるゴリラのような魔獣の顔面を鷲掴みにして引きずっている。
「全く、キリないわ」
「はい……まだまだ入り込んでいます。このままだと、押し切られるかも」
「最悪、『魔王聖域』で一掃するわ。とにかく、今は街に入り込んだ魔獣を殺す。そうしないと、人間……」
「……人間?」
「……なんでもない」
人間が傷つく。
そう言おうとしたが、照れくさくて言うのをやめた。
人間の、母親のぬくもりを知ったパレットアイズは、もう人間に危害を加えないと心に誓う。
あのぬくもりだけは、守って見せる。
そのためなら、なんだってする。
「……さてシェンフー、まだまだ狩るわよ」
「はい!!」
シェンフー、パレットアイズは、聖剣士の影に隠れながら戦うのだった。





